「収入よりやりがい」広がる「地方創生」転職

都市部の人が地方に移って働く動きが広がっている。国の「地方創生」が追い風となり、収入よりもやりがいを重視する人が増えたことも要因だ。地方に新風を吹き込んでいる。

●フェア参加者倍増

1月18日、東京ビッグサイトは熱気に包まれていた。地方の自治体が都市住民を受け入れ、地域のために活動してもらう「地域おこし協力隊」と移住・交流のフェア。北海道から九州まで200以上の自治体が説明を実施。昨年の倍近い6800人が訪れた。

協力隊の任期は最長3年。仕事の内容は、自治体によって農作業の支援、町おこしの企画、都市との交流などさまざまだ。何が魅力か。

北海道ニセコ町の協力隊員、林さゆりさん(31)は静岡県出身で東京で学童保育施設の職員として働いていたが、縁もゆかりもないニセコ町の協力隊員に応 募。2013年4月に赴任した。町役場で働く傍ら、子供好きと語学力を生かして、外国人観光客らの子供の一時預かりをしている。「富士山のふもとで生まれ たので、自然が豊かで、山があるところで働きたかった。任期が終わった後も、ここで子供たちを預かる仕事で起業したい」と夢を語る。

制度を支援する移住・交流推進機構によると、協力隊の任期終了後も約6割がそのまま残る。家族で参加することもあるという。

自治体側からは「高齢化が進んでおり、地域のリーダーになってほしい」(高知県四万十町)、「地域の住民では難しいことを都会の視野でアドバイスしてほ しい」(富山県氷見市)など期待が寄せられた。安倍晋三首相は昨年、地域おこし協力隊の人数を今後3年間で3倍の3000人に増やす考えを示した。

地方自治体が、都会から専門家をスカウトするケースも出ている。宮崎県日南市のマーケティング専門官、田鹿倫基(たじかともき)さん(30)はその一人。田鹿さんはIT企業の営業マンとして中国で活躍していたときに、旧知の崎田恭平市長に誘われ、13年に転職した。

IT知識を生かして、幹部職員にフェイスブックを利用してもらい会議を効率化。市の職員募集も、転職サイトの「ウォンテッドリー」を活用したところ、こ れまでは近隣からしか応募がなかったのが、東京からも相次いだ。IT企業誘致、農産物のネット販売など、田鹿さんは経験をフル活用している。給料は下がっ たが「前はグローバルな仕事だったが、お客さんの顔が見えなかった。今は売れて喜ぶ顔が見える」と満足げだ。

国も人口5万人以下の自治体幹部に国家公務員や学識経験者を派遣する「地方創生人材支援制度」を4月にスタートさせる。国家公務員は応募25人に対して全国121自治体が手を挙げており、枠を拡大できないか内閣官房で調整中だ。

●年収下がっても

転職サイトのビズリーチ(東京都渋谷区)は島根県の隠岐諸島の一つ海士(あま)町など3地域の自治体、NPOと協力して「地方創生リーダー」の公募を始 めた。サイトには約41万人が登録しており、会員アンケートでは「転職で年収が下がってもやりがいがあればいい」が61%、「地方自治体で経験を生かせる 職があれば興味がある」が88%に上る。

東京で開かれた説明会には50人が参加し、山内道雄・海士町長らの話を聞いた。同町は積極的に転職者を都市から受け入れており、これまでに400人以上 に上る。このため、島根県の自治体で唯一、人口が増えているという。山内町長は「封建的な島が変わった。人が増え、祭りができなかったのがまたできるよう になった」と評価。この日は「島づくりは人づくり、人づくりは島づくり。子供たちを教える人材を確保したい」と述べ、教育の企画、推進をする人材を求め た。

しかし、都会の人と行き違いが起きる可能性もある。移住・交流推進機構の小森学参事は「協力隊員に何をしてもらうか、住民を含めた意思の疎通が必要。 『若い人が来てくれれば、あとは活動を任せるだけ』ではうまくいかない場合もある」と指摘。隊員側もやる気や地方の慣習を尊重する必要があるという。

日南市の田鹿さんも「住民とのコミュニケーションが大切。上から目線では失敗する」とアドバイスする。そして「仕事も充実して、食事や住まいなど生活環境も最高。今後、東京で働く選択肢はないでしょう」と笑った。【柴沼均】

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