「よしなに」「一丁目一番地」「えいやで」…。一定の世代の社会人が職場で多用しがちなフレーズが交流サイト(SNS)を中心に話題だ。人呼んで「おっさんビジネス用語」。独特な言い回しを面白いと思う人がいる半面、分かるようで分からない言葉も多く、若い社員が困惑するケースもある。送り手と受け手で認識の差があれば、「誤解を生む可能性がある」(専門家)。効果的な使い方と落とし穴をまとめた。 【あなたはいくつ当てはまる?】 「おっさんビジネス用語」を集めたビンゴゲーム
■上司との距離が縮まる? 「新入社員時代、上司の発する言葉の意味が分からず混乱した」と話すのは、東京都の30代の男性会社員。社内で資料を作っていると、先輩から記載する数値についてこうアドバイスされた。「厳密すぎず、『鉛筆なめなめ』でいいよ」。ニュアンスから、本当に鉛筆をなめることは求められていないと分かる。それでも真意がくみ取れず、その場で戸惑ってしまった。 似たようなケースはその後も続いた。他部署と担当がまたがる案件を処理する際、「(他部署に)仁義を切って」「事前に交通整理して」。目の前を飛び交う難解なビジネス用語に長年もんもんとしていたが、「言葉の意味を他の人に聞いたり、自分で調べたりするうちに興味を持った」(男性)。昨年7月、24のおっさんビジネス用語を並べた独自のビンゴゲームを作成し、自身のツイッターで公開した。 裏工作を意味する「寝技」、企画などをいったん白紙にする「ガラガラポン」。実際の職場で飛び交っていた用語を中心に選出した。ツイッターで反響が広がり、男性は自身が働く金融業界以外にも広く利用されているとも知って驚いた。現在は上司や年配の取引先と距離を縮めるために意図的に用語を使用していると明かす。
■「ついつい多用してしまう」 独特の言い回しが癖になるおっさんビジネス用語。日常ではどんなシーンで使われるのか。 大阪府富田林市の男性会社員(51)が日常的に使うのは「よしなに」。いい具合に、などを意味するフレーズで「誰かに何かをお願いするときに、『よしなに頼みますわ』と使ってしまう」と話す。新入社員時代から頻繁に使用してきた。「『よろしく』とストレートに伝えるよりも、柔らかい印象で相手にお願いできるからついつい多用してしまう」という。 一方、啞然(あぜん)とする若者もいる。「一丁目一番地で進めて」。大阪市中央区の女性会社員(27)は新人時代、上司からこう指示されたものの、意味がよく分からなかったと明かす。政治家たちがよく口にする「最優先事項」を意味する用語で、今では使い方も含めて理解できるようになったが、「若手には意味が通じないこともあるので使おうとは思わない」(女性)
■使い方には注意も必要 専門家の見方はどうか。武庫川女子大の佐竹秀雄名誉教授(日本語学)はいわゆるおっさんビジネス用語について、「ビジネスという概念が一般社会で定着した高度成長期以降に、俗語的な意味合いで使われてきた」と誕生の経緯を推測する。 個人差はあるが「(主に)50代以上の人たちが、若いときに慣れ親しんだ感覚で使っている印象がある」と佐竹氏。直接的な表現を避け、大半に俗語や隠語に近い性格があるのが特徴という。その上で俗語や隠語には「仲間意識を生んだり、職場でのコミュニケーションを円滑にしたりする役割も担う」と指摘。表現を楽しんだり、ぼかして言ったりする場合にも便利なフレーズと分析する。 ただ用語の大半に、明確な定義がないのは落とし穴といえる。佐竹氏は「送り手と受け手で言葉のイメージが異なり、正確に伝わらなかったり、誤解を生んだりする可能性がある」。特に具体的な指示が必要な場面での使用には注意が必要だ。 それでもおっさんビジネス用語は職場の潤滑油になることがある。コンプライアンス(法令順守)重視やハラスメント(嫌がらせ)防止を意識するあまり、世代間交流が希薄になりがちな昨今こそ、「よしなに」した使い方が求められるのではないか。(木下未希)