住む場所によって年金の手取り額が異なる――。意外と知らない衝撃の事実をランキング形式でお伝えした2019年の記事、『「年金手取り額が少ない」都道府県庁所在地ランキング』は大きな反響を呼んだ。そこで今回は、国民健康保険料や介護保険料の改訂を反映した2年ぶりの最新版ランキングを作成した。年金年収「200万円編」と「300万円編」の2回に分けてお届けする。その「年金年収200万円編」をご覧いただきたい。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
同じ収入でも住む場所によって 社会保険料が異なる衝撃の事実!
みなさんは、住む場所によって年金収入の手取り額が異なることをご存じだろうか。
今年7月8日の当連載で『年金手取り額は老後に住む場所で「損得」変わる衝撃事実!試算表を公開』と題し、お金がありそうな自治体と財政が厳しそうな自治体をいくつかピックアップして年金手取り額を試算したところ、大きな反響があった。
額面の年金収入は同じなのに、手取り額が異なるという衝撃の事実。多くの読者は「住民税が違うからだろう」と推測したようだが、要因は税金ではない。住民税は、同じ所得なら原則として全国どこに住んでも同じである(異なる場合もあるが年1000円程度だ)。
手取り額が異なる要因は社会保険料だ。具体的には、国民健康保険料と介護保険料。この二つは、自治体により保険料の計算式や料率が異なるため、「どこに住むか」で保険料に格差が発生する。
2019年7月には「全国都道府県庁所在地」ごとの手取り額をランキングし、掲載している。この間、国民健康保険料や介護保険料の改訂が行われているので、2年ぶりに手取り額ランキングに取り組むことにした。
今年は、「額面年金収入200万円」と「額面年金収入300万円」の二つのケースをランキングする。
額面年金収入200万円のケースは、22歳から60歳まで会社員として働き、その間の平均年収が600万円の人を想定。そういう人が65歳から受け取る公的年金の額(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計)が200万円という水準。イメージとしては定年退職前の額面年収が800万円くらいの人だ。
一方、額面年金収入300万円のケースは、公的年金に加えて企業年金や、確定拠出年金(DC)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、退職金などの年金受取があり、合計で300万円になる人を想定した。こちらのランキング結果は、次回(9月23日公開分)に掲載する。
ランキング対象は、合計50の自治体。46道府県の県庁所在地と東京都内の4区だ。東京都は23区がそれぞれ独立した自治体なので、東西のビジネス街と住宅街の代表として、千代田区、墨田区、新宿区、杉並区を調査した。
国民健康保険料と介護保険料は、ダイヤモンド編集部が各自治体にアンケート調査を依頼し、その保険料データを基に筆者が税額を計算して手取り額を算出している。なお、一部自治体の介護保険料について、市区町村民課税ベース(均等割り)での回答があったが、筆者が非課税ベースに修正して計算した。
試算条件は、60代後半の年金生活者で、妻は基礎年金のみ。夫の手取り額を試算し、「少ない順番」でランキングしている。まずは、結果をご覧いただきたい。
額面年金収入200万円の手取り額 ワースト1位は、やはりあの自治体
年金手取り額ランキングのワースト1位は、大阪市。予想通りの結果となった。大阪市の財政状況が良くないことは周知の事実だが、今回の調査で介護保険料が全国一高い県庁所在地であることが分かった。調査対象外の自治体以外で大阪市の保険料を超えるところもあるかもしれないが、今回の50自治体の中ではワースト1位である。
ワースト2位になったのは、意外にも高松市。試算した額面年金額が異なるので完全な比較はできないが、19年の調査ではワースト18位。大きく目立つほど、保険料負担が重いわけではなかった。
調べてみると、国民健康保険の財政悪化を原因として20年に保険料の計算式が大きく改訂されている。これにより国民健康保険料が大きくアップしたのだ。今年は3年に1回の介護保険料の見直し時期であるため、介護保険料のアップもワースト2位にランクインした要因だろう。
手取り額が多いのはどの自治体? ワーストランキング下位に注目
26位から50位のランキングだ。
ワーストランキング下位、つまり「手取り額」の多い自治体は、1位名古屋市、2位岐阜市、3位さいたま市という結果になった。
税金合計額に着目すると、47位まで税額がゼロなのに、ランキング48位から50位までの自治体が1000円になっている。なぜ?と疑問を持つ人もいるだろう。
額面年金収入200万円だと、各種控除で引ききれるため所得税はかからない(妻が税務上の扶養家族の場合)。この1000円は住民税の所得割が課税されている分だ。
ランキング下位の自治体は社会保険料が少ない。税金を計算する過程で社会保険料は控除の対象となるため、社会保険料が少なくなると税金が高くなる仕組みだ。このケースでは、ランキング下位のみ住民税(所得割)が発生した。
ワースト1位の大阪市の手取り額は、182万7175円。手取り額が最も多いワースト50位の名古屋市は、187万7690円で、その差は5万515円だ。
額面の年金額が同じでも約5万円の手取り額の差が出る結果となった。収入200万円に対する5万円は、2.5%。大きな「格差」といってもいいだろう。
国民健康保険料と介護保険料 手取りを左右するその格差は大きい!
繰り返しになるが、年金の手取り額を左右するのは、税金ではなく社会保険料だ。そこで国民健康保険料と介護保険料のワースト3とベスト3を見てみよう。
国民健康保険料が最も高い佐賀市と最も少ない名古屋市の差額は、約5万円。2倍近い差となっている。
介護保険料が最も高い大阪市と最も少ない山口市との差額は、約2万6000円という結果になった。
年金の手取り額の多寡だけでリタイア後の住まいを決めることはできないが、自治体によって、国民健康保険料と介護保険料が異なることは知っておきたい。
額面年金収入が異なると、社会保険料負担割合も変わってくるため、手取り額ランキングの結果は違ったものとなる。
次回(9月23日公開)は、公的年金に企業年金などが加わった場合を想定した、額面年金収入300万円のケースの試算結果をお伝えする。 訂正 記事初出時より以下の通り訂正します。
10段落目:千代田区、墨田区、新宿区、世田谷区を調査した → 千代田区、墨田区、新宿区、杉並区を調査した
(2021年9月16日10:03 ダイヤモンド編集部)