「唐揚げ専門店」にすかいらーくやワタミら大手が続々参入する理由

近年、ロードサイドや街中など、至る場所で見かけるようになった「唐揚げ専門店」。個人店に限らず、大手飲食チェーンが系列ブランドとして展開している店舗も多い。外食産業の中で「唐揚げ」が、それも「専門店」が市場を拡大しているのはなぜか。唐揚げ専門店が急増している事情を取材した。(清談社 ますだポム子) 【「コロナに強い」外食企業ランキング全101社の表を見る】 ● すかいらーくにワタミ、モンテローザ… 「唐揚げ専門店」に続々参入する理由  数ある外食産業の中で、近年急速に店舗を増やし、市場を拡大させているのが「唐揚げ専門店」だ。調査会社の富士経済が2020年6月に発表した「6カテゴリー63業態の外食産業国内市場を調査」によると、唐揚げ専門店は2010年頃から全国に出店が増え、19年の市場規模は853億円。18年比で41.0%増と急拡大している。  とりわけ目立っているのが、大手飲食チェーンが本業態とは別に展開しているブランドだ。「からやま」と「からあげ縁」の2チェーンを展開するのは、とんかつ専門店「かつや」でお馴染みのアークランドサービスホールディングス(HD)。また、「から好し」はファミリーレストラン大手のすかいらーくグループのすかいらーくレストランツが展開している。他にも、「から揚げの天才」はワタミ、「からあげの鉄人」はモンテローザ、「からしげ」(現在は愛知県を中心に展開中)はしゃぶしゃぶ・日本料理の木曽路が手掛けている。  外食産業が非常に大きなダメージを受けているこのコロナ禍において、出店を増やしている専門店もある。ワタミが展開する「から揚げの天才」もその一つだ。同社広報の菅則勝氏 は、「テークアウト需要が高まったことが店舗数増加の背景の一つ」と語る。  「コロナがはやる前から、『から揚げの天才』はどの店舗でも、売り上げの8~9割をテークアウトが占めていました。元々高まっていた家庭での食事の需要がコロナの感染拡大を受け、さらに後押しされた印象があります。実際、4月頃にはフランチャイズ契約(『から揚げの天才』はFC展開の業態)を申し込んでくださるオーナー様が増え、5~8月の間で店舗数は約7倍近くに増えました」(菅氏)  当初の予定では2021年3月までに全国30店舗の出店を目指していた同店だが、その目標はすでに達成。今後も中食需要は高まり続けるとみて、同時期までに100店舗、現状からプラス50店舗ほどの出店を目指しているという。

 唐揚げ専門店の魅力は「コストの低さ」 業界転換にも好都合  なぜ大手飲食チェーンがこぞって唐揚げ専門店を始めるのか。飲食店販促コンサルティングを行う飲食店繁盛会の代表、笠岡はじめ氏は「唐揚げ専門店は参入ハードルが低い上に、利益が出やすい業態だからではないか」と分析する。  こうした参入ハードルの低さや利益の出やすさを実現しているのが、唐揚げ専門店にかかる「コストの低さ」だ。  「原材料の鶏肉が安価だということや、オペレーションが簡単であることも利点に挙げられます。オペレーションが簡便化されれば人件費が削減できることはもちろん、必要な調理器具が少なくて済むので、開店時にかかる初期費用がかなり抑えられるのです」(笠岡氏)  唐揚げ専門店は新規参入がしやすく、利益が出やすい。この好条件を成立させる最大の理由が、“唐揚げ”という料理のターゲットの広さだ。  「唐揚げは老若男女に愛される、まさに国民食。適合立地が非常に広いため、出店場所を選ばないのです。さらにコロナ対策や昨年10月からの消費増税のあおりを受けてテークアウト需要が高まっている今は、イートインスペースを持たないテークアウト専門店が歓迎されます。テークアウト専門の店にすれば敷地が狭くても営業できるため、どこにでも店を構えられるのです」(笠岡氏)  揚げ物に欠かせないフライヤーさえあれば、居抜き物件でも開業ができる。実際、すかいらーくレストランツが展開する「から好し」は、系列ブランドの業態転換、または既存のガストブランドとの複合業態という形で、店舗を拡大させている。すかいらーくグループ広報の北浦麻衣氏は、その意図についてこう話す。  「すかいらーくグループは全国に約3200店舗展開をしていますが、店舗周辺の需要を鑑み、ここ10年ほど、よりニーズに即している店舗への業態転換に取り組んでおります。また、既存の業態を最大限活用した複合業態での出店により、お客様のライフスタイルの変化に迅速に対応し、結果としてグループ全体の売上増を目指しています」(北浦氏) ● スーパーやコンビニなどの 顧客を奪う可能性も  しかし、新規参入がしやすいということは、当然ライバルも多い。唐揚げ専門店が急激に増加することへの課題はないのだろうか。

 ワタミ広報の菅氏は、そうした不安よりもニーズ拡大に期待を膨らませていると話す。  「唐揚げ専門店は多くの飲食チェーンが参入してきて競争の激しい業態です。しかし、家庭で揚げ物をする人が年々減ってきていて、かつ通年でマーケットがとても大きいので、今後も不安より可能性や期待のほうが大きいと考えています」(ワタミ広報・菅氏)  帰り道に熱々の唐揚げを専門店でテークアウトすれば、帰宅して温め直す必要はない。共働き家庭が増え、男女共に多忙を極める現代社会のニーズにも合っている。専門店はスーパーやコンビニが苦手としている「揚げたてに近い状態の商品」の提供が可能であり、勝機はさらに広がると笠岡氏はみている。  「家庭で揚げ物をするのは非常に手間がかかりますよね。そこで、『揚げ物はスーパーの総菜を利用する』という人が増えていますが、今後はスーパーが持っていた消費者のパイも、専門店が奪っていく可能性があります」(笠岡氏)  チェーンブランドが勢いを増し、個人店の出店も相次ぐと、いよいよ「唐揚げ大戦争」が勃発するだろう。そうなったときに最初に淘汰されるのは、必ずしも体力のない個人店とは限らない。マーケットが大きいからこそ、顧客のことを考え、その店のオリジナリティーを出せる唐揚げ専門店が、勝ち残っていくのかもしれない。  ◇連載:#コロナとどう暮らす この記事はダイヤモンド・オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた外食産業。飲食店の動きやトレンドの変化を通して、ポストコロナ時代の「食ビジネス」のあり方を考えます。

タイトルとURLをコピーしました