「伊達マスク」すっぴん隠しで人気 ファッション化が拡大するマスク市場

 家庭用マスク市場が急拡大している。市場調査会社「富士経済」(東京)の調査では、各メーカーの出荷金額はこの10年あまりで大きく増加し、平成25年は15年の3倍を超える239億円に達する見込みだ。この間、花粉症や、新型インフルエンザの流行などをきっかけとして予防目的に需要が大きく伸びたが、要因はそれだけではないようだ。病気の症状がないにもかかわらず、マスクをする人が増え、衛生用途以外で使用する「だてマスク」という言葉も生まれた。それらが一因になっているとみられる。最近ではファッション感覚のかわいいマスクも販売されている。マスク姿はいまや日常風景になり、新たな段階に入りつつある。(張英壽)
 ■出荷金額10年で3倍、生産は年間23億枚
 富士経済の調査によると、家庭用マスクの輸入を含む出荷金額は、平成15年に71億5千万円だったが、17年に100億円に達した。19年は128億円、20年は190億円に上昇し、新型インフルエンザ流行した21年は340億円にまで伸びた。22年は反動で150億円まで落ちたが、東日本大震災が起きた23年から再び増加し、24年は196億円、25年は見込み数値で239億円と15年の3倍以上にまで伸びている。
 19年度から輸入を含めたマスク生産枚数を調査している衛生用品メーカーでつくる日本衛生材料工業連合会(東京)によると、家庭用マスクは24年度(24年3月~25年3月)で、23億1200万枚という途方もない数字がはじき出されている。19年度は15億5400万枚で、やはり伸びは大きい。同連合会は25年度は「24年度よりわずかに伸びる」と予測している。
 富士経済の調査員によると、家庭用マスクは、平成12年ごろまでは、綿タイプが主流だった。綿タイプとは、中にガーゼを入れ、洗ったりガーゼを入れ替えたりしても使える製品。昭和時代を知る人には懐かしいものだ。
 だが、15年に花粉症対策のマスクとして化繊メーカー「ユニ・チャーム」が、織らずにつくる不織布(ふしょくふ)素材で使い捨てのマスクを販売しヒット。これを契機に花粉症にマスクを着用する人が多くなったことが、需要増加の原因として大きいという。
 この不織布タイプは安価で大量供給でき、現在のマスクの主流になっている。富士経済の調査では、25年見込み数値で、不織布タイプ、綿タイプの構成比はそれぞれ86%、11・9%となっており、拡大したマスク市場では、不織布が圧倒的に売れている。
 用途にも変化が見られる。
 同じ調査員は「かつては風邪になってから着用していた。ひいてしまった風邪をうつさないために、つまり人に迷惑をかけないためにマスクをすることが多かった」というが、「現在は花粉症対策や、インフルエンザ、かぜの予防に加え、保温、さらに微小粒子状物質PM2・5対策である防塵(ぼうじん)など目的が多様化している」という。
 風邪にかかってからのマスクから、予防、さらに防塵と用途が拡大している。
 ■衛生以外の用途とは
 大阪・梅田。真冬のある日、マスクを着用している人がそこかしこにあふれていた。そんな人たちになぜ口元を覆っているのか聞いてみた。多くの人がかぜなどにかかっていないのに、マスクをしていることがわかった。
 兵庫県姫路市の男子専門学校生(19)もかぜではないがマスク姿。「昔はしていなかった」が、昨年4月に大阪に通うようになり、「電車やバスでせき込んでいる人がいたらいやだから」と説明した。
 同じく予防のためにマスクをしていた大阪市平野区のパート勤務の女性(46)は「新型インフルエンザが流行した平成21年からするようになった。冬になると毎日している」と話した。
 さらに、この女性には高校生の娘がいるといい、「娘は1年中夏でもマスクをしています。(学校では)弁当のときしか外さないと言っています。またマスクだけでなく音楽プレーヤーも使い、声をかけられない雰囲気を出している」と打ち明けた。「女の子も男も子も多くがしている」ともいう。
 大阪府豊中市に住むモデルの女性(20)は、撮影の仕事からの帰りで化粧を落としており、マスクをしているのは「すっぴん隠し」のためという。つまり化粧をしていない顔を見せないためだ。ほかに、「防寒のため」「受験を控えて気をつけている」という答えもあった。
 かぜをひいているからマスクをするのではなく、防ぐためにする人とともに、「すっぴん隠し」など衛生用の目的以外で、マスクをする人もいるということだ。
 衛生用でない場合、数年前から「だてマスク」という言葉が生まれている。前述のパート勤務の女性の娘や、すっぴん隠しは「だてマスク」にあたるのだろう。
 「だてマスク」をする理由として、インターネットの書き込みをみると、「すっぴん隠し」などのほか、「落ち着く」「知り合いに会いたくないとき便利」などがあった。
 マスクも製造している小林製薬(大阪市中央区)がインターネット上で調査したところ、「かぜやインフルエンザなど症状がなくてもマスクを日常的にほぼ毎日する」と回答した比率は、21年の8・3%から年々高くなる傾向で、25年は13・2%に増えている。調査数は600人台から900人台で多くはないが、このうち「だてマスク」もいるとみられる。
 ■花柄、刺繍…おしゃれに
 一方、日常的にマスクをする人が増える中、機能性だけでなく、おしゃれを意識した製品も販売されている。
 おしゃれなマスクをインターネット上で検索してみると、花柄、刺繍(ししゅう)、水玉、千鳥格子などさまざまなタイプが出てくる。
 その中で、昨年「『ダテマスク』が大ブーム」としてインターネット発売し、ヒットしたのが、「T-Garden」(東京都渋谷区)が出したフレーバー付きダイエットマスク「ザフレーバーマスク」だ。同社はそれまでコスメなどの製品を手がけ、マスク製造の経験はなかったが、ピンク色で花柄レースにし、基礎代謝を高めるとされるラズベリーの香りをつけた。ものまね女性タレントでマスクがトレードマークの「ざわちん」さんがプロデュースし、モデルにもなった。30枚入りで2625円。
 確かにおしゃれでかわいい。売れ行きは予想以上で、追加生産している。
 「これまでかわいいマスクが少なかったんです。機能性はそのままにし、おしゃれにして香りをつけたことがうけました」
 同社の担当者はこう話す。
 発売にあたり10~30代の女性千人にアンケートしたところ、「風邪や花粉症以外でマスクをすることがあるか」との問いに87%が「ある」と答え、その用途として「すっぴん隠し」が最も多かったという。
 同じ担当者は「以前はサングラスをして『すっぴん隠し』をする人が多かったと思います。マスクでは目は見えますが、隠す面積が大きい」と話し、マスクによる顔隠し効果を指摘した。
 まち中で、女性がしているマスクは無地の白色がほとんどだが、洋服のようにさまざまな色、デザインのマスクで闊歩(かっぽ)する日が来るのだろうか。
 ■「すっぴん隠し」には根源的心理
 「だてマスク」の流行について青少年の心理に詳しい聖学院大学人間福祉学部こども心理学科の藤掛明准教授(臨床心理学)は「表に出ている『すっぴん隠し』には根源的心理が存在する」とみる。
 そのうえで、藤掛准教授は「人と関わると、笑顔を見せるとか怒りをあらわすとか関係性を決断しなければならないが、マスクをすると表情が見えないのでそうした対人関係を保留することができる。現代青年の対人恐怖がそこにはある」と指摘。「現代の若者はメールやSNSなど人と直接接しない多様なコミュニケーションに慣れており、そうした文化が根底にあるのではないか」と分析している。

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