謝罪会見での「席があるなら戻りたい」発言で、TOKIOの仲間たちからあきれられてしまった、山口達也さんがジャニーズ事務所から契約解除された。これ以上、メンバーのみなさんにダメージを与えなくない、ということでご本人が「退所」を強く求めたからだという。
芸能人の不祥事ネタなんかどうでもいいとシラけている方も多いかもしれないが、実はこの騒動、今後の日本社会のあり方を考えるうえで、かなり重要な問題提起となっている。
それは一言で言ってしまうと、「組織内の“少年の心をもったおじさん”の暴走をどう制御していくか」問題である。
「なにワケのわかんないこと言ってんだ、こいつは」とあれきる前にご自分の会社や、職場を振り返っていただきたい。
50歳を過ぎてるとは思えぬほど、子どもじみたパワハラを繰り返す上司、酒を飲むと性に目覚めた中学生みたいなノリで下ネタで盛り上がるおじさん、満員電車で強く押されたと「殺すぞ、てめえ」とイキってみせる中年サラリーマン。飲食店などで、息子や娘くらい歳の離れた若者に激しいクレームを入れるオヤジなど、「大人」と呼ぶにはかなり抵抗のある「子どもみたいなおじさん」が増えている気がしないか。
そんなの気のせいだとムキになるおじさん世代もいるだろうが、残念ながら気のせいではない。さまざまなデータが、外見は年相応の中年男性ながらも、その内面は思春期のような不安定なマインドをもつおじさん、つまり「少年の心をもったおじさん」が増えていることを雄弁に語っているのだ。
●「少年のようなおじさん」が増えている
例えば、チェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」を例に出すまでもなく、少年といえば、触るものみな傷つけるナイフのような「キレやすさ」がある。
2017年12月、日本労働組合総連合会が全国の15歳~69歳の一般消費者1000名に、これまでサービスや商品について苦情・クレームを言ったことがあるかを調査した。言ったことがある割合は39.2%で、年代別でみると50代が最も多く51.5%。また接客業務従事者1000名にも同じ質問をしたところ、断トツに多かったのは50代で68.5%。一般消費者の傾向を見れば、10~20代で苦情・クレームは言う人は少数で、50代をピークに40代や60代が飲食店や小売店でキレまくっていることが分かる。
ドラマや漫画では、世間知らずのヤンチャな若者が、ファミレスやらに無理筋のクレームをつけているイメージだが、いまの日本では、いい歳こいたおじさんたちが、息子や娘であってもおかしくない若者たちにガチギレしているのだ。
ほかにも「少年の心をもったおじさん」が増えていることを示すデータは枚挙にいとまがない。
例えば、光GENJIの「ガラスの十代」なんて歌があったように「少年」は傷つきやすい。周りからのちょっとした心ない言葉に傷つき、悩み、そして殻に閉じこもる。
だが、そんな話も今は昔。2013年に山形県が「ひきこもり」の実態調査したところ、40~60代が約45%も占めていることが分かった。さらに翌14年に島根県が行った調査でも、40代以上が53%と半数を超えている。壊れそうなものばかり集めてしまっている「ガラス世代」は、実は日本では40代や50代のおじさんたちなのだ。
こういう情緒不安定さがうかがえる「少年のようなおじさん」が増えている現状を踏まえれば、58歳のエリート財務官僚が、娘くらい歳の離れた女性記者に「おっぱい触っていい」などとセクハラをしたり、酒癖の悪い46歳のアイドルが、女子高生を自宅に呼び出して、いきなりキスをするような強制わいせつに走ったりするのも納得ではないか。
つまり、山口さんの強制わいせつ事件や、福田淳一さんのセクハラ騒動は、日本中のあらゆる組織で「少年の心をもったおじさん」が次々と暴走を始めていることの氷山の一角というか、シンボリックな現象と見ることができるのだ。
●我々の周りにいる“プチ山口達也”
「言われてみれば、ウチの部長も飲み会で大人とは思えないほど泥酔してたな」「オレの周りもヤンチャという言葉では形容できないほどムチャクチャやるおっさんがいるな」など、思い当たるフシのある方も少なくないのではないか。
そこで次に問題となってくるのが、我々の周りにいる“プチ山口達也”や“プチ福田淳一”の荒ぶる魂を抑えて、彼らの暴走をどう未然に防ぐかということである。
いろいろなご意見があるだろうが、問題解決のカギは「仲間意識」にあると思っている。
なぜ周囲が山口さんや福田さんの暴走を未然に止めることができなかったのかといえば、彼らのいる「ムラ」の仲間たちからは、そこまでの「問題人物」だと思われていなかったからだ。
むしろ、仲間ウケは悪くなかったといっていい。
城島リーダーは山口さんのことを「屋台骨」と評したし、麻生太郎財務大臣は福田さんを「5~6年ぐらい縁があり、仕事ぶりを見ても(過去の財務次官と比べ)そん色ない」と言った。ここからは同じ苦楽を共にしたきた「仲間」という意識がにじみでる。
このあたりが女性のみなさんはピンとこないかもしれないが、「ムラ社会」に肩までドップリと浸かって生きてきたおじさんたちは、こういう「キサマとオレとは、同期の桜」みたいなノリに弱い。
どんなにモラルの欠けた行為をしても、同じ釜のメシを食ってきたというだけで「そこまで性根の腐った人間じゃない」と擁護(ようご)する。男同士で付き合うなかで「いい奴」「頼れる奴」という評価を受けてきた者がヘタを打っても、「あいつもしょうがねえな」とついつい甘くなる。
事実、山口さんもTOKIOのメンバーたちからすれば「いい奴」「頼れる奴」以外の何物でもなかった。
サーフィンをこよなく愛し、農業や無人島サバイバルでみせる「頼もしさ」に加え、誰よりも仲間を思う男気もある。要するに、クラス内で人気の小学生がそのまま歳をとったようなキャラクターなのだ。
だからこそ、ダウンタウンの松本人志さんが明かしたように、芸能界では有名な酒癖の悪さであっても、20年以上にともに過ごした仲間たちは「しょうがねえな」と甘やかしてきたのである。こういう「ムラ社会」の「仲間意識」が、「少年の心をもったおじさん」の暴走を招いたと言ってもいい。
●ジャニーズ事務所と財務省が炎上
それは裏をかえせば、この問題を解決するには、「仲間意識」の根源となる組織カルチャーを根本的に見直す必要があるということだ。
TOKIOの4人が会見を開いたとき、その「本質」を見事についていたのが、松岡昌宏さんの以下の言葉だ。
「彼の甘ったれた意見はどこから生まれるんだろうと思いました。彼は自分が崖っぷちでなく、崖の下に落ちていることを気づいてなかったと思います。そんな甘えが生まれてくる根源はなんだろうと考えました。TOKIOに帰る場所がある。もし、そういう気持ちが彼の中にあり、甘えの根源が僕らTOKIOなら、そんなTOKIOは1日も早くなくしたほうがいいと思います」
実はこの言葉は福田さんにもあてはまる。我々一般庶民の前では、いかにも仲が悪そうにしているが、高級官僚と記者クラブの記者は「霞が関ムラ」のなかで、ネタのバーターというもちつもたれつのズブズブの関係で戦後70年をやってきた。そういう「仲間意識」が、財政研究会に属する女性記者ならホステスさんみたいな言葉をかけたところでたいした問題にはならないという「甘え」を生んだのである。
なぜ今回、ジャニーズ事務所と財務省という日本社会を代表する「ムラ社会」がたて続けに「炎上」しているのかを我々は改めて重く受け止めるべきだ。
ジャニーズ事務所は、そこに足を踏み入れれば、幼い子どものころから50近いオッサンになるまで、「ムラ」のなかのヒラルキーとルールに従うことを強いられる。その厳格さはマスコミという「仲間」にも向けられる。テレビ、新聞というメディアへの情報統制は有名だ。
そんなジャニーズの霞が関版が、財務省に入省すると、事務次官を頂点に東大卒キャリア、ノンキャリというカチカチのビラミッドから一歩も出られない。そういう軍隊的な縦社会がゆえ、どうしてもハラスメントが横行して、「仲間」であるクラブ記者に対しても、ネタをくれてやっているという優越感から、傲慢(ごうまん)な態度で接してしまう。
こういうムラ社会特有の歪(ひず)んだ「仲間意識」が、「少年の心をもったおじさん」に甘ったれた勘違いをさせて、「暴走」を招いたのは明白だ。
ならば、日本中に溢れかえる「少年の心をもったおじさん」を大人しくさせる方法はひとつしかない。松岡さんがおっしゃるように「甘えの根源」を1日でも早くなくすのである。
●「少年の心をもったおじさん」が溢れている背景
山口さん問題で言えば、メディアに対して絶大な影響力を誇る大手芸能事務所が、所属タレントのプライベートやブランディングなどすべてを一括管理する日本特有のマネジメントシステムを根本から見直さなくてはいけない。
欧米のように営業とスケジュール管理だけを行う「エージェーント業務」に徹するようになれば、女子高生を自宅に呼び出すようなタレントは容赦なくパパラッチやらの餌食になる。「ジャニーズタブー」なんてのが機能しなければ、「事務所が守ってくれる」という「甘え」がなくなるので、本当の意味での「エンターテインメントのプロ」しか生き残れない。
福田さんの問題もシンプルで、20代に受けたテストくらいで、60歳までのキャリアを保証せず、一度役人になったら定年退職まで石にかじりついても勤め上げるというシステムをあらためるべきだ。
いや、そうなると優秀な人間が霞が関に集まらないとか言い出す人がいるが、試験勉強と空気を読むことに長けた秀才しか寄せ集めてこなかったから、ここまで日本がひどいことになっていることを認めるべきだ。米国で言う、民間企業と役所をいったりきたりする「回転ドア」ではないが、「ムラ」の出入りをもっと自由にしなければ、「忖度(そんたく)」とか騒いでいるうちに、本当に取り返しがつかないくらい日本が弱体する。
大学生からそのまま大企業にスコーンと入社し、年功序列でのしあがり、定年退職まで身分が保証される。そんな日本社会の「過保護」さが、「少年の心をもったおじさん」をここまで溢れかえらせているのではないのか。
いずれにせよ、人気タレントやエリート官僚という「ムラのスター」が女性たちからノーを突きつけられるているこのトレンドは、我々一般社会にもやってきている。
「オレって年齢のわりには若いし、人望もあってそこそこイケてるよな」なんて調子に乗ってるおじさんは、少し我が身を振り返った方がいいかもしれない。