「夜型」の人が努力しても、決して「朝型」になれない:研究結果

英国人のうち約3分の1が、自分のことを「夜更かし」であると認めている。つまり、夜のほうが物事をてきぱきとこなせるというのだ。

その仲間に、ウィンストン・チャーチルやマルセル・プルースト、エルヴィス・プレスリーも名を連ねるだろう。だからといって、目覚まし時計が朝に鳴ってもなかなか起き上がれない苦しみを和らげてくれるわけではないのだが──。

『Nature Communications』にこのほど掲載された新たな研究結果は、あなたを朝きちんと起きられる人に変えるまでの力はないだろう。しかし、なぜ朝型人間と夜型人間にわかれるのか、その謎を解く手がかりを与えてくれる。研究結果によると、朝型人間と夜型人間の違いは「何をしているのか」ではなく、遺伝子によって決まるのだという。

これはすでに、ある程度わかっていたことだ。過去の研究では、人間の体内時計を制御する遺伝子が計24個あることがわかっている。体内時計とは人間の体内で起きる睡眠と覚醒のサイクルのことで、「概日リズム」とも呼ばれている。

そして3人の生物学者が2017年、体内時計をコントロールする時計遺伝子「Period」を発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。Periodは、あるタンパク質を夜間につくることで、「眠る時間だ」と知らせてくれる。そして日中になると、この活性が低下する。

時計遺伝子と朝型人間

Periodは24個とされた時計遺伝子のひとつだったが、今回の研究によってこの数は351個になった。英国のエクセター大学医学部で生命情報科学を専門とし、この研究を率いたマイケル・ウィードンは次のように話している。

「もっている時計遺伝子の数によって、朝型の度合いが決まります。研究からわかったことは、351個ある時計遺伝子のうち最も多くもっている上位5パーセントの人は、最も少ない下位5パーセントの人と比べて、平均で25分早く眠りにつくということです」

言い換えると、早く眠りにつきたくなる人も、夜に能率が上がると感じる人も、すべて351個の遺伝子で決められている。このため本人にはどうしようもない、ということなのだ。

なお、この研究では新たな遺伝子の発見だけでなく、こうした遺伝子が活性化される可能性の高い体の部位にも焦点を当てている。

論文の執筆者でエクセター大学医学部に所属するサミュエル・ジョーンズによると、体の部位によって組織の種類は異なるのだという。そのうえで、すべての組織にはすべての遺伝子が含まれているのだと説明する。一方で、すべての組織において、すべての遺伝子が活性化しているわけではないという。

「概日リズムに関連することを突き止めた遺伝子は、脳と網膜で活性化されている傾向がみられました。この傾向のおかげで、朝型人間や夜型人間を生み出す際に、体のどの部位が重要なのかがわかったのです」と、ジョーンズは話す。「こうした遺伝子が脳内で活性化されているという結論は、驚くに値しません。脳が体の“マスタークロック”であることは周知の事実だからです」

体内時計のメカニズム

厳密に言うと、視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus:SCN)と呼ばれる領域にマスタークロックがあり、ここで時計遺伝子が活動している。視交叉上核には“振り子”があって、これが周囲の環境から放たれるさまざまな信号を受け取り、1日のうちでいま何時かを体に“セットする”と考えられているのである。

視交叉上核が受け取る信号のひとつは光だ。例えば、網膜が「夜だ」と信号を送ると、脳はメラトニンと呼ばれる眠りを誘うホルモンを分泌する。

ウィードンとジョーンズの研究で、朝型人間の遺伝子が網膜に集中していることがわかったのは重要だ。光の信号を処理するメカニズムや、その結果「寝る時間だ」と体に信号を送る(あるいは送らない)仕組みは、本質的に遺伝子によって決められている。

この研究で発見されたふたつの遺伝子には変異が認められたが、これが光を検知するメカニズムを変えた可能性がある。

「光の量を使って体内時計が学習することはわかっていました。でも、朝型人間と夜型人間では光の量を検知するメカニズムが異なることまでは解明されていなかったのです。この事実は、光の量を検知するメカニズムの違いが根本的なレヴェル、つまり遺伝的レヴェルで起きている可能性を示しています」とジョーンズは語る。

夜型とメンタルヘルス

つまり、夜型か朝型かをコントロールする術を、わたしたちはもっていない。それが、この研究結果の興味深い点といえる。なぜなら、夜型の生活を送ることは、うつ病や統合失調症といったさまざまな精神疾患に広くかかわっているとされているからだ。昨年の報道によると、うつ病や双極性障害になる確率や孤独感にさいなまれる確率は、いずれも夜間に活動量が多いと報告した人たちに高い傾向が見られた。

とはいえ、これは「卵が先か、ニワトリが先か」という状況であるようにも思える。精神面における健康の問題が睡眠パターンを乱すのか、あるいは睡眠パターンが乱れることから精神面における健康の問題が生じるのか──。

「遺伝子が常に先です」とジョーンズは話す。「そこで、概日リズムと病気との関係において、どちらが原因であるかを理解することができました」

もちろん、必ずしもそうとは言い切れない部分もある。統合失調症などの病気の場合、この病気自体に遺伝的な要因もあるからだ。しかしながらジョーンズは、人は遺伝的に朝型人間あるいは夜型人間になりやすく、そしてこのことが精神面における健康を害するリスクに影響していることは、ほぼ確実だと言う。

遺伝子には逆らえない

今後は、ライフスタイルと遺伝的傾向のミスマッチによって精神疾患が生じる可能性があるかどうかに目を向けるべきだろう。朝型の遺伝子をもつ人は、現代社会で言うところの朝9時から夕方5時までを軸としたライフスタイルに適応しやすいという点において、ジョーンズとウィードン双方の意見は一致している。

自分の遺伝子に逆らうことが精神的にいいはずはないのだ。そして、これを確かめるのが、研究者の次の課題となる予定である。

将来的には、定時ではない時間帯で能率が高まる人がいるという事実を踏まえて、より柔軟なフレックスタイム制の導入を正当づけることができるだろう。生産性を高めるだけでなく、働く人の精神面における健康を促進することにもつながる。

とはいえ、これはまだ長期目標だ。だから、個人の体内時計の特性を評価するミュンヘンクロノタイプ質問紙(Munich ChronoType Questionnaire: MCTQ)に飛びつくのは少し気が早いだろう。ちなみにウィードンによれば、MCTQは朝型人間か夜型人間を見極められる「金字塔」といえる評価方法だ。

自分が朝型か夜型かを判断する最適な方法は、自身の気持ちに意識を傾けることだと、ウィードンは言う。毎日オフィスで眠気と戦っている午後3時に、罪の意識にさいなまれることなく昼寝できる日が近づいているかもしれない。

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