「内部告発はこうして握り潰された」ビッグモーター前社長の甥が衝撃の独白! 前社長に不正を通報すると「仲良くせい!」

ワンマン社長辞任後も続々発覚する「ビッグモーター」の不正。違法行為のオンパレードに闇の深さがうかがい知れる。不正を知り、前社長と前副社長にいち早く通報していた同社勤務の甥が、この度初めて取材に応じた。「内部告発」はいかにして黙殺されたのか――。「内部告発をもみ消されたビッグモーター前社長の甥が初独白! 『LINEで不正の証拠写真を送っていた』」からの続き

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「記者会見で社長を見て“年取ったなぁ”と思いましたよ」

 ビッグモーター前社長にしてオーナーである兼重宏行氏(71)。その甥(49)はこう語り始めた。

 会見で前社長は、不正について「天地神明に誓って知らなかった」と述べ、大きな批判を浴びたが、

「社長は板金のことがわからないので、不正かどうか判断がつかなかったのは事実だと思う。ただ“知らなかった”はないだろう、とは思いましたけどね……」

 翌7月26日、社長を辞任した兼重氏。これで火消し――ともくろんだであろうが、その後も同社の大炎上はやみそうにない。

 国交省は道路運送車両法違反の疑いで現社長ら幹部への聴取を行い、34店舗へ一斉に立ち入り検査を行った。消費者庁も内部通報制度の運用状況を調査。金融庁も保険の取り扱いを巡り、報告徴求命令を出している。

違法行為でも盲従

 何より衝撃を与えたのが、街路樹“枯死事件”だ。

「これはとんでもない話ですよ」

 とは、ビッグモーターの不正を取材してきた、自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏である。

 既に報じられているように、同社は全国の店舗前で除草剤をまくなどして街路樹を枯らしたり、伐採したりした疑いが持たれているのだ。

「始まったのは2003年ごろのこと。道路から店の看板や並べてある車が見えるようにと、兼重社長がツツジなどについて“低い位置で葉っぱをそろえろ”といった指示を出していた。それを現場が道路に葉っぱ一枚落ちていてはならないと過剰に受け取り、落ちていると店長の査定にも影響するようになってしまった。それがエスカレートし、枯らしたり、伐採したりするまでになったんです」

 これが器物損壊行為であることは疑いない。トップの言うことなら違法行為でも盲従する――同社の体質を物語る話である。

〈告発をもみ消したと言わざるを得ない〉

 同社は兼重氏が代表を務める資産管理会社が株の全てを持つ、いわゆるオーナー企業。前社長に誰もモノ言えなかった――。そう報じられているが、こうした企業風土に抗い、不正を内部告発していた人物がいることは知られていない。

 不正がまん延していた昨年1月、兼重氏に意を決して内部告発したのが、甥にあたる同社の従業員なのだ。

 その事実は、6月26日、同社の特別調査委員会が提出した「調査報告書」でも明らかになっている。

〈工場従業員からの告発の黙殺〉

 そう書かれた節では、同社の千葉県・酒々井(しすい)店の工場長(当時)が営業成績を上げるため、従業員に車を損傷するよう指示していたと認定。

 そして、

〈不適切な作業を実施させられることに不満を抱えていた他の作業員らからの懇請を受け〉

 塗装作業員として同工場に勤務していた兼重氏の甥が、実態を通報したとある。

 しかし、

〈社長は真偽を真摯に調査する姿勢を見せなかった〉

 そのため、報告書は、

〈結局、告発を契機として不適切な行為に関する実態調査が実施されることはなく、その後も全国の工場において、不適切な行為が継続された〉

〈結果的には告発をもみ消したと言わざるを得ない〉

 と断罪しているのである。

「私の前では不正はしなかったんですが…」

 不正は常態化していたものの、この時対応に乗り出していたら、同社が自浄能力ある組織として再生する道は残っていたはずだ。

「告発時、店では不正が横行していました」

 と甥が語る。

 同氏は兼重氏の長兄の息子にあたる。高校を卒業後、板金店を経て、叔父の会社に入社し、塗装作業員として勤務。一旦転職するも、再びビッグモーターに戻ってきた。取材に応じるのはこれが初めてのことだ。

「工場長の指示で不正が行われていました。もっとも、私が社長の甥であることはみな知っていたので、私の前では不正はしなかったんです。しかし、裏で指示が出されていた。報道にあるような、車をハンマーでたたいたり、サンドペーパーで傷つけたりといったようなことですね。私らは車のプロなので、見ればわかるんです」

 実際、こんなこともあったという。

「その前の工場長の時でしたが、お客さんが持ち込んだ車の窓ガラスがフルスモークだったのに、剥がさないで作業しようとしていた。ちょうどその時に『環境整備点検』がありました」

 今回の報道で有名になった「環境整備点検」とは、副社長などが全国の店舗を月に1度程度回り、掃除や整理整頓が行き届いているかをチェックする“イベント”だ。この際の対応が悪いと工場長などが降格させられることがある。

「上に見つかることを恐れて、工場長は隣のアウトレットモールの駐車場に車を隠した。さすがにまずいと思い、私は宏一に伝えました」

 この宏一氏こそが前副社長だ。早大卒業後にMBAを取得し、ビッグモーターに入社。行き過ぎた利益至上主義で不正を生んだ元凶といわれ、父と共に辞任した人物だ。甥とはいとこの間柄になる。

逆らうと「工場長が暴れる」

「すると、工場長はすぐに降格になったんです。が、次の工場長に代わると不正は日常化していった。そればかりか、パワハラもひどかった。社員の胸倉をつかむなんて日常茶飯事。残業を終えて帰宅した社員を呼び出して仕事をさせたり、現場に作業を押し付けて自分はクリスマスパーティーをしたり……」

 そんな時、内部告発につながる話を聞いたという。

「工場長の命令で不正に手を染めていたわけですが、不正が嫌いな従業員、協力したくない従業員もいたんです。そのうちの一人が僕のところに来た」

 その従業員は20代半ばで、主に板金を担当していた。現在は退職したその元従業員が言う。

「工場長の指示で、後ろのバンパーの中にあるパネルをハンマーでたたいたり、サンドペーパーで線傷を付けたり……。正しい修理をしても、現場のスタッフづてで工場長から“ここもやれ”“あそこもやれ”と不必要な修理を命令されてしまうんです。誰も文句は言えませんでした。言えば工場長が暴れる。部下の胸倉をつかんでいる光景を何度も見ました」

 そのため、唯一“上”にモノが言える存在である甥に話をしたのだという。

不正を告発すると「仲良くせい」

 再び甥が言う。

「話を聞いて、さすがにひどいと思ってね。ある休みの日、現場の人から副社長が環境整備に来ていますよ、と連絡を受け、チャンスだと思って工場に向かったんです。で、宏一に“大変なことが起きとんぞ”“車ぶっ壊しとるわ”と。すると宏一は“えぇっ!”と驚いていた」

 その際、甥は「タワー」なるけん引機を用いる不正についても説明したという。車の内板骨格の修正をする際、人力だけでけん引が可能なのにもかかわらず、わざわざ工賃が高額になるタワーでけん引を行い、保険金を過大に受け取る“偽装”である。

「写真を見せて“タワーって知っとる?”と聞いたら、“わからないです”と言う。で、“社長にLINEで送ってください”と言うので、今度は社長に送った」

 そこには工場長が不正の指示を記した“証拠”書類の写真も添えたという。

 ところが、だ。

 兼重氏からの返信は「(工場長と)仲良くせい」「何で協力できんのや」との内容だった。

「がくってなりましてね。“いや、協力したらこっちが捕まるがな”と。社長も板金は素人なんですよ。だから僕のLINEを見てもわからなかったんでしょうけどね」 

“自分たちで傷つけるのは駄目よ”

 前社長は板金・塗装部門の幹部であるBP部長にLINEを転送したという。

「これはいいのか?と聞いたら部長は“時と場合によります”と言ったらしい。すぐに今度は部長から僕のところに電話がありました。で、工場長の悪行について厳しい言葉で伝えたんです。“あいつ許せん”くらいの感じで。だって確実に法律違反じゃないですか。でも部長は真剣な感じじゃなかった。電話の後ろで“駐車券お取りください”みたいな音が聞こえましたからね。他のことをしながら話半分で聞いていたんじゃないですか」

 翌日、部長は酒々井店を訪れた。

「でも、工場長は“自分は絶対そんなことしてない”と言い張った。僕も職場の雰囲気が悪くなるのは困るし、家族もいる。で、矛を収めたんです。最終的には部長が“自分たちで(車を)傷つけるのは駄目よ”と注意したくらいで、コーヒーを飲んで終わってしまいました」

 告発が握り潰された瞬間だった。

不正したのに出世

 もし組織に真っ当な危機管理能力があれば、ことの重大さに気付き、すぐに対処したはず。しかし、実際は甥と工場長との確執に矮小化された。感度の低さと、それが通ってしまう現場の空気がよくわかる。

 逃げ切れたと思ったのか、その後、工場長の横暴は増す一方だったという。

「酒々井店の営業成績は非常に良かったんですよね。社長も“日本一だね”みたいなLINEを工場長に送り、ゴルフに連れて行ったりもしていた。だから、工場長も“褒められとるぞ”“明日は社長とゴルフだ”と有頂天になっていたし、何とその後に昇進もしているんです」(甥)

 不正を告発された側が出世するとは、何と歪(いびつ)な組織であろうか。

「一方で、従業員からは、社長の身内の私が言っても解決しなかったことに絶望する声が相次いだ。実際、その後、数名が辞めてしまっているんですよ」

 現場を覆う落胆と悲嘆。

 前出の元従業員も言う。

「それでも改善されなくて、“結局、こういう会社だったんだなあ。言ってももう駄目なんだなあ”と思いましたよ。で、もう内部での解決は無理だ。最終手段だが外部に告発しよう、と。退職を決め、損保会社に洗いざらい伝えてやろうと思いました。自分が悪いことをしているなんて思っていない。とにかくもう不正をしたくないという思いが一番でした」

“毎日不正していますよ”

 元従業員は、不正な保険金請求の情報提供ホットラインに通報。が、ひと月以上も音沙汰がなかった。そこで、今度は甥が催促の連絡をした。

 甥が言う。

「“毎日不正していますよ。早くしてください”と。そうしたらようやく連絡が来たんです」

 こうして損保各社は不正を知ることに。ビッグモーターに調査を要求し、同社もその結果を報告したが、不十分な内容に各社は納得せず。前述の特別調査委員会が設置され、この6月、報告書が提出されて大規模な不正が明るみに出たわけだ。

 経緯を振り返ってみると、甥と元従業員、この二名の告発が無ければ、未だに不正は闇に包まれたままだったといえるだろう。

『男の死に方』

 改めて、甥は叔父である兼重氏のことをどう思うのか。

「社長は社内では完全に“神様”になっていました。甥の僕ですら声をかけづらい感じで。本人が怖いわけではなく、本人が持つ“権力”がみな怖かったんでしょう。ただ最近は、年齢もあり、経営のほとんどを宏一に任せ、自分はゴルフばっかりしていました」

 その宏一氏は記者会見にも出てこなかったことで、今も非難を浴びている。

「宏一は、もちろんいとこで年上の僕に対しては丁寧ですよ。ただ、他の従業員に聞くと評判は最悪ですね。絶対に自分から頭を下げないそうですし、“ボケ”とか罵倒しているLINEも見たことがある。ある店舗に常駐していた業者さんが、お土産にもらった酒を社内に置いていたんですが、それを見た宏一がLINEで“こいつ仕事中に酒飲んでるんですね”“すぐに辞めてもらってください”と送信しているのも見たことがあります」

 叔父は昔から“仕事の鬼”だったという。

「ほとんど家にはいませんでしたよ。また、ああ見えて勉強熱心で、家の本棚にはびっしりとビジネス書が並んでいた。読もうとしたことがありますが、すぐに頭が痛くなってやめました。『男の死に方』みたいな本が並んでいたのも記憶にあります」

 今となっては実に皮肉なタイトルの愛読書である。

“金が狂わしたのかな”

 一方の宏一氏は、

「小さい頃は、体が弱くてね。ちょっと暗くて、気が弱い感じでした。でも頭は良く、親戚の間では“ビッグを継げるのはこの子しかおらん”と言われていました」

 その子が会社を存続の危機に陥らせているのだから、これまた皮肉な話である。

 新体制のビッグモーターに、なぜ内部告発をもみ消したのか尋ねると、

「告発者と工場長の個人的な確執により、誇張されたものにすぎないだろうという先入観を持っていたため、十分な対応ができませんでした。不適切であったと深く反省しております」

 と回答。しかし、現在の同社を巡る危機的状況を見れば、その「反省」は後の祭りと言わざるをえない。

 甥が事件発覚後、前社長の実兄に当たる、自身の父と話した時のこと。

「父は社長と長い間、連絡を取っていないんですが、“あいつもお金に困っていたんかなあ”と呟(つぶや)いていてね……」

 それどころか、本誌(「週刊新潮」)8月3日号でも報じたように、兼重氏は資産管理会社の名義で東京都目黒区に噴水・滝・茶室付きの大豪邸を構え、軽井沢や熱海に別荘を建築。クルーザーまでも所有する大富豪である。

「だから、ネットに上がっている豪邸の写真を送って、“見たか。ホテルみたいだろ?”と言った。そしたらポツリと“金が狂わしたのかな”と……」

 辞任後、兼重氏はLINEアカウントを削除。甥も連絡を取っていないという。

 内部告発はこうして握り潰された。すべての組織人にとって、他山の石としたい顛末である。

「週刊新潮」2023年8月10日号 掲載

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