世界30カ国で実施した最新の「子供の幸福度調査」で、韓国が最下位となったことが分かった。
受験などのストレスが原因と指摘されるなか、今年度の大学修学能力試験(日本のセンター試験に相当)が11月、全国1216の会場で一斉に行われた。受験生をスムーズに会場に移動させるため官公庁や企業は出勤時間を1時間遅らせ、英語の聞き取り試験の時間帯には航空機の離着陸が禁止されるなど、恒例の光景が今年も見られた。だが、こうした国民挙げての“応援”が逆に子供たちを精神的に追い詰めているのではないか。韓国メディアも英紙の記事を紹介しながら“自虐的”報道を始めた。(篠田丈晴)
子供が“不幸”なのは政府も承知のうえ
今回の子供の幸福度調査は、経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち27カ国と、ルーマニア、ラトビア、リトアニアの3カ国で実施された。韓国では18歳以下の子供のいる4000世帯以上が対象となった。
ロイター通信によると、調査で韓国の子供が“最も不幸”になったことについて同国保健福祉省は「子供らの生活満足度を阻害している最大の要因は学業によるストレスだ。次いで校内暴力、ネット依存、サイバー暴力などが挙げられる」と述べた。
さらに同国統計局によると、自殺傾向のある15~19歳の子供の半数以上が原因に「学業成績と大学受験」を挙げていたという。つまり韓国政府は、自国の子供たちが置かれた状況をすべて把握しているのである。
言わずもがな、韓国は極端な学歴社会とされる。大学進学率は8割以上で、欧米などへの留学を目指す児童・生徒も少なくない。それが過度な競争社会を作り出す。政府は「国際競争力を高めるために」と、子供たちの悲痛な叫びを受け止められないでいるようだ。
経済より国防より重要…試験中「離着陸を禁止」「戦闘機も規制」
それにしても韓国の“センター試験”の様子は、国外から見れば異様に映る。韓国メディアもようやく気づき始めたのだろうか。韓国紙、朝鮮日報(電子版)は海外の反応として、英メディアの記事を“自虐的”に紹介している。
それによると、デイリーメール紙は「この日の最も重要な協力は『国民的沈黙(hush)』だ。英語のリスニング試験が行われる35分間は、民間航空機の離着陸が禁止されて、戦闘機の飛行など軍の訓練も規制される」と伝えた。またデーリーテレグラフ紙は「韓国では、修学能力試験の成功が良い大学、良い就職、さらには一生の暮らしの質を保証すると信じられている。これを妨げるようなことがあれば、訴訟に巻き込まれる可能性もある」と説明した。
さらに、朝鮮日報はこうした記事を読んだ英国のネットユーザーらの声も紹介している。「重要な試験だとしても、国全体が非現実的な規制をするなんて愚かなことだ。騒音などの環境的条件も自ら管理すべき。今後騒々しい現実の中でどのように生き残ろうというのか」。
だが、こうした指摘を冷静に受け止めるだけの余裕をこの国はまだ持っていない。メデイアも直接的には批判できないでいる。
「いじめ」保険登場も、社会は変わらない
一方で子供の幸福度を下げている要因として、学業に次いで挙げられているのが、いじめなどの「校内暴力」だという。そして校内暴力を補償する保険商品も世界で初めて登場したというのである。
聯合ニュースや朝鮮日報などの韓国メデイアによると、韓国が「4大社会悪」とする校内暴力と性暴力、家庭内暴力、不良食品の被害を補償する保険商品が今年登場した。金融当局の依頼を受けた現代海上火災が社会悪保険商品を発売。校内暴力や性暴力の被害に遭った場合、治療費のほか特約によって最大数千万ウォン(数百万円)の精神的被害補償も受けられるとしている。
ただ、こうした動きも“対症療法”でしかない。「子供の幸福度調査」によると、韓国の子供たちの趣味やクラブ活動に充てる時間が、ハンガリーとポルトガルの次に少ないことも分かった。要するに子供たちに余裕がないのである。ロイター通信によると、ソウルで生まれ5歳で渡米したジム・ヨン・キム世界銀行総裁は「韓国の児童は、競争と長時間の学習で心理的に大きな重圧を抱えている」と強調する。
社会が根本的に変わらなければ、何も変わらない。