「動物園みたい」野鳥に愛される三菱電機工場 エコ社員の育成に力注ぐ

大手電機メーカー、三菱電機の工場スタッフらが自主的に「野鳥保護」に取り組んでいる。
 巣を作ったカルガモの子育てや巣立ちを夜明け前から支援したり、用水路や緑を増やし、野鳥が訪れやすい環境を整えたり…。強制ではないにもかかわらず、多くの社員が喜んで参加するというのだ。背景には、三菱電機ならではの“環境マインド”があるという…。
 昨年6月。液晶テレビなどを生産する京都製作所(京都府長岡京市)敷地内の道路わきにある植え込みで、7つの卵を温めているカルガモの親鳥を清掃担当の従業員が見つけた。約1500人が勤務する工場内で産卵するのは無謀にもみえるが、出入りする人が多いためか、カラスやネコなどの“天敵”が近づきにくく、カモが好んで巣を作る傾向があるようだ。
 それでも、植え込み横の通路は大型トラックがひっきりなしに行き交う。「黙って見ていられない」と同製作所総務部の男女約10人が“見守りチーム”を結成し、各自の休憩時間などに交代で親鳥を観察する態勢が敷かれた。チーム員は約1カ月間、午前5時ごろに出社して親鳥の体力が弱っていないか確認したり、外敵から守るために工事用のコーン=円錐(えんすい)形の器具=で植え込みを囲んだり…。
 苦労のかいもあって、7羽のひなが無事孵化(ふか)したが、ヒナたちが道路に出ないよう、巣の周囲に柵を張り巡らせるなど献身的なサポートを続けた。カルガモ親子が近くの田んぼに引っ越す際には、数人の社員が夜明け前から付きっきりで見守った。途中、ヒナ1羽が用水路に落ち、「あわや危機一髪」というアクシデントにも見舞われたが、社員が無事救出。親子が田んぼまでたどり着いたときには、「皆が胸をなで下ろした」(関係者)とか。このほか、エレベーターやエスカレーターなどを手がける稲沢製作所(愛知県稲沢市)でも、カルガモが約5年前から屋上で毎年産卵し、社員が休憩時間中に見守っている。
 「工場で、野鳥がこんなに確認できる企業は少ないと思いますよ」。三菱電機のある女性社員は誇らしげにこう語る。京都製作所など各工場では、カルガモだけでなく、セキレイやムクドリなども巣を作る光景がよく見られるという。かつての企業の工場は煤煙(ばいえん)をまき散らし、環境破壊の元凶のようなイメージを持たれてきたが、三菱電機は、工場の環境保護に力を入れており、取引先などの見学者は「まるで動物園みたい」と驚きの声を上げるほど豊かな自然にあふれているようだ。
 同社は、平成26年度までの3カ年グループ環境計画で、生産段階で排出する二酸化炭素(CO2)の量を、売上高原単位で22年度比17%(12万1000トン)削減する目標を掲げている。環境保護の狙いはCO2削減だけにとどまらない。太陽電池を生産する飯田工場(長野県飯田市)では、正門周辺に70本以上のリンゴの木を育てている。他の植物でもCO2削減にはつながるが、野鳥が好むリンゴを選び、「人間と動植物の共生空間」を目指している。実際に野鳥が巣を作って産卵すれば、親身になって子育てまで支援する。こんな企業はまれだ。
 三菱電機は、社員が「リーダー(講師)」となり、里山や自然公園での動植物観察などの「親子野外教室」を18年から毎年、無料で実施。開催は全国28地区で120回以上に達しているが、同社は野外教室のリーダーを育成するため、社内講習までやるほど力を入れる。自然保護団体の協力で1泊2日の合宿を実施し、これまでに修了したリーダーは200人を超える。「資源を利用する製造業だからこそ、環境意識の高い人材を育てなければならない」。カルガモを見守った京都製作所総務部総務課の濱野信幸さんはこう意気込む。三菱電機の環境マインドは他のメーカーにも影響を与えそうだ。(板東和正)

タイトルとURLをコピーしました