「味と品質にこだわりすぎの」モス、マックを蹴散らす…非効率経営でも業績絶好調の秘密

モスフードサービスは5月12日、2016年3月期決算を発表した。それによると、モスバーガー事業の売上高は前年同期比7.6%増の669億3700万円、本業の儲けを示す営業利益が74.5%増の59億1500万円となっており、好調だ。

直近5年の売上高を見ると、12年3月期584億円、13年577億円、14年608億円、15年622億円、16年669億円とほぼ右肩上がりで大きく 成長している。また、営業利益も12年3月期38億円、13年37億円、14年40億円、15年33億円、16年59億円と増加傾向にある。

モスバーガーの成長を支えているのは、消費者のニーズにこたえた商品の存在だろう。モスフードサービス会長兼社長の櫻田厚氏が直接、全国の消費者と対話し 消費者のニーズを探る「タウンミーティング」を行うなど、消費者視点の商品開発を行っている。タウンミーティングは11年から始まり、15年に47都道府 県すべてで開催され、累計で約2000人の消費者との対話が行われた。

15年5月より新「モスのモーニングバーガー」3品を投入し、朝食 ニーズの掘り起こしを図った。「朝=モスバーガー」という認知を獲得する狙いだ。同年10月下旬からは「ご当地メニュー」として「釧路ザンタレバーガー 甘酢たれ」「中津からあげバーガー レモン添え」を販売した。

さらに同年11月には、モスバーガーよりも高額路線となる「モスクラシッ ク」を東京・千駄ケ谷にオープンした。「モスクラシック テリヤキバーガー」(税込1100円)や「アボカドバーガー」(同1150円)といった高品質で高価格のハンバーガーを上質な空間で愉しめるのが特長だ。

15年12月から16年3月下旬までの限定販売で「とびきりハンバーグサンド 傑作ベーコン」「とびきりハンバーグサンド 傑作ベーコン スライスチーズ 入り」を発売した。パティは通常より約1.5倍の重量を使用し、ベーコンは厳選されたイタリア産の豚肉を使用している。ちょっとした贅沢を味わいたいとい う需要に対応した商品だ。

指定の時間で受け取りが可能な「モスのネット注文」も業績向上に大きく寄与している。会員数は約25万人にもな る。「モス カード会員」であれば事前決済が可能となっており、利便性の向上を図っている。地域によっては配送サービスを行っており、一人暮らしのお年寄りでも手軽に 利用できる。多様化する消費者のニーズに対応している。

こうした消費者のニーズに応えた商品・サービスの提供がモスの業績を支えている。 モスバーガーのハンバーガーは、注文を受けてから調理されており、手間と時間がかかっている。モスの商品の値段は競合のハンバーガー店と比較して決して安 くはないが、それでも他店では食べられないハンバーガーを求めて多くの消費者がモスを訪れている。

●手間を惜しまず消費者のニーズに応えるサービス

櫻田会長の著書『いい仕事をしたいなら、家族を巻き込みなさい!』(中経出版)に興味深い逸話がある。

1978年の出来事だ。当時、櫻田氏はモスバーガーの1号店の店長をしていた。ある時、その1号店の向かいにマクドナルドが突如出店してきた。まさに黒船 襲来である。その頃のモスバーガーは、外食産業の中では非常に小さな存在であった。世界に名を馳せていたマクドナルドに太刀打ちできるはずもないと誰もが 思っていた。近くの商店街の人たちは「絶対モスバーガーが潰れると思っていた」と言っていたそうだ。しかし蓋を開けてみると、マクドナルドが開店した金曜 日の売り上げは23万6000円で平日の新記録を更新し、翌土曜日は37万6000円、日曜日は約50万円にもなったという。地域の消費者はモスを支持し たのだ。

規模は小さくとも、着実な経営を行うことで巨人マクドナルドすら払いのけてきたのがモスバーガーだ。当時から地域に密着した経営 を行い、地域の消費者がモスに求めるものは何かを追求してきた。地域住民と対話を重ね、関係性を強化してきた。決して効率の良い経営ではないのかもしれな い。しかし、効率重視では見えないものがあることも事実である。モスバーガーは、それを証明している。櫻田氏はビジネス系情報誌「THE21」(PHP研 究所/2015年12月号)のなかで、「私たちは創業以来、とにかく『面倒なこと』ばかりしてきました」と述べている。

モスバーガーは、 消費者のニーズに応えた商品を開発してきた。おいしい商品を開発するには、厳選された食材が必要だ。そのため、モスバーガーは97年から国内の生産農家と 協力体制を築いてきた。06年にはモスバーガーの契約生産者である「野菜くらぶ」と共同出資し「農業生産法人サングレイス」を設立し、生鮮野菜の安定供給 を実現した。

もちろん、モスバーガーが扱う野菜は普通の野菜ではない。たとえば、モスバーガーの象徴的な野菜であるトマトは大きめで糖度 や酸味のある「L型優良トマト」を使用している。しかし、L型優良トマトは夏場以降になると品薄になってしまう。季節によって品質が変わってしまうのは致 命的である。そこで、L型優良トマトの安定した調達を実現するためにサングレイスが設立されたのだ。モスバーガーと生産者が協力して、供給する野菜の品質 向上に努めている。

外食産業の市場規模は97年の29兆円をピークに右肩下がりの下降線をたどっている。代わりに台頭しているのが中食産 業だ。外食するのではなく、コンビニエンスストアなどで調理済みの食品を買って自宅で食べるという消費者のライフスタイルの志向が強まっている。中食産業 の市場規模は拡大している。特にコンビニの台頭は外食産業の大きな脅威となっている。

モスバーガーは、コンビニの脅威にも屈していない。 外食産業にできてコンビニにできないことを考えてきた。櫻田氏はビジネス誌「2020 Value creator」(VALUE CREATOR社/353号)において、「手づくり感や新鮮さ、それから材料をカスタマイズするということが、コンビニには絶対にできないことなのだ。こ れが外食産業が生き残っていくひとつのパワーになる」と述べている。

モスバーガーは商品を開発するにあたり、並々ならぬ手間をかけている。消費者が求める商品を提供することに努力を惜しまない。こうした姿勢が創業から今に至るまでブレることなく続けられてきたことが、現在の好業績を生み出しているといえるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

 

タイトルとURLをコピーしました