唐突ですが、皆さんは世界で一番硬い食べ物って何だか知っていますか?
真っ先に筆者の頭に浮かんだのは「井村屋さんのあずきバー」でした。あずきバーでクギを打ってる映像に衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。
それともお正月が終わって、切る際に包丁の刃が欠けてしまうくらいに硬い「カピカピに乾燥したお餅」でしょうか? 「フランスパンの端っこ」にも、皆さんもきっと何度も痛い目に合わされたことと思います。
さらに、ブルゾンちえみさんが以前紹介していた伊賀の「かた焼き大判煎餅」というむっちゃ硬い煎餅もありますね。筆者は一度チャレンジしたことがありますが、まさしく、歯では全く歯が立ちませんでした……。
実は、そんなものよりもはるかに硬い食べ物が、日本の伝統的な食べ物の中にあるんです。
それは鰹節です。硬さはなんと宝石の水晶と同じくらいと言われていて、ガラスよりも硬いそうです。とんでもない硬さですよね。
普段は薄く削られたふわふわの状態で状態で売られてるので、硬いイメージはないかもしれませんね。
でも専用の機械やカンナで削る前の鰹節は、濃い茶色の木の切れ端のような物体で、二つ合わせて叩くと、キーン、キーンとまるで拍子木のような乾いた高い音がします。海の中を泳いでいる魚から作られたとは思えない硬さと感触なんです。
鰹節は室町時代ごろから作られていたと言われる、日本古来の保存食です。
カツオの身をやや低温のお湯でゆでた後、燻して燻製にする作業を何度も何度も繰り返します。燻製が完成すると次は表面に特殊なカビを塗って寝かせます。
カビ?と意外に思われるかもしれませんが、このカビが鰹節の硬さと旨さのキープレーヤーなんです。
そのカビが繁殖する際にカツオの水分を吸い取ることで、さらに乾燥が進みます。こうした作業を約4カ月間繰り返すことで、カツオの水分は当初の約15%程度にまで減少し、水晶並みに硬くなります。そしてカビが脂肪を分解する時に出る酵素が、あのなんともいえない旨みの素になっているんです。
一般的にはカツオから作られたものがよく知られていますが、他にも「鮪節」や「鰯節」、「鯖節」などさまざまな魚から同じような節(ブシ)が作られています。
他の節もそれぞれに違った豊かな風味と旨み、個性がありますので、プロの料理人の方々は、料理に合わせていろんな節を使い分けています。
また同じ節でも削り方によって出汁の味も風味も変わってきます。奥が深いですよね。
くら寿司では、うどんやラーメンなどのサイドメニューのために、毎朝、鰹節の他に鯖節、鰯節などを加え、昆布や煮干しなどと一緒に大きな鍋に入れて、一から出汁をとっています。開店前にお店の近くを通っていただくと、出汁のいい香りがすると思います。
令和元年も残りわずかになりましたが、今年のくら寿司でのお食事の締めに、ぜひ自慢の出汁を使ったうどんを召し上がってみてください。
筆者のおすすめの食べ方は、最初にうどんを注文して、赤だしの代わりにうどんのスープを飲みながらお寿司を食べることです。シャリの甘みとスープの旨みが、口の中で絶妙のハーモニーを醸し出して、きっと病みつきになると思います。
少し早いですが、今年もありがとうございました。また来年も、くら寿司と同様、このコラムもよろしくお願いいたします。
※AERAオンライン限定記事
◯岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2019年11月から、執行役員 広報宣伝IR本部 本部長