「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産へ登録されることがほぼ確実となり、東北をはじめ各地の酒どころからは5日、「世界に評価された」「名誉だ」と歓喜の声が上がった。注目を集めるきっかけになると期待を膨らませつつ、伝統の継承の決意を新たにする造り手の姿もあった。
宮城県大崎市の酒造会社「一ノ蔵」は、同県栗原市にある江戸末期創業の酒蔵「金龍蔵」に蔵人たちが泊まり込み、昔ながらの「寒造り」で日本酒を醸す。
伝統的なこうじ造りを大切にする鈴木整社長は、登録に向けた関係者の尽力に感謝。「登録されれば輸出の後押しにもなる。これからも酒造り文化の担い手として、技術の研さんに努めたい」と気を引き締めた。
宮城県酒造組合会長を務める男山本店(気仙沼市)の菅原昭彦社長は「和食の無形文化遺産登録に続き、日本の食文化が認められてうれしい。発酵文化の基本であるこうじを使った酒が評価された」と歓迎した。
県内は小規模な酒蔵が多い。「ほとんどが手作りで(登録は)プラスになるだろう。国内では日本酒の良さを再認識してもらい、国外には日本の食文化を発信していく」と意気込んだ。
乳酸菌を培養してじっくり酵母を育てる日本酒の伝統的な醸造法「生酛(きもと)造り」で知られる福島県二本松市の酒蔵「大七酒造」。太田英晴社長は「日本の酒造りの名誉だ。世界の食文化の中で、ますます日本酒の出番が増える」と喜んだ。
コロナ禍を経て、若い世代が酒を楽しむ文化が下火になったと感じる。「登録をきっかけに、世界が評価する日本酒に改めて興味を持ってほしい」と願った。
福島県の内堀雅雄知事は定例記者会見で「東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の風評で受けた大打撃を乗り越え、福島では日本酒の輸出が進む。今回登録されれば、さらなる追い風になる」と期待した。
広島県の酒蔵「賀茂鶴酒造」の石井裕一郎社長は、酒造りに使う木製品が業者の高齢化で作られなくなりつつある現状を懸念。「日本酒造りは曲がり角。伝統や継承とは何か、考えなければならない」と語った。
ユネスコ勧告 国内23件目
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関は、日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産へ登録するよう勧告した。文化庁が5日発表した。12月2~7日に南米パラグアイで開かれるユネスコ政府間委員会で正式決定する見通し。実現すれば国内23件目となる。伝統的な酒造りは国内各地で行われており、輸出拡大や地域活性化に期待がかかる。
勧告は、伝統的酒造りの知識と技術が「個人、地域、国の三つのレベルで伝承されている」とした上で「社会にとって強い文化的意味を持つ」と評価。祭事や婚礼といった日本の社会文化的行事に酒が不可欠であることや、酒造りが地域の結束にも貢献していることなどを挙げ、登録に必要な基準を満たすとした。
伝統的酒造りは、カビの一種であるこうじ菌を使い、蒸したコメなどの原料を発酵させる日本古来の技術。複数の発酵を同じ容器の中で同時に進めるという、世界でも珍しい製法だ。各地の風土や気候などに合わせながら杜氏(とうじ)らが手作業で洗練させ、継承してきた。
この手法で造られる酒には日本酒や本格焼酎、泡盛のほか、もち米と焼酎を使って甘みを引き出す本みりん、もろみに木灰を加えて保存性を高めた灰持酒(あくもちざけ)などがある。
アルコールにまつわる無形文化遺産としては「ベルギーのビール文化」やモンゴルの「馬乳酒の伝統的な作り方と関連づいた慣習」などが登録されている。