「個人消費」が成長のカギ

なぜ政府の経済対策はピントがズレているのか?

〈これまで政府が行う経済対策というのは、公共事業や助成金など、企業に対する支援が中心だった。こうした支援策は、製造業の輸出とそれに伴う設備投資によって経済を成長させる「輸出主導型経済」の時代にはうまく作用した。

 ところが、今の日本は消費で経済を動かす「消費主導型経済」にシフトしており、従来型の経済対策は効果を発揮しにくい。

 日本の経済構造が根本的に変化しているにもかかわらず、その現実が政府関係者に共有されておらず、結果として、立案される経済対策の多くがピントのズレたものとなっているのである〉

 安倍政権は、「経済政策の成果」を誇り、長期にわたって政権運営を続けてきた。とりわけアベノミクスは、大規模金融緩和で輸出企業に有利な「円安」を誘導し、大企業(輸出企業)中心の「財界」の支持も得てきた。ところが、そもそも「日本は『貿易立国』だ」という認識自体が誤っているというのだ。

日本はもはや「輸出大国」ではない

〈読者の皆さんの中にも、「製造業の輸出こそが日本経済を支えている」と考える人が多いかもしれないが、現実はだいぶ異なる。

 全世界の輸出の中で日本が占める割合は4%を切っており、ドイツ(7.5%)や中国(10.6%)の半分、もしくはそれ以下の水準にまで落ち込んでいる。残念なことではあるが、世界市場において日本はもはや「輸出大国」とは見なされていないのが現実である〉

〈日本のGDP全体に占める輸出の割合は18.5%だが、この数字もかなり低い。典型的なモノ作りの国であるドイツは46.9%、一般的には「輸出大国」とは思われていないフランスでさえ31.4%もある。

 日本は世界最大の「消費大国」である米国(11.7%)に近い水準であり、冷静に数字で判断すれば、日本は消費で経済を回す「消費主導型経済」なのである〉

「個人消費」が成長のカギを握っている

 その上で、加谷氏はこう指摘する。

〈「消費主導型経済」は、「輸出」という外需で経済を成長させるのではなく、自国民の消費で経済を拡大させるメカニズムなので、「個人消費」の動向が成長のカギを握る。

 安倍政権は「日本を取り戻す」として、輸出産業の競争力強化を試みたが、円安によって見かけ上の輸出金額は増えたものの、肝心の輸出数量はほとんど伸びていない。円安が進み、輸出企業にとっては追い風だったにもかかわらず、日本経済が長期的な低迷から脱却できないのは、すでに経済の主役となっている国内サービス業の賃金が上昇せず、消費を拡大できなかったことが原因である。

 日本経済の成長戦略については、それ自体、別個に論ずべき課題であるが、「リーマンショック以上」「100年に一度」とも称される「未曽有の世界経済危機」に直面するなかで何よりも重要なのは、「今の日本経済の主力エンジンは個人消費だ」という正しい認識に基づいた施策である〉

「コロナ危機」に対して日本が採るべき経済政策を論じた加谷珪一氏の「 “戦時国債”50兆円で連鎖倒産を防げ 」の全文は、「文藝春秋」6月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

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