「平安期の源泉」復活 栗原・花山の佐藤旅館

平安期にわき出たとされ、岩手・宮城内陸地震の発生前にほとんど枯渇状態だった宮城県栗原市花山の温湯温泉「佐藤旅館」の源泉が、よみがえった。市内では多くの温泉が地震で源泉などに打撃を受け、佐藤旅館も営業できなくなった。温湯温泉発祥の源泉の奇跡的な復活に、社長の佐藤研一さんは「旅館復興への希望もわいてきた」と11月中の営業再開を目指し、準備を加速させている。
 源泉は旅館敷地内にある「月の湯」。旧花山村史によると、平安末期の1150年ごろ、山崩れにより湯がわき出て、1180年には藤原秀衡が山伏に源泉の上に載っていた岩をご神体として湯神社を奉祀(ほうし)させたと伝えられている。
 市内の温泉旅館で最も歴史が古い佐藤旅館は、月の湯を源泉の一つとしてきたが、20年ほど前に湯量がほとんどなくなり、利用をやめていた。
 地震で損壊した施設を修復中の今年8月、佐藤さんらは排水路に湯が流れているのに気付いた。周囲を掘削したところ、月の湯から流れ出ていることが分かった。
 温度は45度で、湯量は毎分約20リットル。それだけで内湯や露天風呂の湯を賄うのは無理だが、佐藤さんは「復興への気持ちが揺るぎないものになり、弾みがついた」と笑顔を見せる。
 佐藤旅館は大正から昭和初期にかけて建てられた木造建築と、一迫川のほとりという環境が独特の風情を醸し出し、全国の秘湯ファンに人気の宿。営業再開を待ち望む常連客からの問い合わせは、今も相次いでいる。
 地震で被害が大きかった旧館の1棟は7月から解体。取りあえず日帰り入浴と食事のみでの再開を目指し、もう1棟の旧館と新館の修理を急いでいる。
 肝心の湯は、月の湯だけでは足りないため、市が近くで掘り当て、第三セクターが運営する「温湯山荘」に給湯している源泉からの分湯に期待している。地震でいったんは止まった自前の別の源泉も少量ながら再びわき始め、光明が差してきた。
 佐藤社長は「地震が何らかのきっかけになったのだろうが、昔の湯道の復元力に驚いている。勇気づけられた」と話している。

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