都内のJR三鷹駅近くで39年にわたって営業してきたラーメン店「味の彩華」は、今年1月に廃業を余儀なくされた。「練馬(東京)で10年やって、独立してこの店を出した。この仕事を49年やってきたんです」。そう語るのは店主の木村浩敬氏(75)だ。
「昨年、コロナ禍に入ってから感染者が増えるとともに売り上げが減り、昨夏には7割減でした。それまでは1日に10万の売り上げはあったのに3万円になる日もありました。
休業協力金は東京都からは100万円、国から200万円をいただきましたが、それでも店を続けるのは難しい。ウチは家賃が毎月26万3000円、人件費が月50万円弱かかるのでギリギリで支払いが追いつかなくなって、家賃を5か月ほど滞納しました」(木村氏)
木村氏は、従業員の休業手当をサポートする国の雇用調整助成金も申請した。だが最小限の人数で店を回していたので従業員をあまり休ませることができず、受給額は昨年4月からの半年で約60万円にとどまった。
「お店を開いても赤字がかさんでいくだけの状況で、このまま続けても借金をするだけで立ちゆかないと妻や子供たちと相談して昨年10月に店を閉めることを決めました。
閉店した直後はできれば小さい店でもまたやりたいという気持ちでしたが、このところの様子を見ていると難しい判断だと思っています。確かに感染者は減っているけど、多くの人が内食に移行したので、外食産業そのものがもう元通りには戻らないと思います。
テイクアウトの形態に変えたところは多いが、大手もどんどん進出しているので、ウチのような個人経営の店が競争に勝って生き残るのは難しいでしょう」
コロナが収束したとしても、コロナ経済の苦境は収まることはない―同じような不安を抱く経営者は少なくないはずだ。
経済が正常化しても格差は解消されず
コロナ発生以降、政府や自治体は雇用調整助成金や休業補償など、多額の予算を投じて経済活動を支えようとした。
しかし現実には多くの企業がコロナ倒産に追い込まれた。帝国データバンクの調べによると、コロナ関連の倒産件数は2063件(9月21日時点)。業種別でみると、最も多いのは飲食店(350件)で、建設・工事事業(212件)、ホテル・旅館(109件)などが続く。帝国データバンク情報部情報取材課の佐古真昼氏が指摘する。
「昨年11月に発生した第3波と年末年始の需要消失、年明けの緊急事態宣言とその再発出や延長が企業の業績を直撃して、今年3月以降の倒産が急増しました。今年3月以降の倒産は、全体の倒産のおよそ半数を占めています。国などの資金繰りの支援策はありましたが、抜本的な改善には繋がらず、ただただ延命治療をしただけと考えられます」
テレビでは連日、緊急事態宣言下での行動制限や医療逼迫ばかりが報道されたが、その陰でコロナ経済による犠牲は広がっていた。コロナ倒産した企業を取材したジャーナリストが語る。
「多くの企業で、目の前の資金繰りに追われる経営者の大変な姿を目の当たりにしました。コロナ禍で資金繰りが急激に逼迫して倒産した年商数億円規模の銀座に本社を置く会社の社長は『コロナさえなければこんなことにならなかった』と洩らしていました。倒産直後には、気が動転して車で事故を起こしてしまったそうです」
前出の佐古氏が語る。
「今後、コロナ融資の返済が始まる企業が増加するなか、メドが立たず士気も低下して事業継続をあきらめるパターンなど、コロナの影響を受けた企業の倒産は増加していくとみています。さらに経済が正常化しても、業界によって格差が出てしまい、倒産に繋がるという見方もしています。
2022年2月までの倒産件数は最大で月間900件ほどに達すると予測しています。最も倒産が増えるのは11月あたりと予想しています」
※週刊ポスト2021年10月8日号