「レトロ自販機」絶滅の危機 うどんやハンバーガー…希少価値で遠方から来客も

温かいうどん・そば、トーストサンド、ハンバーガーを販売する「レトロ自販機」が懐かしいデザインや味が受け、人気を集めている。1960年代半ばから80年代に設置され、地元の住民やトラック運転手などに利用されてきたが、今では全国で100台程度しか稼働していない。希少価値が高まる一方、老朽化や閉鎖店舗の増加で、レトロ自販機は絶滅の危機にある。

群馬県みどり市の国道122号沿いの山奥にある丸美屋自販機コーナー。11台の自販機が並び、地元の「ひも川うどん」などを販売する。平日は近隣の住民やドライバーの利用が中心だが、週末は遠方からも食べに来るという人気スポットだ。

うどん・そばの自販機は、お金を入れると、下調理済みの丼麺を湯切りして25秒で高速調理する。全国的に値段の相場は200~300円程度と安い。昔の自販機のため、五百円玉は利用できない。山奥の自販機小屋まで、わざわざ遠方から食べに来る人が現れるなど一部で人気を集めている理由について、「昭和レトロ自販機大百科」の著者の越野弘之氏は「古いものに敏感で、なくなる前に食べておきたいと思う人が多いからだ」と話す。

昨年、NHKの「ドキュメント72時間」で秋田港近くの船舶食料商「佐原商店」のうどん・そば自販機が取り上げられた。地元の人たちに親しまれている姿が描かれ、大きな話題となった。今年3月末に閉店となったが、懐かしい味を惜しみ、連日行列ができるほどだった。一見すると、単なる自販機だが、地元の人たちを魅了するのは「飲料と違い、お店の人が手をかけて作り、ぬくもりがあるからだ」(越野氏)という。

うどん・そばの場合、店が麺や具材、だしを用意し、下調理してから自販機に設置する。このため店によって味が異なる。関東と関西の自販機では全く味が違うという。ハンバーガーやトーストサンドも同様だ。その分、店側の負担は重く、下調理の準備や在庫を補充する必要がある。最近はオーナーの高齢化で後継者がいないため、閉店する店舗が増加している。さらに自販機も老朽化で動かなくなり、年々減少している。

レトロ自販機の人気で、生産復活を望む声もあるが、75~95年まで、うどん・そば自販機を製造した富士電機広報IR部は「今は生産できる人や設備がない」としている。75~78年までトーストサンド自販機を製造した太平洋工業も同様に生産できないという。各社とも売り切りで、どこで稼働しているのか把握できておらず、メーカーのアフターサービスも終了し、修理業者も全国にわずかというのが実情だ。

自販機卸売業の関東自動機器(埼玉県坂戸市)にも、人気が出ており、レトロ自販機を使いたいというニーズが増えているが、岡田有吉社長は「しっかりした自販機を提供しないと信頼を失うため、市場に再投入できるものは限られる」と話す。今では24時間営業のコンビニエンスストアが各地に広がり、食べることに困らなくなり、レトロ自販機の役目は終わり、絶滅する方向へ向かっている。その一方で、昭和レトロの懐かしい味を求める人たちが増えているのも事実だ。レトロ自販機には、なくなればなくなるほど、人々を魅了する不思議さがある。(黄金崎元)

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