宮城県内で最近「刃物のような物を持った男がいる」という通報が警察に相次いで寄せられている。実際に男を確保する事案は少なく、刃物とは別の物と見間違えたケースもあったという。専門家は「刃物所持男の速報が拡散され、不安を感じた住民がすぐに通報する連鎖が生まれているのでは」と推測する。人々の不安や警戒心が一気に広がりやすい情報化社会特有の現象と言えそうだ。
宮城県警「気になったら110」
「刃物様の物を所持した男の目撃情報が寄せられ、警戒中です」
宮城県警の防犯メール「みやぎセキュリティメール」は4月以降、刃物所持男の速報が増えた。配信は同月に5件、5月も6件あり、県警担当者は「こんなに短期間に多くの目撃情報が寄せられるのは珍しい」と話す。
目撃エリアはまさに「神出鬼没」だ。メールによると、仙台市青葉区で3件、太白区と名取市がそれぞれ2件、宮城野区、泉区、石巻市、柴田町でそれぞれ1件となっている。
このうち、太白区と石巻市のそれぞれ1件は強盗事件として県警が捜査。泉区の1件に関しては通報から2時間半後に警察官が男を発見し、その後銃刀法違反容疑で逮捕した。
問題は残りの8件。通報を受けて警察官が駆け付けても、刃物を持った男が見つからなかった事案だ。
5月19日、青葉区のJR仙台駅前で「刃物のようなものを持った男がいる」と110番があった。警察官が防犯カメラ映像などで特定した男性に事情を聴いた結果、手にしていたのは刃物ではなく「ガラケー」と呼ばれる従来型携帯電話だった。
メールでは配信されなかったが、柴田町で同月18日夕、スコップを持っていた男性が「包丁のような物を手にしている」と誤って通報されるケースがあった。
このため、8件の通報には勘違いのものも多く含まれているとみられる。
東北大大学院文学研究科の荒井崇史准教授(社会心理学)は「刃物所持男の情報が防犯メールやツイッター、報道などで拡散されている。情報を受け取った住民が敏感になり、刃物に見えた物をすぐに警察に通報する連鎖が生まれているのかもしれない」と分析する。
昨年8月には東京都世田谷区を走行中の小田急線電車内で乗客が刺される事件があり、今年1月も同文京区の東大前で大学入学共通テストの受験生ら3人が刺された。刃物に絡む事件は重大化しやすく、宮城県警はたとえ誤報であったとしても、積極的な通報を呼びかけている。
生活環境課の担当者は「万が一でも凶悪事件を発生させてはいけない。気になることがあれば通報してほしい」と話す。