「宴会ほぼゼロ」コロナで店内・客層は様変わり…飲食店の生き残り策【#コロナとどう暮らす】

緊急事態宣言が解除されてから2カ月が経過した。休業を余儀なくされた飲食店も、徐々に営業を再開している。店内営業を再開した飲食店は感染防止対策の徹底と、収益の確保という2つの課題に立ち向かっている。営業再開後の飲食店には、どんな変化が起こっていたのだろうか。(ダイヤモンド編集部 笠原里穂) ● “最悪”は脱した?飲食店は今  「自宅では召し上がるのが難しい、和牛のステーキや生ビール、高価格帯のワインなどが以前よりも多く出るようになったと感じています」  都内でレストラン「用賀倶楽部」を運営するエイ出版社事業開発本部フードサービス事業部の藤枝健司氏はこう話す。  飲食店に予約システムを提供するテーブルチェックの調べによると、予約と当日来店を合わせた1日の平均来店件数は、新型コロナウイルス感染拡大前の1月と比べて4月は86.8%減、5月は80.0%減と、壊滅的な状況に陥った。その後、6月には1月の平均来店件数に対して34.8%減となり、依然として厳しい状況ではあるものの、最悪の事態は脱したといえそうだ。  店内営業を再開した飲食店の大きな課題が、「店内での感染リスクをいかに低下させるか」だ。

 これに関しては、従業員のマスク着用や換気の徹底のほか、「接触機会を減らす」取り組みも活発だ。  東京都八王子市にある焼き肉店「焼肉あおやま」は、店内での接触機会を減らすため、「注文方法」を工夫する。顧客が自分のスマートフォンで店内に掲示されたQRコードを読み込み、表示されたページ上から商品を注文する「モバイルオーダー」の仕組みを採用しているのだ。  紙のメニュー表や店内設置のタッチパネルに触れる必要がなく、また店員との接触機会も減らすことができる。焼き肉店を運営するプライズの本橋厚哉代表取締役は、「感染リスクに対する意識の変化もあり、スマホ注文を利用する顧客が自然と増えた。(店員がオーダーを取りに行くという)一つの作業工程がないだけでも顧客、店員がともに安心であるし、業務の効率化にもつながった」と指摘する。  店内モバイルオーダーシステム「SelfU(セルフ)」の開発・提供を行うShowcase Gigの広報・高堂和芽氏は、飲食店などからの問い合わせは昨年から増加傾向にあったが、「コロナの影響を受けてさらに大きく増えている」という。今年4月の問い合わせは1月時の10倍ほどに上った。 ● 「仕事飲み」今はほぼゼロ  変わっているのは飲食店側のシステムやサービス内容だけではない。飲食店を訪れる顧客層にも変化が生じている。  焼き肉店以外に東京都多摩地区で居酒屋を数店舗経営している本橋氏は、「会社の飲み会のようなものはほとんどなく、親しい友人同士や家族連れが多い」と指摘する。1組当たりの人数も少人数化の傾向にあるという。  レストランを運営するエイ出版社の藤枝氏も「以前は平日ではほぼ毎日、近隣の会社に勤務する方による宴会が入っていた。それが今はほぼゼロの状態」と話す。また、コロナ騒動前は月に4~5回入ることもあったという「貸し切り」の予約もなくなった。貸し切り利用は通常と比べて利益率も高く、需要がなくなるのは大きな痛手だ。  「以前は月によっては、貸し切りや宴会による売り上げが全体の2~3割を占めることもありました。その分がそっくりそのままなくなった形なので、きついです」(藤枝氏)

クラスター発生の懸念もあり、企業も取引先との外食や職場での宴会の開催などに対して慎重だ。採用支援事業などを手掛けるツナググループ・ホールディングスが運営するツナグ働き方研究所が、全国の正社員として働く男女を対象に6月に行った調査(有効回答数:953人)によれば、職場での飲み会を禁止している企業は20.7%だったという。飲み会に対して人数規制など、何らかの制限を設けている企業まで合わせると51.6%と、半数に上った。  また多くの企業でテレワークが普及し始めていることも、外食を利用する顧客の変化に影響を与えているようだ。「テレワークを行っているお客さまが多く、“地元飲み”感がある」(本橋氏)  感染防止対策のため席数や営業時間にも制限がある状況で、店を訪れる客層にも変化が見られている。こうした中、飲食店が抱えるもう一つの大きな課題が、「いかに利益を確保するか」だ。 ● “居酒屋”は消えるのか  用賀倶楽部では、ディナーの営業時間を以前より1時間早くした。テーブル間隔を調整しているため満席でも以前の7~8割程度の客数だが、早い時間帯でファミリー層が来店するなど、回転数が増えたという。  加えて、売り上げ向上に貢献しているのが、コロナ禍で始めたテークアウトだ。ただ、緊急事態宣言が解除されたこともあり、「今は落ち着きつつある」と藤枝氏。そうした中で、新たな収益源として期待されるのが、弁当販売店やバー、カフェなど、他事業者への業務用販売だ。  「ステーキソースのほか、一部の総菜などを冷凍したり、真空パックにしたりして業務用に販売しています。売り上げの柱としてはまだ細いですが、徐々にオーダーも増えてきています」(藤枝氏)  感染拡大リスクが残る中、客足がどのように変化するのか、見通しが立たない状況が続く。店内営業のほかにもう一つ売り上げの柱を作ることが、飲食店にとって収益確保の道筋となっている。

 また、先述の通り、会社関係の宴会需要が縮小している。こうした中、特に厳しい状況にあるのが、「居酒屋業態」だ。  外食産業の実情に詳しい亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科教授の横川潤氏は、今回のコロナ禍では「これまでの居酒屋の“魅力”が裏目に出てしまっている」と指摘する。  「例えば、仲間とわいわい話して飲んでというにぎやかさ、ある種、“密”であることが居酒屋の楽しさでもありました。それがコロナ禍では難しい。また、メニュー幅が広いことも居酒屋の魅力の一つでしたが、その分コストがかかるため利益が減ります」(横川氏)  さらに、都心部の居酒屋においては「立地の良さ」も支持される条件だった。しかし、コロナ禍ではそうしたメリットを生かしきれない。駅前など、好立地の物件は当然、家賃も高い。売り上げが落ちるとあっという間にこうしたコストが経営を圧迫してしまう。  これまで多くの人を引き付けてきた都心の駅近居酒屋も、それだけでは勝負できない。顧客層を広げる役割を担っていた品数の多さは、売り上げが減少する中では大きな負担となる。「場所が良くて、安く飲める」だけでは生き残れない――。  こうした中で加速しているのが、“脱居酒屋”の動きだ。  居酒屋チェーン大手のワタミは、家族連れをターゲットに焼き肉食べ放題の店「上村牧場」をオープン。事業を拡大していく方針だ。塚田農場を運営するエー・ピーカンパニーは、ウィズコロナ時代を見据えて新業態「つかだ食堂」を立ち上げた。  居酒屋数店舗を経営する本橋氏も、「メニュー変更を進め、少しずつ“レストラン化”を進めている」と話す。  「お酒が飲める手ごろな店」ではなく、「食事で人を呼び込む店」への転身は、ウィズコロナ時代の一つの流れといえそうだ。  緊急事態宣言が全面解除となり、2カ月が経過した。しかし、顧客も店も感染拡大リスクを警戒しなければならない状況が続いており、完全復活までの道のりは長い。東京都は感染の再拡大を背景に、都内の酒を提供する飲食店やカラオケ店に対して8月3日から31日まで営業時間を午後10時までに短縮するよう要請した。  予約システムを提供するテーブルチェックの谷口優代表取締役は、「報道される都内の感染者数が100人を超えるとキャンセル率が跳ね上がるなど、消費者側も敏感に反応していると感じる」と話す。  感染リスク対策を続けながら、どのように店内営業を続けていくのか。飲食店は新たな店舗のあり方を模索している。  ◇連載:#コロナとどう暮らす この記事はダイヤモンド・オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた外食産業。飲食店の動きを通して、ポストコロナ時代の外食のあり方を考えます。

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