「世の中ゴト×仲間ゴト×自分ゴト」の法則その2―「影響範囲」の設計(VRI コラム)

「自分ゴト」は、「この話題は自分に関係がある」と思える状態。「仲間ゴト」は「仲間はみんな知っている」という状態で、「世の中ゴト」は「誰に話してもみんな知っている」という状態。
この3つがあるバランスで成立したときに、その話題の「影響範囲」が最大化され、人を動かすパワーを持つという話だった。
今回は、「その2」として、もう少しその話を進めてみようと思う。
そもそも、こうした「影響範囲の設計」とでもいう考え方が、なぜ重要になって
いるのだろうか。
ひとつにはもちろん、情報の伝播経路が複雑化したことへの対応という意味がある。
これまでのように、マス広告一辺倒、あるいはクチコミ施策のみでターゲットにリーチしようという考えは、どんどん過去のものになりつつある。
しかし、さらに重要なのは、最終的な獲得目標が、「目先の単発的な売上ではなく消費者のエンゲージメントであるべき」という認識が広まっていることだろう。
エンゲージしてもらうためには、長期的な時間軸でコミュニケーションを設計する必要がある。
つまり「単発的なキャンペーン」では不十分であり、一定の時間軸を保って消費者の関与をあげていくためには、「自分ゴト」と感じてもらいながら「世の中ゴト」と認識させるという工夫が必要になってくる。
ここに、ターゲット属性ではなく「影響範囲の設計」という発想でターゲティングしていかなければならない理由がある。
では、この影響範囲の設計において、ソーシャルメディアがどのような役割を果たすのか、もう少し深堀りしてみよう。マーケティングの視点から見た「ソーシャルメディアの強み」は、ザクっと大きく2つのエリアにわけられるだろう。
ひとつはよく言われているその拡散性(Spread)や共有性(Share)で、ひと言で言ってしまえば「話題が広がりやすい」ということ。
そしてもうひとつは、従来の広告や PR にはできない「Always on(いつも隣にいられる)」という強みだ。
私は、この2つをそれぞれ別に認識すべきだと思う。「いつも隣にいる」ためのアプローチと、「とにかく話題を広める」ためのアプローチは同じではないはずだ。
たとえば、Facebook の公式アカウントをオープンしてみる。真摯に情報発信するたびにファンは増え、5,000人まできた。しかしなかなかそれ以上は増えない。もっともっと「ソーシャル」にたくさんいるはずの何万人、何十万人に拡散しない――よくある話だ。
たとえば、いかにも「バズ」が起きそうなオモシロムービーをつくって「ソーシャル」に流してみた。みんな面白がって拡散してくれた。
何十万人が視聴した。でもそれってブランドを高めたことになるのか――これもよくある話だ。
このように、ソーシャルメディアというプラットフォームを最適に活用するには、単一的な考えとアプローチでは厳しいだろう。
おそらく、もっとも肝になるのは、「ソーシャル」におけるマス的なボリュームにいかに影響を与えるかだ。
多くの企業の関心はそこにあるようにも思える。私は、これには企業側からと世の中側からの双方のアプローチが不可欠だと考える。
世の中側からのアプローチは言うまでもなく戦略 PR だ。世の中レベルの話題が、マスコミ報道や雑誌特集という第三者経由で降り注ぎ、ソーシャルはその「拡散性」や「共有性」を発揮する。
一方、企業側の発信元は引き続き Facebook や Twitter のアカウントになる。
しかし、従来の考え方だけだと、「Always on(いつも一緒)」は達成できても、数千人レベルでいつかは頭打ちになるだろう。
そこで、ここであらためて重要なのが、「インフルエンサー」や「キュレーター」と呼ばれる人たちの存在だ。なぜなら、彼らこそが戦略 PR による「世の中ゴト」の世界と、「自分ゴトや仲間ゴト」の世界をつなげてくれるハブの可能性を持っているからだ。
彼らが「Always on」なファンでいてくれれば、いずれは、それ以外のソーシャル界や世の中につなげていってくれる。その状態を、真の「エバンジェリスト」と呼ぶのだろう。
いかがだろうか。「影響範囲の設計」とひと言でいっても、なかなかに複雑なデザインが求められるのは間違いない。
しかし、やはり何といっても重要なのは、全体を貫く「文脈」の設計だ。企業側からのメッセージと世の中側からのメッセージが同一である必要はない。
しかし、戦略 PR の結果ソーシャルに降り注ぐ内容と、企業がソーシャルで囁いている内容の背後には、しっかりと事前に設計された文脈が存在しなければならない。
それなしに影響範囲を最大化させることはできないのだ。

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