「俺の話をちゃんと聞いているのか!」公務員歴30年超の職員が明かす…役所窓口に現れる“ヤバい住民”の実態

「お役所仕事」だから身につけられた!? 民間企業でも役に立つ…公務員ならではの意外な“交渉テクニック”とは から続く

「形式主義で非能率的な官庁の仕事ぶりを皮肉っていう語」と広辞苑で説明されるように、「お役所仕事」という言葉には、どこかネガティブな印象がつきまとう。しかし、公務員は減点主義社会に生きているからこそ、話し方、交渉術、反論術などさまざまな技術を駆使している面もある。

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 そう語るのは、30年以上公務員として働いていた秋田将人氏だ。ここでは同氏の著書『お役所仕事が最強の仕事術である』(星海社新書)の一部を抜粋。窓口に現れるモンスター住民の実情、そして、クレーマーと対峙する際の心得について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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段階的に対応する人を変えて、相手の気力を削ぐ

 公務員が反論する場面は、いろいろとあります。一般的なビジネスパーソンと同様に、対内的な上司、部下、同僚、職員団体はもちろんのこと、対外的にも住民、議員、他の行政機関、NPOや住民グループなどの各種団体など、本当に様々です。この中で、最も気を遣う相手の1つが、やはり住民です。

 皆さんもご承知かもしれませんが、自治体では窓口を始めとして、住民とのトラブルは少なくありません。この理由は大きく2つに分けることができ、1つは自治体側に問題がある場合です。職員の態度が横柄、説明が不十分、電話応対が悪いなどの、職員に関するものの他、待ち時間が長すぎる、たらいまわしにされた、申請書の記入方法が難しいなど、原因はいろいろとあります(関係者の一人として、お詫び申し上げます)。


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 もう1つは、住民の方に問題がある場合です。法令等で決まっているのに無理強いをする、申請期限が過ぎている手続きを要求する、落ちた保育園に入園させろと言うなど、こちらも理由は様々です。

クレーマーにはじっくり相手をする

 いずれにしても、窓口などでトラブルが発生した時には、腰を据えて対応することが求められます。心のこもってない謝罪や、中途半端な対応は、かえって事態を悪化させてしまうのです。ある程度の経験を積んだ職員であれば、経験上、そのことを嫌というほどわかっています。もちろん、職員の説明で理解してくれれば良いのですが、クレーマーとなった場合には、組織的に対応することが必要です。この場合には、いくつかの段階があります。

 第1段階は、一般職員である主任などの担当者が対応します。まず、トラブルの発端となった当事者が謝罪したり、説明したりするわけです。しかし、クレーマーの場合、これで納得することはありません。大声で叫んだり、文句を言ったりします。

 対応している主任なども、こうした時にはじっくり相手をするしかありません。若くて経験の少ない職員であれば、逃げ出したくなります。その気持ちも十分わかるのですが、それでは「トラブルがあると、逃げ出してしまう職員だ」と後で言われてしまうのです。このため、職員は対応せざるを得ないのです。

 ここである程度の時間が経過すると、「このクレーマーは、このままでは帰らないな」ということがわかってきます。そして、同じようなやり取りが繰り返される膠着段階に入ってくると、次の段階を迎えます。

相手の怒りを再燃させるような言葉

 第2段階は、主任などの上司である係長の出番です。ある程度の経験を積んでいる係長であれば、窓口でもめている様子を把握していますから、「そろそろ潮時かな」と思われる時に、「お客様、どうしましたか」と出ていきます。こうした時、クレーマーはだいたい興奮していますので、これまでの事情を自分視点で話してくれます。

 係長は、「それは、○○ということですか?」、「職員が△△と説明したのですか」と事実を確認しながら、相手をクールダウンさせようとします。また、「どのように説明したの?」と同席している主任などにも確認します。もちろん、そこで職員に落ち度があることが判明することもあります。そんな時は、係長が謝罪して一件落着となります。

 しかし、クレーマーであれば、だいたいは住民側が無理を言っていますので、「それはできないですね」と、相手の怒りを再燃させるような言葉をかけざるを得なくなります。すると、当然のことながら、クレーマーの心に火がつきます。そして、やはり、同じようなやり取りが繰り返される膠着状態になると、次の段階を迎えます。

「お客様からお話し願います」などと言い、無理やり話をさせる

 第3段階は、課長の出番です。係長で手に負えなくなると、係長が課長のところへ行って、「すみませんが、窓口でトラブルになってしまいました。お客様の話を聞いてもらっても、よろしいですか」と課長の登場を願いでます。

 もちろん、「そっちで、何とかやってよ」と嫌がる課長もいるのですが、トラブル経験が豊富な課長であれば、「仕方ないな」と出てきてくれます。そして、係長の時と同じように、「お客様、どうしましたか」と聞きます。

 さすがに、クレーマーも疲れてきているので、「そいつに話を聞け」と職員を指名します。しかし、クレーマーの気力を削ぐことが大事な目的ですので、「いえいえ、私も初めて事情をお聞きしますので、お客様からお話し願います」などと言って、無理やり話をさせます。こうなると、さすがのクレーマーも嫌になってきます。

 このように、役所では組織的・段階的にクレーマーに対応します。そして、相手の気力を削いでいくわけです。もし、最初から課長が出ていってしまうと、後がいなくなってしまうので、手数が減ってしまうのです。これは、民間企業でも使えると思うのですが、いかがでしょうか(どこで使えるのかは、よくわかりませんが……)。

「ガス抜き」と「主張の確認」をしてから、反論する

 前項のようなクレーマーに対して、「とにかく説得しよう」と相手の話が終わらないうちに、話を始めようとする職員がいます。若くて正義感の強い職員の場合、「こちらは間違っていない」と信じ込んでいることがあり、クレーマーに負けず劣らずヒートアップしてしまい、何とか論破しようとします。しかし、それは逆効果です。

 そもそも、クレーマー本人が話を聞く態勢ではありません。まだ興奮状態なので、こちらが何を話しても無駄なのです。このため、ただ聞いているしかありません。しかし、何の反応もしないと、「俺の話をちゃんと聞いているのか!」と、これまた火に油を注ぐことになります。このため、時折頷いたり、「それは違います」などの簡単な返事をしたりして、嵐が過ぎ去るのを待ちます。とにかく、言いたいことを言ってもらいます。

 相手にガス抜きさせることは、非常に重要なのです。相手が100%のMAXの興奮状態で話し続けているのなら、こちらから何を言っても無駄です。とにかく話を聞く態勢になるまで、相手側のパーセンテージを下げなければなりません。こちらが、何かを言い返すと、また興奮度が高まることもありますが、そうした上下を繰り返して、相手が話を聞く態勢となるまで、ガス抜きさせる必要があります。

いよいよ反論を開始する段階に

 そして、ある程度のガス抜きが終わり、相手に少しでも聞く態勢ができれば、次に、相手の主張を確認します。相手が何を主張しているのか、客観的に把握するのです。まだ、この段階では自分の意見は言いません。

「○○さんは、私の説明が前回の内容と異なっている、とおっしゃるのですね」、「申請期限を過ぎていても、役所は申請を受け付けるべきだとおっしゃるのですね」など、本人の主張を整理します。これは、もちろん後で反論するための準備です。理不尽な内容であれば、それを取り上げて、後で追及できるからです。

 こうした主張の確認を行うことで、相手自身に主張を整理してもらいます。クレーマー本人が、「この主張ではまずい」と気付くこともあります。そうすると、相手がトーンダウンしたり、主張をすり替えたりしてきます。そうしたことも、こちらでチェックしておき、反論の材料にします。

 そして、いよいよ反論を開始する段階に入るのです。もう相手の主張は明確になり、また、反論材料は揃っていますので、それを相手にぶつけていくわけです。「法令で決まっていることを変更することは、できませんよね」、「先程、○○とおっしゃいましたが、今は△△とおっしゃっています。おかしくありませんか」と少しずつ外堀を埋めていきます。

 ちなみに、クレーマーの主張や対応には、いくつかのお決まりのパターンがあります。

日本人特有の説得方法

 例えば、「先日は、職員が○○だと説明したのに、今日は△△と言う。おかしいじゃないか!」などのようなクレームがあります。しかし、先日の職員とは、誰なのかわからず、調べようもないこともあります。このような時は、「『言った、言わない』を今ここで話しても、どうしようもないじゃないですか」のように、相手に無益であることを知らせて、主張を切り崩していきます。

 また、法令の枠を超えた要求については、「お気持ちはわかるのですが、公務員ですので、法令違反はできないのです」と言うこともあります。公務員ならではのフレーズを持ってきて、相手をあきらめさせようとするのです。日本人特有の説得方法である、「これについては、皆さん、このようにされています」と同調圧力を持ち出すこともあります。

 さらに、職員とクレーマーとの間で同じ話を何回も繰り返しており、一向にらちが明かないことがあります。こうした時に、「もうこれ以上、お話しすることはありません」と職員が話を切り上げようとします。その際、クレーマーから「俺は、市民だぞ。公務員のくせに、市民の言うことが聞けないのか」などと、言ってくることがあります。そのような時には、「あなた一人が市民ではありません。あなたのお話は、もう十分にお聞きしました」と言って、席を立ってしまいます。

反論のフレーズを共有しておくと、意外に便利

 なお、相手の主張にも一定の理屈があるような時もあります。こうした時も、相手の主張は横に置いておき、「○○さんは、そうおっしゃいますが、市としては△△としか言えません」のように、こちらの理屈をただひたすら繰り返し、相手の理屈には乗らないという方法もあります。

 反論する際には、こちらの論旨がブレてしまうと相手につけいるスキを与えてしまいます。何を言われても、同じことを繰り返して、こちらの正当性を訴えるしかありません。また、相手がもう一度ヒートアップしてくる可能性もありますが、それは耐えるほかありません。場合によっては、担当者と係長などの複数で対応して、人数的には有利な立場になることも、1つの方法です。

 こうした例は、一般のビジネスではあまり応用できるものではないかもしれませんが、先のような「こう言われたら、こう切り返せ」という反論のフレーズを共有しておくと、意外に便利だと思うのですが、いかがでしょうか。

【前編を読む】「お役所仕事」だから身につけられる!? 民間企業でも役に立つ…公務員ならではの意外な“交渉テクニック”とは

(秋田 将人)

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