「今みていた夢には,女性が登場しましたね?」 このように夢の内容を解読できる技術がATR脳情報研究所の神谷之康室長らによって開発された。睡眠中の脳の活動パターンを解析することで,夢にあらわれた物体の情報を高い精度で言い当てられるという。夢の内容を客観的に知る技術ははじめて。成果は科学誌『Science』オンライン版(アメリカ東部時間2013年4月4日発行)に掲載される。
■ 脳活動を測定し,夢に登場したものを言い当てる
多くの夢は視覚的な経験をともなう。ATR脳情報研究所神経情報学研究室(京都府)の神谷之康室長らは,夢をみているときの脳活動を記録し,実際に画像を見ているときの脳活動パターンと照らし合わせることで,夢の内容を解読できると考えて研究を行った。
研究では,脳の血流の変化などをもとに活動量を計測できるfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置内で,脳の活動を記録しながら被験者に眠ってもらった。頭部に装着した脳波計で眠っているかどうかをモニターして,夢と関連の強い脳波が出た時点で被験者に声をかけて起こし,直前にみていた夢の内容を30秒ほどで口頭で報告してもらう。この一連の過程を,3人の男性被験者それぞれに対してのべ200回ほど行った。
次に,報告された夢の内容に含まれる「男性」や「本」,「道路」といった約20のカテゴリーの名詞に対応する画像を被験者に見せ,そのときの脳活動のパターンもfMRIで記録した。こうして,それぞれの名詞に対応する脳活動のパターンのデータベースを被験者ごとにつくりあげた。それをもとに夢をみていた際の脳活動を分析したところ,男性や本,道路といった特定の物体が夢に登場したかどうかを,おおむね70%以上の精度で当てられたのである。
■ 夢の映像化は可能か?
これまでに神谷室長らは,アルファベットや単純な図形などを実際に見せたときの脳活動のパターンから,見ているアルファベットや図形の画像を再現することに成功し,世界をおどろかせてきた。現在は,睡眠中の脳活動から画像を再現することに取り組んでいるという。今後は,色や形などに加え,体の動きや感情といった情報を解読できるかどうかも検証される。