近頃の若者は地元志向が強いという。仲間の家やファミリーレストランに集ったり、ミニバンで近所の大型ショッピングセンターに出掛けたりするのが大好きで、遠出は好まず上京志向もない。隣接する東京に何かと若者の関心を奪われがちだった神奈川県にとって、地域再興のチャンス到来か。そんな彼らを「マイルドヤンキー」と命名した博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さん(37)に聞いた。◇
-いつごろからマイルドヤンキーのような地元志向の強い若者が出てきたのか。
「経済の停滞と若者の上京志向のなさには関係があるとみている。日本経済が停滞し『失われた20年』と呼ばれたこの間に徐々に増えたのではないか。若者の雇用が不安定になり、新しい土地で生活を切り開く経済力がない。都会で就職した先輩は薄給と高い家賃に苦しんでいて、幸せそうには見えないのだろう」
-東京への憧れもなくなった。
「かつては東京でしか得られない情報や体験、商品がたくさんあったが現代はインターネットを通じてほとんどの情報や商品を手に入れることができる。2000年代に入ってからはショッピングモールも林立し、全国どこでも同じようなライフスタイルを送れるようになった。上京しようという気概がなくなったという見方もあるが、東京に出る必要がなくなったという見方もできる」
「経済力がなく、都会に魅力も感じなくなった若者にとって、最も重要なのは地元の友人とのつながりであり、それを維持するためにむしろ『絶対に地元を出たくない』のだ」
-神奈川県のような首都圏の若者たちも“上京”しなくなっているのか。
「15年間で約2千人の若者にインタビューしたが、神奈川のように20分もあれば都内に出られるところに住んでいても、『電車に乗るのが面倒』『どこでも同じものが買える』などの理由で、地元ですべての用事を済ませる若者が増えている」
-若者の地元志向は郷土愛とは異なるのか。
「マイルドヤンキーのような若者が増えていることに、『若者が郷土愛に目覚め、地域共同体が復活するかもしれない』と期待を高める人もいるかもしれないが、残念ながらそれは早計だ。彼らの多くは郷土としての地元が好きなわけではない。新しい人間関係の積極的な開拓や新しい土地での暮らしになじもうとする努力を徹底的に避け、中学時代と地続きの『居心地のよい生活』をキープしたいだけだ」
-どうしたら彼らの地元志向を郷土愛に転換させられるのか。
「都会に出るのが面倒になった若者が地元に残っているだけという状況は、地域としては前進ではない。地域に積極的に愛着を持ってもらうための施策が必要だ」
「例えば地域のスポーツチームは若者も興味を持ちやすく、有効なコンテンツだ。例えば同じ首都圏でも、浦和レッズファンの盛り上がりを見ていると、地縁を超えた郷土愛に近いものを感じる。プロ野球の横浜DeNAベイスターズやサッカーの横浜F・マリノスなど神奈川にはチームが多いので、地元の若者を巻き込んで郷土愛につなげられるとよい」
-地域活動の担い手にはなれるか。
「現代の若者は同世代と密接につながったヨコ社会で生きており、上下の世代との連携はとても苦手。若者を地域活性化に結びつけるには、まずは地域の中高年が意識改革し、若者を理解しようとしなければならない」
-今後もこのような若者が増えるのか。
「マイルドヤンキーはステージ論。経済が成熟すると、どの国でも若者が将来に過度な期待を抱かず、お金も使わない『さとり世代』になっていく。成熟国家ではどこでも同じことが起きており、日本の若者も今後はマイルドヤンキーを含めたさとり世代となるだろう」
-マイルドヤンキーはこれからの消費の主役だと指摘している。地域経済にも生かせるか。
「彼らは地縁をキープすることを前提とした消費は活発なので、地域経済にも活路はある。マーケティングに関わっていると、若者の感覚を取り入れて商品開発した方が結果的に時代に合っていて、上の世代も付いてくる。彼らは時代を先取りしていることが多い」
「若者研究を続けてきて確実に言えるのは、大人よりも若者の方が残りの人生が長い分、幸せになりたいと切実に願っているということ。そして幸せになるために時代の変化を最初に起こすということだ。未来は必ず彼らの価値観が中心になる社会になる。消費でも地域でも、早いうちに彼らの価値観を取り入れていくべきだ」◇「地元」や地縁を最優先
原田さんによるとマイルドヤンキーとは、上京志向がなく、強固な人間関係と生活基盤のある地元から出たがらない若者たち。かつての暴走族など「ヤンキー」と呼ばれた層が、中学時代などの少人数の地元友達とつるむという共通点を残しつつ、優しく(マイルドに)変化したものだという。
マイルドヤンキーをさらに二分すると、服装や趣向にかつてのヤンキー性を残すのが「残存ヤンキー」。大半は服装も一般の若者と変わらず、仲間の家でダラダラ過ごすことを好む「地元族」となる。
彼らにとって「地元」の範囲は、自宅周辺の5キロメートル四方程度、中学校区程度の狭いエリアを指す。中学時代から続く「居心地のよい」生活をキープすることを最優先とする価値観を持つ。
地元での生活や地縁をキープするための消費意欲は旺盛で、仲間とファミリーレストランや大型ショッピングモールで外食や買い物をし、ミニバンなどの所有率も高い。モノを買わなくなった一般の若者よりも、消費者としては優良だとして注目を集めている。
はらだ・ようへい
1977年東京都生まれ。慶大卒業後、博報堂入社。2011年から同社ブランドデザイン若者研究所リーダーを務め、日本とアジア各国で若者へのマーケティングや商品開発を行う。多摩大非常勤講師。著書に「ヤンキー経済」(幻冬舎新書)、「さとり世代」(角川書店)など。