「宇宙人ジョーンズ」CMが異例のロングランを続ける理由

「缶コーヒーは働く人が休憩時間などに飲むものなので、その時々の働き方や気持ちをすくい取る必要があります。そういう意味では自然と時代を反映するCMになるのかもしれません」

【写真】名作CMの立役者、CMプランナーの福里真一氏

 そう語るのは、2000~2003年にオンエアされた日本コカ・コーラ「ジョージア」のCM「明日があるさ」シリーズを手掛けたCMプランナーの福里真一氏だ。企画がスタートしたのは2000年の春。世紀の変わり目が近づき、疲弊していた日本が新世紀に向けて少しずつ前向きになりつつあった。

「その証拠として1999年にモーニング娘。の『LOVEマシーン』がヒットし、年配のサラリーマンまでがカラオケで歌っていた。それで前向きになりつつある人々の背中を押すような缶コーヒーというテーマが決まりました。

 色々考えましたが、単に前向きに頑張ろうと言っても暑苦しいだけ。そもそも自分は前向きが嫌いなんです。でも、前向きな歌になっていれば嫌いじゃない。そこでぴったりな曲として思いついたのが、1963年に坂本九さんが歌った『明日があるさ』でした」

 とはいえ、1963年の原曲の歌詞は片思いがテーマ。働く人の気持ちを盛り込む詞を福里氏が新たに書いた。CMで甦った『明日があるさ』は、年末の紅白歌合戦でも歌われた。

 その後、福里氏はもう一つの缶コーヒー、サントリー「BOSS」のCMを手掛ける。2006年にオンエアが始まった「宇宙人ジョーンズ」シリーズだ。

「『BOSS』のブランドコンセプトは『働く人の相棒』。発売当初の矢沢永吉さんの出演CMはそれを表現していましたが、その後商品の中身を説明するCMが続きました。そこで、もう一度『働く人の相棒』をキチンと描こうとなったんです」

 当時は、小泉改革の負の側面が注目されていた。

「テレビから流れるもので世の中の人たちを暗くさせるものを考えた時、ネガティブなニュースを集めてきて朝から夜まで報じているニュース番組だと思いました。その逆をすれば明るいCMになると思ったんです。でも、人間にポジティブなニュースを報じさせたら単なる自画自賛になってしまう。そこで宇宙人が地球の調査をするという設定を考えたんです」

そうして生まれたのが、米国俳優のトミー・リー・ジョーンズ演じる宇宙人調査員と、「このろくでもない、すばらしき世界。」のキャッチコピーだった。

 宇宙人ジョーンズの調査報告はお茶の間をくすっと笑わせる。例えばカラオケ店員だった時には、「この惑星の住人の“歌”と呼ばれるわめき声はまったく耳障りだ」とつぶやくも、『舟唄』を聴きながら「この惑星の八代亜紀は泣ける」と報告した。

「宇宙人ですから基本的には否定から入ります。でも、最終的にそうは言っても地球にはいいところもあるよね、といったポジティブな部分を見つけて報じています。単に褒めるだけでは共感が得られませんから」

 CMは異例のロングシリーズとなり、今年4月で14年目を迎える。宇宙人ジョーンズが就いた職業は60種類を超えた。

「宇宙人ジョーンズと地球人との距離感がだんだん近づいています。最近では地球人以上に地球人ぽいと思うことも。特に時代を意識してはいないんですが、ただその時その時に本当に世の中で起こっていることをなるべく描こうとすることが時代を反映している理由なのかもしれません」

●ふくさと・しんいち/1968年生まれ。CMプランナー、コピーライター、クリエイティブディレクター。1992年に電通に入社し、2001年からワンスカイに所属。トヨタ自動車「こども店長」、アフラック「ブラックスワン」、ENEOS「エネゴリくん」など、1500本以上のCMを企画・制作する。

※週刊ポスト2019年3月8日号

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