「マスキングテープ」飛躍的な売り上げ、海外での人気も上昇中

 塗料のはみ出しから製品を保護する「マスキングテープ」の活用が広がっている。
 本来は工業用だが、柄モノの登場以降、小物雑貨やインテリアなどの装飾に活用する愛好家が増加。日本製ならではの和紙が透ける美しさ、印刷技術、素材を傷めずに何度も貼り直しできる紙・のりの品質が評価され、「Japanese Washi Tape」として海外での人気も上昇中だ。作家とのコラボも活発化。わずか数センチ幅のテープに、アートの可能性が無限大に広がる!?(重松明子)
 8月27日。小雨舞う中、銀座「クリエイションギャラリーG8」前に並んだ約50人の行列のお目当ては、マスキングテープ「mt(エムティー)」である。
 企画展「MT×G8」(11日まで開催)会場。若き日の横尾忠則さんが描いた前衛演劇ポスターや今年3月に急逝した安西水丸さんのシルクスクリーンなど、8作家の作品とともに、それを精巧に再現したギャラリー企画のテープ17種(幅2~3・5センチ、388~680円)が並んでいた。
 販売初日のこれら限定品に加え、人気柄テープ約100種(幅1・5センチ、151円~)も集められ、30、40代女性を中心に大にぎわいだ。この日レジを通った517人の平均購入金額は6350円。1人当たり平均14本のテープを購入していた。
 「限定品は必ず入手したい。こんなイベントがあると毎回、万単位で買ってしまいます」とは、都内在住の専業主婦、本田綾さん(43)。2千本以上を集めているそうだ。「眺めているだけで楽しく、アルバムやカードを作ったり、額縁など小物をアレンジしたり、自由に工夫できるのが魅力。こちらをどうぞ」。差し出されたのは水玉テープを使った愛らしい木製クリップ。わざわざ自分で「mt」のロゴハンコを作ったそうで一個一個に押印してあった。
 「イベントは月2回ペース、全国各地で行われ交流も盛んです。『mt』は平成20年に誕生した装飾用ですが、企業が仕掛けたものじゃない。無地の工業用テープ時代から手作りに活用してきた女性たちの要望で商品化されたのです」。「mt」のデザインを手がけるアートディレクター、居山浩二さん(46)が説明してくれた。
 製造元のカモ井加工紙(岡山県倉敷市)は、大正12(1923)年にハエ取り紙から始まった粘着テープの老舗。薄く丈夫な和紙製の工業用マスキングテープでシェア1位の地道な実績が思わぬ新ビジネスにつながった。文具店や量販店、雑貨店などを販路に毎年飛躍的に売り上げを伸ばし、年間約300種を商品化する現在「mt」の出荷額は月間約1億円。2割がフランスや台湾など海外に輸出され、日本が誇る「カワイイ」文化にすくすく育った。
 昨年10月に「maste(マステ)」で新規参入したマークス(世田谷区)でも、すでに輸出割合が3割という。草間彌生さんとのコラボなど現在までに90柄を商品化。同社では「毎日が楽しくなる便利な日用品として、ファイリングのラベル、付箋(ふせん)、ビニール傘の目印など、自由に楽しく使ってほしい。ユニセックスなデザインが多く、男性ユーザーも増えてきたようだ」。
 失敗しても何度でもやり直せるから、アイデアを思いついたら即ペタッ(実行)! 融通無碍(むげ)に生きにくい日常の、これはささやかな快感である。

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