人事院が国家公務員の勤務環境を巡り、長時間労働が常態化していることに危機感を強めている。国家公務員の志願者数が減少し、若手の退職者も増加傾向にあるためだ。 【図】国会質問が霞が関の長時間労働につながるわけ
「行政を担う優秀な人材の確保は国家的課題だ。かなり危機的な状況にある」
人事院の川本裕子総裁は28日、仙台市内で開いた地元の有識者らと意見交換する会合でこう強調し、長時間労働の是正など働き方改革を早急に進める必要があるとの認識を示した。
川本氏が最優先課題の一つとして挙げたのが、深夜残業を余儀なくされることが多い国会対応だ。人事院が2022年11月~23年1月、府省庁など44の国の行政機関を対象に行った調査によると、与野党の議員が政府に対して国会での質問内容を事前に伝える「質問通告」が「遅い」との回答が目立った。
政府内では、「ブラック霞が関」とも言われる長時間労働のイメージが定着したことで「国家公務員離れ」につながっているとの見方が多い。
23年度の春の国家公務員総合職試験の申込者数は1万4372人と過去2番目に少なく、倍率は7・1倍で過去最低となった。合格者に占める東大出身者の割合をみると、14年度は23%だったが、23年度は10%にまで低下した。
入省10年未満の退職者も増加傾向にあり、13年度の76人から20年度には109人となった。
元官房副長官で慶応大の松井孝治教授は、「公務員離れに歯止めをかけるため、国会対応を原因とする長時間労働によって、官僚を疲弊させる現状を改めることが大前提だ」と指摘。その上で、中堅・若手の官僚らがやりがいを持てるよう政策決定過程に関与できる議論の場を作ることや、中途採用による組織の活性化を提案する。
国会対応が官僚に過重な負担をかけている問題は、21日に閉会した通常国会でも議論となった。
「(官僚との国会答弁の打ち合わせを)朝の4時から始めていないか」
5月23日の参院内閣委員会。立憲民主党の杉尾秀哉参院議員がこうただすと、後藤経済再生相は「4時から始めたこともある」と認めた。杉尾氏は「働き方改革に逆行している」と批判し、改善を促した。
ただ、国会答弁の打ち合わせが未明に行われる背景には、与野党の議員が政府に対し、質問通告が遅いことがある。
内閣人事局が昨年11~12月に実施した調査では、官僚が国会での質疑を巡り、最後の答弁作成に着手した平均時刻は土日や祝日を挟まない場合、前日の午後7時54分だった。全ての答弁作成を終えた平均時刻は当日の午前2時56分となった。
国家公務員制度を担当する河野デジタル相は杉尾氏から見解を問われ、「質問の通告時間が(前日の)午後8時ではなかなか対応のしようがない。その時点で残業に突入している」と指摘。与野党が質問通告を前倒しすることが欠かせないとの認識を示した。
与野党は20日の衆院議院運営委員会理事会で「速やかな質問通告に努める」と合意したが、自民党中堅は「あくまでも努力目標にすぎない。実効性のある申し合わせを行うべきだ」と語った。