異国の人々との共存、異文化との共生。令和の今、そうした言葉は抽象的な「お題目」ではなく身近な「日常」になった。その最前線では、かつてない異変と摩擦が生じている。現地取材でしか見えない驚くべき現実とは。
「勝手に自宅の敷地に入られた」
「この前、買い物から家に帰ってきたら、わが家の駐車場に3、4人の見知らぬ男女がいて、何やら話している。聞こえてきたのは中国語でした」
成田空港からクルマで30分ほど、霞ヶ浦の南側に位置する茨城県稲敷市。不安げな表情を浮かべて語るのは、同市郊外の高台にあるニュータウン「江戸崎ネオポリス」に住む70代の女性だ。
「怪訝に思って話しかけると、その人たちは近くにある別の空き家に入居するらしく、ウチとその家をカン違いしていた。見晴らしをチェックしたかったそうですが、勝手に自宅の敷地に入られて、とても不愉快でした」
3年ほど前、この江戸崎ネオポリスに住むおよそ100世帯の住民に衝撃が走った。開発元である大手住宅メーカーが、突然「事業から撤退し、未分譲の宅地をすべて別の企業に売却する」と知らせてきたのだ。別の住民が証言する。
「ここはバブル期以降、開発・分譲が進んできたニュータウンで、私が買ったのは平成初期のこと。当時は茨城県内でも高級な物件で、340軒の戸建てが建つ予定だと説明されていました。
ところが、120軒ほどが建ったところで開発は止まってしまった。景気が悪くなったこともありますが、このあたりは駅がなくバスも少ない。利便性が悪く、自家用車がなければ生活ができませんから、購入者が増えなかったのでしょう。
以後ずっと空き地のままになっていた200軒あまりの宅地を、地元のA社という会社が買い取ったのです」
空き家が「シェアハウス」化
A社は関東某都市に本社をおく食品加工会社で、稲敷市内に大きな工場を持っている。日本の企業だが、会社登記の内容や関係者の証言を総合すると、中国系男性が創業者で代表取締役だ。
江戸崎ネオポリス周辺の地価は1平米あたり約9000円(2020年時点)。平均的な戸建て住宅の広さが120平米だから、200戸ぶん買ったとすれば、費用はおよそ2億1600万円と推定できる。土地代だけなら、規模に比してさほど高額ではないが、S物産は建物も建てているらしい。
「A社のオーナーさんは、以前近所に住んでいたので会ったことがあります。ベンツやレクサスに乗っていて、羽振りがよさそうだった。
宅地が売却されることが決まった際には説明会も開かれたのですが、そのとき言っていたのは『ここにA社の社宅を建てるつもりだ』ということ。実際にその後、ニュータウン端の一角に変わった外観の戸建てが9棟、並んで完成しました」(前出と別の住民)
A社が建てたという9つの戸建て住宅を記者が見に行くと、確かに日本の家屋とは少し見た目が異なる。塀にはレンガで作られた1~9の番号が振られていた。近隣に住む60代男性が言う。
「これらの家にはA社の中国人従業員と家族が住んでいるそうですが、新築されたのは9軒だけでした。その後は、もともとの住民が出ていったあとの空き家をA社が買い取り、シェアハウスのようにして5~6人の若い外国人従業員を住まわせるようになった。
彼らは夜中でも中国語の音楽を大音量で流し、煌々と電気をつけています。厄介なのはゴミの問題で、分別の概念がない。しかも、ほぼ全員日本語が通じず、意思疎通がとれません。日本語がわからないフリをしているのではないか、と感じるときもありますが……」
冒頭の女性の家に立ち入ったのも、そうした従業員だったとみられる。実際、江戸崎ネオポリスにある複数の家の軒先には、A社のステッカーが貼られたクルマが停まっていた。
「いずれは街全体を買う」
江戸崎ネオポリスでは「戸建て住宅以外の建物を建てない」という建築協定が結ばれていることもあり、今のところ大規模な再開発などは行われていない。だがA社による土地や建物の買収が始まって以降、昔からの住民には「これから、この街はどうなってしまうのか」「今後どんな建物が建ち、どんな人が住むのか」と不安を訴える人、引っ越しを検討する人が激増したという。
「ひと昔前まではただの田舎の住宅地だったのに、日本人がいなくなり、外国人がどんどん増えていく。A社の人が『いずれは街全体を買い取りたい』と話しているのを聞いたこともあります。
いち地方企業がこれほどの資金をどう捻出し、どう話をつけているのか。成田空港から近いですし、背後に中国政府でもいるのではないか、そんな噂さえ立っていますよ。
もちろん、仲良くできるものなら仲良くしたい。でも多くの中国人住民は、日本語で話しかけても中国語でしか返事をしないし、警戒心をむき出しにするんです。最近は空き巣がちらほら報告されるようになり、パトカーの巡回も増えています」(70代の男性住民)
記者は市内にあるA社オーナーの自宅を訪ねた。レンガづくりの新築の豪邸で、炎天下、庭では外国人の職人が噴水の工事をしている。チャイムを鳴らすと、白いガウンを羽織ったオーナーの男性が姿を見せた。
「私は来日して30年ほどになります。留学生として日本に来て、1990年代に会社を作った。事業の拡大で、稲敷市内に工場を建てました。これから工場を増やす予定で、もちろん国内でも採用しますが、人手不足なので留学生や技能実習生も活用したい。そうなると社宅が必要になりますから、江戸崎ネオポリスの不動産を購入しました。
もちろん協定を守り、ルールを守って入居を進めていきます。きちんと市役所にも届け出ました」
外国人が、街をまるごと買い占める――これまで、そうした異変は北海道のニセコなど、ごく限られた地域でのことだと思われてきた。しかし今では、こうした首都圏郊外の、ありふれた住宅街でも起きているのだ。
さらに茨城県や群馬県などの北関東各地では、外国人労働者の急増にともない、さまざまな異変が起きている。後編記事【外国人が外国人を食い物に…茨城・群馬「北関東・移民ベルト」の「カネと犯罪」ヤバすぎる最新実態】につづく。