「リアルブラタモリ」 名物ガイドが見た京都の凸凹…〝ひと味違う〟街の魅力再発掘

世界遺産に登録された寺社をはじめ、数多くの有名観光スポットを有する国際観光都市・京都で、地元民の案内人らとめぐるまち歩きツアー「まいまい京都」の人気が急上昇している。

立ち上げ時からガイドを務めているのが梅林秀行さん(42)。昨年以降、地図マニアとしても知られるタモリさんが全国各地をぶらぶら歩き、街の歴史や人々 の暮らしに迫るNHK総合の「ブラタモリ」に出演し、活躍している効果がまいまい京都の人気にも結びついている。ツアーの数、参加者は年々増加。今年で5 周年を迎えたが、延べ参加者数が2万人を大きく上回る盛況ぶりだ。(永山準)

「まるで探検みたい」

6月下旬の日曜日、京都市右京区の嵐山に登場したのはまいまい京都のツアーガイド、梅林さん。全国から集まった19人の参加者を引き連れ、ツアーを開始した。

嵐山といえば、京都の有名観光地。一行は世界遺産・天龍寺に向かったが、すぐに寺には入らない。

「ちょっと登ってみましょうか」。梅林さんは入り口の脇にある、木の生い茂る少し盛り上がった土地に入っていくと、「ここは天龍寺創建当時からの遺構。威信を増すため門前に作った『土壇』です」と説明した。

その後も、むき出しになった岩の前で立ち止まり、地形や断層が記載された地図を使いながら嵐山の風景を作る斜面の成り立ちの説明を行うなど、独特のツアーが続いた。

参加者たちは「まるで探検みたい」「こんなところ普通気がつかないな」などとそれぞれの感想を話し合いながら、真剣な表情で梅林さんの説明に耳を傾けていた。

お年玉で専門書購入

あえて普通の住宅街の「地形」に着目し、土地の歴史や由来を語る梅林さんの手法は印象的だ。

特にこだわるのが、街並みの中に残るちょっとした高低差。「街の坂道や凹凸は昔、そこが河川敷だったとか、豊臣秀吉が築いた『御土居(おどい)』の痕跡だったとか、『土地の記憶』として残されたものなんです」

そんな視点でまとめた著書「京都の凸凹を歩く」は今年5月の出版以来すでに約1万6千部に達した。

それにしても、なぜそこまで凸凹にこだわるのか。梅林さんは「それは僕自身が凸凹だらけの人生を歩んできたから、かな…」と打ち明ける。

梅林さんは昭和48年、名古屋市郊外に生まれた。自宅近くに古墳があり、発掘調査もよく目にしており、自然と古い時代に興味を持つようになった。

小学5年の時には、お年玉の全額をはたいて「日本城郭古写真集成」という「図書館にしか置いていないような専門書」を購入。古墳や遺跡の探検が好きで、クラスメートを誘うこともあったが、「誰もついてきてくれなかった」という。

早稲田大に入学し、考古学を学んだ。発掘調査や研究を重ね、学友や教授らと朝から晩まで話し込むなど「この時代に僕のベースができた」。一方、授業にはあ まり出席しなかったため、卒業単位が取れない。「8年間勉強して疲れ切った」といい、一時、引きこもり状態になった。「いま振り返ると、休養が必要だった んだろうと思います」

転機となったのは平成15年、名古屋市内の引きこもり支援団体に入ったこと。「支援を受けるつもりで入ったら、スタッフとして活動することになった」

仕事を通じて元気を取り戻し、翌年京都へ。歴史好きにとってはあこがれの街。自転車に乗って、市内各地をまわった。

サイン求められる人気ぶり

そして22年、「ブラタモリ」を見て、何の気なしに「自分だったらこんな案内をする」といった案を短文投稿サイト「ツイッター」でつぶやいていたところ、「おもろいですねぇ! リアルブラタモリ、やりまへんか?」と、まいまい京都から声がかかった。

まいまい京都は、京都を愛する住民がガイドとなって、ひと味違ったミニツアーを企画する団体だ。誘われるままに、ガイドを務めることに。

御土居の跡や、幻の城「伏見指月城」の遺構とみられる土地をめぐり、地形から歴史をひもとくツアーを始めた。「初回からびっくりするほど好評だった」

最近は祇園などの観光地を訪ね、土地の高低差にスポットを当てるツアーも行っているが、いずれも定員いっぱいになる盛況ぶりだ。

ツアー中に通りかかった家から家族が飛び出してきて、サインを求められることもある。

「人生にはどうしたって起伏がある。その目で街の風景を見たら、凸凹や道の曲がり方に共感が生まれますよね。悲しくなるときもあれば、うれしくなるときもある。街歩きは、記憶が刺激される歩き方が一番いいと思うんです」

ユニークなガイドは300人

個性豊かなツアーを行うまいまい京都は23年、「知られざる京都の暮らしや見どころを堪能してほしい」と以倉敬之代表(30)らが立ち上げた。

大工の棟梁(とうりょう)や寺の住職、猟師、花街の太夫など、バラエティーに富む約300人が、京町家めぐりや銭湯のタイル絵鑑賞など、思い思いの企画を行っている。

どれも従来のツアーやガイドブックにはない魅力にあふれていると盛況で、府外だけでなく、京都の参加者も半数近くいる。

梅林さんがブラタモリに出演し、タモリさんと軽妙な掛け合いを見せたことが大きな反響を呼び、ツアーの定員もほぼすべて満員となった。

今年5周年を迎えたが、全体の延べ参加者数は約2万2600人(昨年12月末現在)となっている。

金太郎飴ではなく…

多くの有名観光スポットを有する京都でなぜ、こうしたツアーに注目が集まるのか。

ブラタモリ出演以降、他の観光業者からのツアー依頼も多く受けるようになったという梅林さんは、従来の観光スポットをめぐるツアーについて「金太郎飴(あめ)のように、場所も、語り方も固定的」と指摘。「お客さんは、とても勉強熱心なんです」と話した。

ブラタモリをきっかけに、まいまい京都を知り、これまで各ツアーに20回以上参加している大阪府枚方市の40代女性会社員は「ガイドさん個々の興味に従って、教科書に載っていないような話がいろいろ聞けるのがとても楽しい」と魅力を語る。

参加者増を受けて、まいまい京都は今後、さらにツアー数を増やす。

以倉代表は「観光名所の多い京都だからこそ、見えにくくなっている地元の魅力や多様性を、より多くの人に感じてほしい」と話している。

 

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