「原チャリ」も滅びゆく日本のガラパゴスか、規制強化で存続難しく

(Bloomberg) — 首都圏の台所、築地市場そばに店を構える堂故商店は乾物や冷凍魚介類を取り扱い、創業以来約30年にわたって銀座などの飲食店に送り届けてきた。それに欠かせないのが排気量50cc以下の原付1種バイクだ。

商店を経営する堂故博之さん(63)によると、店で使っているのはホンダの業務用3輪スクーター「ジャイロUP」。取り回しやすいサイズながら後部の大型荷台に30キロまでの荷物を積むことが可能で、「大きさ的にちょうどいいし良くできている。狭いところでも止めやすくて仕事には欠かせない」と話す。配達で横浜あたりまで行くことがある一方、目と鼻の先の市場との往復で狭い路地も走り回るなど大活躍しているという。

しかし、こうした光景は近い将来見られなくなるのかもしれない。ほぼ日本だけで普及する車両区分で「原チャリ」の愛称で親しまれてきた原付1種が世界的な排ガス規制強化の中で存続が難しくなり、主力メーカーが生産を打ち切る可能性が高まっているためだ。

ユーロ5の衝撃

業界国内首位と2位で長年ライバル関係にあったホンダとヤマハ発動機は昨年10月に提携検討を発表し、ヤマハ発は原付1種の自社開発と生産をやめ、ホンダからOEM(相手先ブランド生産)供給を受ける方向となった。ヤマハ発の柳弘之社長は6月のインタビューで、提携は排ガス規制のさらなる厳格化を見越した決断とした上で、開発コストの高騰などで規格そのものが存続できなくなる可能性について「そういうことになるかもしれない」と述べた。

国内二輪車の排出ガスについては、欧州規制基準「ユーロ4」に準じた規制が昨年から順次適用されている。ユーロ4では一酸化炭素や窒素酸化物などの規制値が従来の半分前後に抑えられる。9月からはそれが継続モデルに関しても適用されることになり、メーカーは対応を迫られている。

ホンダは8月に「モンキー」の生産を終了するほか、同社ウェブサイトでは「トゥデイ」など3モデルについて生産終了としている。安部典明二輪事業本部長は、現在の価格で新規制に対応することは「現実的でなくなった」という。これまで規制に何とか対応してきたものの、「技術的には限界にきていてお客さんが満足できるものにならなくなってきている」と決断の背景を明かした。

環境省は20年から欧州の次期規制「ユーロ5」と同じ目標値を導入する方針を決めた。全ての規制物質で排出量規制が強化されるだけでなく、排気量などで3つのクラスに分けて設定していた規制値が全ての二輪車で一律となるため、原付1種など排気量の小さいバイクは大きな影響を受けることになる。欧州連合(EU)の16年の調査によると、一連の規制強化により今後20年間でバイクの排ガスを半減できるようになる反面、1台当たりのコストは111ユーロ(約1万4000円)上昇するとしている。

ヤマハ発の柳社長は、ユーロ5の導入で二輪メーカーにとって「もう一段ハードルが高くなる」とし、全クラスのバイクで開発コストの上昇など大きな影響が出てくると述べた。二輪車の排ガス規制に関しては欧州基準が世界標準になっているとし、「これは新たな戦いですから、やらざるを得ない」と話した。

ホンダ、スズキも

ホンダも排ガス規制強化による製造コスト上昇で排気量の小さいバイクほど生き残りにくくなるとみている。こうした中で進めているのが電動化に向けた対応だ。3月には郵便配達用バイクの電動化に向け日本郵便と実証実験を始めることで合意した。ホンダの青山真二取締役は「今ガソリン車でやっていることが電動車に置き換わっていく」として、環境対応の観点で今後電動化に向かうことは「間違いない」と述べた。

スズキの鈴木修会長は5月の決算会見で、アジアでも小型バイクの主流が「150ccに移っているという傾向が出ている」とした上で、日本でも「100ccとか50ccとかいうのはなくなっていくのではないか。125とか150が小さい車の限界になるのではないか」と述べた。

二輪車の排出ガス規制は国内で1998年に初めて導入された。それ以降段階的に強化され、メーカー側はその都度、技術開発を進めて対応してきた。環境省水・大気環境局環境管理技術室の笠井淳志室長補佐は排ガス規制の強化にあたってはメーカー側の意見も聞いており、原付1種を含めてユーロ5でも技術的には対応可能という前提で導入が進められたという。車種によって投資回収の見通しは異なり、どの車種を生産停止にするか継続するかはメーカー側の判断になると述べた。

市場は17分の1に

ホンダは終戦後まもない47年に自転車用補助エンジンとして50ccの「A型」の生産を開始。58年には「スーパーカブ」の初代モデル「C100」を投入した。高出力・高燃費に加えて片足だけでギアチェンジができる使い勝手の良さで配達用バイクとしても活用され、ヒット商品となった。

原付1種の人気がピークだった82年の年間国内出荷台数は278万4578台で二輪全体の約85%を占めた。その後、販売は減少傾向を続け、昨年の市場規模は16万2130台と17分の1程度に縮小している。

スクーター専門誌「スクーターデイズ」の岩崎雅考編集長はヘルメット着用の義務化や駐車違反の取り締まり厳格化などで利便性が損なわれていく中、電動アシスト自転車など代替製品が普及したことなど原付1種の衰退には複数の要因がからみあっていると指摘する。

メーカーにとって原付1種は「ガラパゴス化した上、販売台数がここまで落ちると開発費がかけられない。かけたとしてもどこで回収するかというと車両の金額に跳ね返すしかなく、そうなると価格とのバランスが取れない」という。将来的になくなる方向にあるのではとした上で、重いバイクを扱えない高齢者や販売や整備で生計をたてているバイク店の経営など社会に及ぼす影響は大きいとの見方を示した。

125ccか電動か

ヤマハ発の柳社長は、原付1種のあとに置き換わるのは海外でも広く使われている125ccか電動バイクのどちらかになるのではないかとの見通しを示した。電動でも出力は125ccと同水準まで高め、航続距離ももっと伸ばす必要があるなど克服すべき課題は多いとした。

築地で働く堂故さんのバイクは50ccながら「2ストローク」と呼ばれ高い出力が得られるタイプ。創業当初はスーパーカブに乗っていたが途中で切り替えた。規制強化の中で今では生産されていないが、たくさんの荷物を積むにはこの程度の出力が必要という。余分に購入した1台を使わず保有しているほど気に入っている。

今度は原付1種そのものがなくなろうとしていることについて、「知らなかった。本当なんですか」と驚きを隠さない。「125 ccは仕事で使うには大きいし値段も高くなってしまう。電動は距離が不安だし充電も面倒」と50ccの良さを力説。大事な仕事の道具を奪いかねない業界の動きには「ちょっと無謀じゃないか」と注文をつけながら、「世の中変わったんだなあと思う」と話した。

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記事についてのエディターへの問い合わせ先: 岡田雄至 yokada6@bloomberg.net, Hideki Asai、 広川高史

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