「七三分け」半世紀ぶりに若者のトレンドに 職種問わず人気

古くさいオジサンの髪形と思われていた「七三分け」が、半世紀ぶりにファッショントレンドに躍り出ている。昭和39年の東京五輪を契機に大流行したアイビールック定番のヘアスタイル。それが昨年、2度目の東京五輪招致決定と好景気感が重なるなか、アイビー由来のトラッドファッションが復活し、ブレザーやネクタイが決まる髪形として注目だ。清潔感のなかに男らしさが漂い好感度も上々。新たな分け目にクシを入れる男子が増えてきた。(重松明子)
 美容室「MINX(ミンクス)」原宿店(東京都渋谷区)。飲食店勤務の男性(23)の下ろした前髪が七三に分けられ、ワックスでスッキリなでつけられると、見た目が一気に好青年! 鏡の姿に「いい感じですね」とはにかむ男性。「このまま彼女のお父さんに会いに行ける髪形です」とトップスタイリストの藤巻巡日人さん(28)がほほ笑んだ。
 オシャレに敏感な若い男性客が多い同店では、七三分けの注文が一昨年から入り始め、昨年には人気上位の髪形に定着した。「景気が上向き、『育ちの良い装い』への関心が高まっている。注文する方の服装もアメリカントラッドが多い」と藤巻さん。かつての七三分けとの違いはサイド内側の刈り込みだ。タイトなシルエットで、昔風のもっさり感は全くない。
 タレント、加藤浩次さんのようなツヤのあるコテコテ七三から、俳優の伊勢谷友介さんやレオナルド・ディカプリオさん風と、リクエストされる七三分けも多様化。「モード、黒革などのワイルドな装いにも合う。職種を問わず、手入れがラクで薄毛カバーもできる便利な髪形。人気が続きそう」と藤巻さん。
 一方、10分千円のヘアカット専門店「QBハウス」の若者向け新業態「FaSS(ファス)」中目黒店(目黒区)でも、「七三分けの注文が2割に達し、立地柄多い外国人は特にコテコテを希望する傾向」と風下への広がりがうかがえた。
 復活の発生源は? ニューヨークやパリのコレクションでヘアメイクアップチーフを務める、資生堂ビューティートップスペシャリストの原田忠さん(42)によると、「コレクションでは2007年ごろにはスーツを引き立てる髪形『クラシックスタイル』として登場していた」。トラッドをベースにしたドレススーツで台頭した米国人デザイナー、トム・ブラウン氏の影響が大きいという。
 トラッド復活が七三分け復活のベースだが、日本においては東日本大震災が布石になったと見ている。「震災を経験し、ソフトで中性的な“フェミ男”よりも、非常時に対応できるたくましい男性像に魅力を感じる男女が増えた。サイドを刈り上げトップをなでつけて額を出した七三分けは、こざっぱりと男らしいイメージ。整えたヒゲで強さを演出するのが今風です」
 航空自衛隊出身という異色の経歴の原田さんらしい分析だ。
 短髪の七三分けは散髪頻度が多くて大変そうだが、七三分け歴4年、アパレルのニューヨーカー勤務の阿久澤卓也さん(34)は、「美容室は年1、2回で、随時自分でカットしている」と手慣れた様子だ。
 16日夜、この原稿をまとめながら見ていたニュース番組に、長いウエーブヘアが特徴だった五輪スノーボード2連覇中のショーン・ホワイト選手が、七三分けで現れた。世界中の思わぬところで“好青年”増殖中!?

タイトルとURLをコピーしました