「帰還へ作業はかどる」住民長期宿泊始まる 福島・田村

福島第1原発事故で避難指示解除準備区域に指定された福島県田村市都路地区で1日、住民らを対象に最長3カ月間の長期宿泊が始まった。避難区域での長期宿泊は年末年始などの特例を除き初めて。夜間、避難先に戻る必要がなくなり、住民からは「往復の負担がなくなり、帰還に向けた作業がはかどる」と安堵(あんど)の声が上がった。
 「明日から涼しい朝のうちに草刈りや野菜の手入れができっから、ずいぶん体が楽になるね」
 都路地区の農業渡辺久雄さん(78)と巳左子(みさこ)さん(72)夫婦が顔を見合わせ、ホッとした表情を浮かべた。
 現在、自宅から約20キロ離れた田村市船引地区のアパートに長男夫婦と暮らす。日中、都路に通い自宅の修繕や田畑の手入れを少しずつ進めてきたが、車で片道40分かかる。疲労がたまり、農作業の効率が上がらなかった。
 この日は庭木の枝切りを終え、自宅の畑で収穫したばかりの野菜の天ぷらを長男與浩(ともひろ)さん(52)らと楽しんだ。
 都路地区は昨年4月に解除準備区域(年間被ばく線量20ミリシーベルト以下)に再編され、立ち入りは日中のみ可能になった。ことし6月に国の直轄除染が終わり、将来の避難指示解除を見据え、今回の長期宿泊が実現した。政府によると、7月31日現在、対象119世帯380人のうち、28世帯112人が宿泊を申請している。
 長期宿泊への歓迎ムードがある一方で、人影が消え、雑草が生い茂ったままの家も少なくない。除染後も放射線量が下がらず、住民の心は「帰還」と「断念」のはざまで揺れ動く。
 「戻るか戻らないか事情はそれぞれ。本当はみんなで一緒に戻れたらいいんだけど…」
 渡辺さん夫婦は複雑な思いも口にした。
◎福島の避難区域11市町村が対象
 福島第1原発事故を受け、政府は2011年4月、原発から20キロ圏を立ち入り禁止の「警戒区域」、その外側にある放射線量が高い地域を「計画的避難区域」に指定した。11市町村が対象となり、住民は今も避難を強いられている。
 政府は住民が帰還できる環境づくりをするとして、年間の被ばく放射線量に基づき、三つの区域への再編を進めている。
 年20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」と、20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下の「居住制限区域」は、日中は自宅にいることが認められ、一部だが事業も再開できる。50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」は、現在も原則立ち入り禁止のままだ。
 再編は昨年4月1日、田村市と川内村で始まり順次実施。警戒区域は今年5月の双葉町を最後に解消した。残るのは川俣町山木屋地区の計画的避難区域だが、近く再編される見通し。

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