観光名所も多い栃木県那須町で車を走らせていると「生産地直送! 大麻有ります」と目を疑うような看板が目に入ってくる。
近くには、玄関に「大麻博物館」と書かれたログハウス。ひょっとして、かなり「ヤバイ」場所なのだろうか。
6畳ほどの室内には、組みひもやブレスレット、記念シールなどが並ぶ。壁際には糸や布が大量に保管されているだけで、至って健全に見える。高安淳一館長(56)に聞くと「うちは違法薬物のマリフアナの施設ではないですよ」と笑われた。
誤解されがちだが、大麻という言葉は本来、衣服や漁網などに使われる「麻」を指す。麻の中でも日本の在来種を「大麻」と呼び、縄文時代から生活に根付いてきた。神事との関わりも深く、おはらいの串は大麻と書いて「おおぬさ」といい、中心には大麻の繊維が結んである。日本人の生活や文化に欠かせない存在だったが、海外からマリフアナが流入して、誤ったイメージが広まったという。
高安さんは栃木県大田原市内で写真館を営みながら、個人で大麻を研究してきた。2001年、大麻の正しい知識を普及するために大麻博物館を開館。加工前の大麻の繊維や、麻糸や麻布など約200点を展示する。
収蔵品の多くは高安さんが全国を飛び回って集めた。古民家や、老舗呉服店の蔵を取り壊すときに捨てられると聞くと現地へ足を運んだ。大麻は文化的な価値が知られていないせいで、地域の史料館に寄贈しようとしても拒否されることが多いという。高安さんは「国内には史料が本当に少ない。これだけの実物と文献がそろっているのはここだけなのでは」と話す。