「令和の資本論」に共鳴 富とは別の豊かさ求める

コロナ禍は暮らしに直結する政治という存在を再認識させた。収束への道筋やコロナ後の絵図が見えない中、政治に向ける人々の意識は変わりつつある。19日公示の衆院選(31日投開票)を前に、変異の萌芽(ほうが)を東北で探る。

「人新世-」をはじめとする「資本論」関連本。従来の資本主義の在り方に多くの人が疑問を持ち始めている

打開策を提示

 19世紀の思想家が、令和を生きる日本人に道標を示す。

 「経済書の売り上げは例年の倍以上です」。仙台市青葉区の書店「丸善仙台アエル店」の三塚まどか副店長(38)が驚く。特に資本主義の矛盾や限界を指摘したカール・マルクス著「資本論」の関連書籍が昨秋以降、全国でベストセラーになっている。

 主読者層ではなかった主婦らも手に取る。新型コロナウイルス禍で自宅時間が増えたことも一因、と三塚さんは考えている。

 昨秋の発行から約40万部を売り上げた斎藤幸平著「人新世(ひとしんせい)の資本論」がブームの中心だ。社会の持続可能性を重視した晩年のマルクスの思想を基に、気候変動問題から資本主義の限界を論じ、打開策を提示した。

 ツイッターでも「#人新世の資本論」とタグ付けされた投稿が目立つ。茨城県つくば市の会社員若山彩見さん(30)は「ものの見方が大きく変わった」とつぶやいた。

 大卒後、東京の大手コンサルタント会社に勤務。会社の業績は右肩上がりだったが、早朝から深夜まで働きづめの毎日だった。

 「人新世-」は際限のない利潤追求が環境を破壊し、消費のための労働が生活の質を下げる資本主義のメカニズムを解き明かす。「『何のために働いているのか』という疑問と結び付いた」。9月に転職した。

別の価値観に

 コロナ下で外食や旅行、ショッピングなどが制限されたことで、別の価値観に目覚める人も出てきた。

 「トントントン」「カンカンカン」。9月中旬、宮城県加美町の古民家であったリノベーション(大規模改修)のワークショップ。軽快な工具の音に笑い声が混じる。

 施主の女性(60)宅に約10人が集まり、トイレの壁の解体や浴室のタイルはがしなどの作業に当たった。全員が初体験。職人の指導を受けて技術を習得する。

 「参加者は学びに来ている。『労働力』じゃありません」。主催した一般財団法人KILTA(キルタ、横浜市)理事で宮城美里拠点代表の高野香梨さん(34)が言う。コロナ発生後、ワークショップへの問い合わせや参加者が増えた。

 薬局事務員だった数年前からDIY(日曜大工)にはまり、空間づくりでコミュニティー形成を目指すキルタのコンセプト「DIT(Do it together)=共につくる」に共鳴。おととし10月に拠点を立ち上げた。

 「みんなで四苦八苦しながら、失敗を共有して学び合える仲間ができる」。資本主義社会に有り余る富とは別の豊かさを、古民家の「ビフォーアフター」の間に見いだそうとしている。

下がり続ける実質賃金、個人消費も低迷

 世界の主要国に比べ、日本では国全体の豊かさが国民一人一人の生活の底上げに必ずしもつながっていない現状がうかがえる。

 外務省公表の主要経済指標によると、2019年の日本の名目国内総生産(GDP)は米国の21兆4332億ドル、中国の14兆2799億ドルに次いで世界第3位の5兆818億ドル。以下、ドイツ3兆8611億ドル、インド2兆8689億ドルが続く。

 一方、1人当たり名目国民総所得(GNI)は1位がスイス8万5490ドル、次いでノルウェー8万2500ドル、ルクセンブルク7万3900ドル。名目GDP1位の米国は6万5850ドルで5位、ドイツが4万8600ドルで15位。日本は4万1710ドルで23位と伸び悩む。

 大規模金融緩和などが柱の「アベノミクス」で経済再生を目指した安倍晋三元首相が就任した12年以降、株価や失業率、有効求人倍率などは改善したが、実質賃金は下がり続け、個人消費も低迷した。雇用形態が不安定な非正規労働者が増加した。

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