塩の表示をルール化した「食用塩公正競争規約」が4月21日、完全施行された。これに伴って、「自然塩」「天然塩」「ミネラル豊富」「太古の塩」などの表示ができなくなった。誇大宣伝から消費者を守るのが狙いで、ルール順守に目を光らせる食用塩公正取引協議会(東京都港区)は「購入時にルールに合格した商品に付けられる『しお公正マーク』を確認し、賢い商品選択を」と呼びかけている。(太田浩信)
◆何も変わらない
食用塩の製造・販売は、平成9年に専売制が廃止されたことで参入業者が急増。さらに、製品表示や安全基準などが未整備のまま、14年に販売自由化されたことで競争が激化した。
その結果、商品の中身はほとんど違わないのに「自然塩」や「ミネラル豊富」などの表示が氾濫(はんらん)し、「この塩を使えばミネラルがたくさん取れて健康に良い」「料理がおいしくなる」などの宣伝が横行。各地の消費相談窓口には「高い値段で購入したが何も変わらない」「だまされた」などの消費者からの苦情が相次ぎ、公正取引委員会や東京都などが改善勧告を出すまでに至った。
こうした経緯を背景に、業界有志が16年から適正な表示ルールを定める公正競争規約の策定作業に着手。20年4月に公正取引委員会に認定告示され、2年間の猶予期間を経て今年4月に完全施行された。
◆違約金や除名も
国内では天然に存在する岩塩は採れず、海水などを原料に塩を加工・製造する。このため、規約では「『自然』や『天然』の表示は使わない」と規定。「ミネラルを多く含む」との表現も不適切とした。塩の主成分の塩化ナトリウムはミネラルで、ミネラルが多いことは当然。ミネラルという言葉を使うとあたかも健康に良いという誤解を与えるからだ。このほか、成分や品質などの最上級を示す「最高」「最適」といった表現、「太古」や「古代」など合理的な根拠がない表示も使用を禁止。「無添加」の表示も具体的にどの添加物を使っていないかを明記することとした。
また、日本農林規格(JAS)法に基づく必要表示(名称、原材料名、内容量、原産国名、製造者)以外に、濃縮▽結晶 ▽粉砕▽乾燥▽混合▽焼成-など製造工程の表示も義務化。商品がどのような過程でできたかを消費者が詳しく知ることが可能になった。
同協議会に加盟する約150社における塩の国内出荷量は9割超。規約は自主ルールだが、違反表示があった場合には違約金や除名などの処分のほか、悪質な事例は公取委への通報なども辞さない構えだ。
同協議会の尾方昇副会長は「塩の値段は製造や輸入の規模で決まる。味の違いは普通の人が分かるものではない。料理の達人のような人が味見をして、『少し違うんじゃないか』という程度」と指摘。そのうえで、「品質や味の差が小さく価格差が大きいことから誇大な表示になりがち。表示についての改善努力を重ねたい」と話している。
■塩の製造には届け出が必要
国内で商品化されている食用塩の主な製造法は、海水をイオン交換膜、逆浸透膜を使って濃縮し、煮詰めたり蒸気過熱、噴霧乾燥などの方法で精製する。太陽光や風によって濃縮、結晶化する天日塩もある。また、外国から天日塩や採掘岩塩を輸入し、溶解や粉砕、洗浄、乾燥などの工程を経て製品化している例もある。
地域おこしで塩の製造販売に乗り出す例も多く、国内には600近い事業者があるとみられる。塩の製造には塩事業法で財務省への届け出が必要。しかし、こうした法律すら知らない小規模、零細な事業者もいるという。