取材でソフトバンクの携帯電話を使うな――。共同通信のデスクがこんなお達しメールを各記者に送ったとの週刊誌報道が、ネット上で話題だ。デスクが怒ったのは、携帯が使えない場所があったからというのだ。
週刊文春2010年9月9日号の記事には、共同通信デスクの発言というこんな刺激的な見出しが付いている。
それによると、埼玉県秩父市の山中で7月末にあった防災ヘリ墜落死亡事故で、同社甲府支局の記者2人が事故取材に当たった。ところが、2人は携帯電話を持っていたものの、本社のデスクと連絡が取れなかった。
これに対し、デスクは、2人が電波の届きにくいソフトバンクの携帯を使っていたためだと問題視した。そして、事故後に、関東・甲信越の各支局の記者らに、ソフトバンクの携帯を使うな、使うならドコモやauの携帯も用意しろ、と命じるメールを送ったというのだ。
同じ甲府支局の同僚記者は、この事故より前に、富士山の5合目付近でソフトバンク携帯が使えなくなり、ドコモに機種変更していた。しかし、事故取材の2人は、このとき機種変更していなかったという。
ソフトバンクの携帯は、電波状況が悪いと、ネット上でも話題だ。少しでも地下に入ったり、高層ビルの屋上に出たりすると、とたんに使えなくなる、といった指摘が相次いでいる。
特に、前出の事故現場のような山中では、かなり電波が悪いようだ。
山岳雑誌「山と渓谷」8月号によると、日本百名山の山頂で通話実験をしたところ、5回の発信で3回以上通じたのが、ドコモやauの携帯で5割前後。これに対し、ソフトバンクの場合は、13%に留まっていた。
事故のあった秩父市には、百名山の1つ両神山があるが、実験で通じたのはドコモだけ。事故現場では、auの携帯もつながっており、ソフトバンクは、山頂以外でもつながりにくいらしい。
「周波数帯の違いで他社より通じにくい」
携帯が使えないという指摘について、ソフトバンクでは、どう考えるのか。
同社の広報室では、山中などでつながりにくい状況があることを認めたうえで、こう説明する。
「電波状況には、携帯キャリアごとに割り当てられている周波数帯によって違いがあります。基地局の数そのものは他社に比べて少ないということはなく、つながりにくい主な要因には、このことがあると考えています。山中では、どうしても電波状況に違いが出てきてしまいます」
ソフトバンクの孫正義社長は、2010年3月28日のイベントで、こうした状況を改めようと、電波改善宣言を発表している。広報室によると、周波数帯の問題を克服するには、基地局を他社以上に増やさなければならない。このため、宣言では、その時点で6万か所あった基地局を山中も含めて1年後に倍増させることを打ち出した。その結果、7月末までに2万6000か所の設置が決まり、今後順次工事に入るという。
また、宣言では、自宅やオフィスなどで電波が入らない人に、小型基地局となるホームアンテナを無料で配る、とした。広報室によると、申し込み数は約3万件と順調で、順次設置しているとしている。
それでも、CMに金をかけて十分な設備投資をしていないとの批判も多い。しかし、広報室では、「今年度は、基地局設置を含めて4000億円をかけています。コストをかけていないということはありません」と説明している。
なお、共同通信の広報担当者は、本社デスクがソフトバンクの携帯が使えないというメールを送ったかなどについては、社内の業務連絡用のため内容については答えられないとしている。ただ、事故取材では、ソフトバンク携帯が原因かは分からないとしながらも、山中であったため、携帯がつながりにくい状況はあったという。