ビジネスの成功は、「儲ける方法」がカギとなることはいうまでもない。この「儲ける方法」は近年、インターネット、スマホ、AIなど新しいテクノロジーの誕生によって、大きく変化してきている。これから先、何十年も継続して利益を上げていく企業になるには、時代の変化に合わせて柔軟に「儲ける方法」を変えていく必要があるだろう。そこで、新刊『図解 うまくいっている会社の「儲け」の仕組み』(青春出版社)から、従来の売り方のセオリーから、あえてビジネスモデルを変えた企業の取り組みについて抜粋して紹介する。
航空機エンジンメーカーが“エンジン”を売らずに儲ける?
今年のゴールデンウィークは10連休ということもあり、海外旅行で飛行機を利用する人も多いのではないだろうか。最近では、LCC(格安航空会社)が増えたこともあり、全世界ではなんと約1500社もの航空会社が日々、運航している。これだけ多くの航空会社がありながら、じつは航空機のエンジンメーカーは多くはない。英・ロールス・ロイス、米・ゼネラル・エレクトリック(以下、GE)、同じく米・プラット&ホイットニーの3社で市場シェアの約90%を占めている。つまり、世界中を飛び回っている飛行機のエンジンはほぼ全てこの3社によってつくられており、航空機のエンジンメーカーは、実質的に「3社しかない」ともいえるだろう。
この3社の中でもトップシェアを獲得しているのがGEだ。そうなれば、「GEがどうやって儲けているのか」という問いに対しては、誰もが「高性能なエンジンを売って儲けている」と思うだろう。しかし、GEは航空機のエンジンメーカーでありながら、エンジンをつくって売るというビジネスモデルを大きく変えた。エンジンを売るだけではなく、「エンジンの稼働時間」や「エンジンの回転数」に応じて課金するビジネスモデルへと大きくシフトしたのだ。航空会社には、エンジンの購入代金を支払ってもらうのではなく、GEのエンジンで実際に飛行機が「飛んだ分の料金」を支払ってもらっている。それが、GEの収入となり、儲けにつながる。つまり、「エンジンの稼働時間や回転数を売っている」ということ。これは、稼働課金や従量課金と呼ばれるビジネスモデルだ。
GEがこうしたビジネスモデルを確立できた背景には、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれる技術の進展がある。IoTとは、さまざまなモノにセンサーを付けて、計測したデータをインターネット経由で収集し、分析する技術のこと。GEではエンジンに無数のセンサーを取り付け、エンジンの回転数や出力、燃焼状態から、エンジン部品の状態などを、リアルタイムにモニタリングしている。このように、IoTで収集したデータを分析することで、「エンジンの出力(回転数)×稼働時間」を測定し、それに応じた課金ができるようになったのだ。
さらに、GEでは、IoTでモニタリングしたデータを詳細に分析し、さまざまな航空路線において、「燃料消費が少ない最適な飛行ルート」を算出し、航空会社にデータとして提供している。これも新しいGEのビジネスだ。「モノをつくって売る」ではなく、「使ってもらってお金を稼ぐ」ビジネスモデルへと移行したのである。これは、顧客や消費者のニーズがモノを「買いたい」から「使いたい」に移ってきているということを示している。そこに新たなビジネス誕生のヒントが隠されているのかもしれない。
世界トップクラスの建機メーカーは“データ”で儲ける!
次は、日本で最大のシェアを誇る建設機械メーカーの小松製作所(コマツ)。世界シェアでもアメリカ・キャタピラー社に次ぐ堂々の2位で、国際企業としてアメリカの他にヨーロッパ、アジア、中国、ブラジルなど世界各地に50カ所もの生産拠点を構えている。
取り扱い商品からして重厚長大なイメージを受けるコマツだが、その好調なビジネスモデルの中核にあるのは、じつはコムトラックス(KOMTRAX=Komatsu Machine Tracking System)というITシステムだ。このコムトラックスは、世界中で稼働台数約50万台ともいわれるコマツの建機が発信する情報を、通信衛星回線や携帯電話回線を通して一手に集めるシステム。それぞれの建機が今どこでどのように稼働しているか、燃料はどれくらい残っているか、故障した場合は、どこが故障したかなどの情報が逐一、コマツに送られてくる。
このコムトラックスが集めた、世界中の工事現場や建設現場で動いている「コマツの建機からの膨大なデータ」が、じつはコマツの利益の根源だ。例えば、コマツの建機が故障した場合、現場から電話連絡が入るより早くコムトラックスが故障箇所や故障の状態、必要な交換部品を知らせてくれる。その情報をもとに近くの販売代理店が純正交換部品を持って迅速に現場に駆けつける。これが積もり積もれば、故障やトラブルで建機が稼働できない状態が減り、作業効率全体が上がるわけだ。
故障以前に常時建機をモニタリングすることによって、オイルや消耗パーツなどの交換時期が予測でき、故障発生を未然に防ぐこともできる。こうしたことはユーザーだけでなく販売店にとっても明らかなメリットだ。建機は、本体価格そのものより、メンテナンス費用やランニングコストのほうが高く、時にそれは本体価格の10倍にもなることがあるという。だからこそ、事前に故障を防いでメンテナンス費用を抑え、稼働状況のモニタリングで燃費向上を図り、ランニングコストを下げれば、コマツユーザーやコマツの販売店にとって大きなメリットだ。
さらに、「データで儲ける」というコマツは、顧客にサービスを提供するためのマーケティングにもコムトラックスからのデータを活用している。先述のように、オイル交換のタイミングや、点検が必要な部品のデータが集まれば「予防保守」につながり、顧客の現場作業の効率も上がる。また、建機が動いていた時間と、エンジンがかかっていた時間とを対比させれば、「エンジンがかけっぱなしで放置されていた時間」を割り出し、作業現場のムダも改善できる。
このようなシステムは、迅速な顧客対応や純正部品販売によって販売店にも高い利益をもたらし、もちろんコマツ自身も正確な需要予測や生産計画を立てられる。単に建機というモノの販売で終わることなく、モノから集まった膨大な情報、ビッグデータを活用してコマツにも顧客にも販売店にとっても有益な新しい価値を生み出す、これが「コマツ型ビジネスモデル」の本質だ。
赤字になってもテレビCMを出し続ける理由とは?
最後は、「それさぁ、早く言ってよ~」のテレビCMシリーズでお馴染みのSansan 。名刺を専用のスキャナーでスキャンして、クラウド上のサーバーで保存する名刺管理サービスを提供している。会社でこのサービスを導入すると、全社員が集めた名刺をまとめて管理できるようになるクラウド型の名刺管理システムだ。テレビCMではないが、大切な顧客企業のキーパーソンとコンタクトを取りたいが、「連絡先がわからない」といったとき、社内の誰かが名刺交換をしていたら、そのデータを名刺管理システムの中から探し出せる。社員のみんなが交換した大切な顧客情報である名刺を、社員みんなの共有財産として活用できるのがメリットだ。
Sansan が、多くの人に知られるようになったのは、テレビCMの効果によるところが大きいが、設立は10年以上前の2007年。当初は、Link Knowled(リンクナレッジ)というサービス名だったが、2013年にSansan に変更し、同時にサービス名の認知度向上のためのテレビCMも開始した。
現在では、他社もさまざまな名刺管理サービスを提供しているが、Sansan は市場シェア(金額ベース)で82%を獲得。約7000社に導入されているという。創業からわずか10年たらずで、市場シェアで圧倒的な優位を確保したSansan 、さぞ儲かっているのだろうと思いきや、じつは「赤字企業」なのだ。ただし、そこには理由がある。官報に公示されたSansan の2018年5月期の業績では、売上高が前期比51%増の73億1800万円となったものの、当期純利益がマイナス32億9400万円。不思議なことに、売上高はここ数年、急拡大しているのに赤字が続いている。
赤字が続いている理由の一つは、販売管理費の増大、つまりはテレビCMの費用がかかっているからだ。テレビCMはお金がかかるので、ある意味、「赤字を承知」でSansan がテレビCMを継続しているとも考えられる。その狙いは、Sansanの認知度をさらに高め、現在の82%のシェアをさらに拡大し、市場での圧倒的な優位を確立するため。そして、とにかく一度でいいから、企業に「使ってもらうこと」を狙っている。というのも、Sansanのサービスは、導入した企業の「継続率が99%」と極めて高いのだ。この驚異的な継続率からもわかるように、一度でも導入して使ってもらえば、後から「使うのを止めます」ということがほぼ100%ないのである。
日本国内には大中小あわせて約360万もの企業があることを考えると、たとえ市場シェア82%とはいえ、「まだ7000社にしか導入されていない」とも考えられる。市場はまだまだ広大だ。競合サービスもそこを狙う。だからこそ、今はまだもっと多くの企業にSansan を知ってもらい、とにかく一度でも「使ってもらう」ことが大切になる。つまり、Sansan が赤字が続いてもテレビCMを流す理由は、認知度のさらなる向上という重要な戦略なのである。
今回紹介した3社をはじめ、今成功している企業の儲けの秘密を探ってみると、従来のビジネスモデルにおける「儲けの仕組み」を変えることで、利益を上げているケースが多いことに気がつく。このような儲けの仕組みを変えたビジネスに共通するキーワードは、本業を成長させるために「あえて○○してみた」ということではないだろうか。「あえて○○してみる」ことで、それが顧客に対する付加価値となり、そこが認められれば、製品が売れたり、サービスが導入されたりする。それが、ビジネスモデルを変えていくきっかけとなり、儲けにつながっていくのである。
次回は、ターゲットとする市場つまり「儲ける場所」を変えることで成功した企業の取り組みについて述べていきたい。