「廃虚」は地域の宝 産業遺産を観光資源化

福島県内に残る工場や鉄道の施設など「近代産業遺産」を観光に役立てる県のプロジェクトが本格的にスタートした。県のホームページに今月、県内7カ所の遺産を詳しく紹介するコーナーを設け、9日には郡山市で地域づくりに結び付けるためのフォーラムを開催した。施設の生産設備や往時をしのばせる廃虚が注目を集める中、全国の愛好家らを県内に呼び込みたい考えだ。
 産業遺産の活用策を協議するため県は8月、赤坂憲雄県立博物館長を座長とするプロジェクト検討会を発足させた。常磐炭田の関連施設(いわき市)や、大正時代にオープンした芝居小屋「朝日座」(南相馬市)などの保存活動に取り組む8団体も加わった。
 10月上旬には検討会のメンバーが、硫黄などを運ぶ目的で1968年まで走っていた猪苗代町の沼尻軽便鉄道を視察。かつての流行歌「高原列車は行く」のモデルにもなったとされる路線跡や、保存されている車両をどう生かすかを探った。
 9日のフォーラムには、産業遺産に興味を持つ市民ら約60人が参加。赤坂さんは「ノスタルジーだけでは、単なる廃虚にすぎない。遠くから来た人に訴えるためには、(明治以降)近代化に突き進んだそれぞれの土地の記憶の場にすべきだ」と指摘した。
 常磐炭田史研究会(いわき市)の野木和夫事務局長は「施設の保存研究だけでなく、当時そこで働いていた人たちの話を聞き、記録する活動も進めている。交流人口の拡大につなげたい」と語った。
 県は2012年度、民間と共同で大規模な観光キャンペーンの展開を計画中で、柱として各地の産業遺産を位置付けることを検討する。
 県文化振興課は「観光客の受け入れに向け、県内で活動中の団体のネットワークを構築したい」と話している。

タイトルとURLをコピーしました