「心を病む人のサイン」は睡眠にアリ。“70日祝日なし”の今の時期は要注意

最大で10連休、さらに3年ぶりに行動制限なしとなった2022年のGWも今や昔。楽しい時間はあっという間に過ぎ、例年以上にGWを楽しんだビジネスパーソンが今処されているのが、「70日祝日なしの刑」だ。次の祝日は、7月18日の海の日……カレンダーを眺めるだけで憂鬱になってくるが、これが心の病のきっかけになる可能性があるという。

カレンダー 6月

画像はイメージです(以下同じ)

 今回は「休みが少ない時期に心の不調を訴える人は増加するのか」という素朴な疑問を医療法人社団こころみに所属する永野泰寛医師に聞いてみた。

◆5月&8月と比べて6月は…

 まず、永野医師は「休みの少なさとの因果関係はわかりませんが、関連のあるデータはあります」と語る。

「滋賀医科大学附属病院の救急科を受診した精神科疾患の患者数を、月ごとにまとめた論文です。この論文では、5月と8月は受診数が少ないことが示されています。これは大型連休によって、一時的に精神的ストレスが軽くなる可能性を示唆しています。一方で受診数が最多になるのが6月なんです

 大型連休などで、一時的にストレスが解消されても、日常生活が再開するとストレスが増大してしまうのだろうか。この時期の憂鬱さを指す「五月病」とは、一体どんなものなのだろう。

◆大型連休を楽しみすぎた人よりも危険なのは…

永野泰寛医師

永野泰寛医師

『病』とついていますが、医学用語ではありません。4月の慣れない新生活で知らないうちにストレスが溜まるなどで、GW明けごろから疲れやすい・食欲がない・眠れない・気力がわかないなどの症状がでるもののようです。これは、適応障害、もしくはうつ病の状態であると言えるでしょう

 祝日のない時期が長いのは例年同様だが、3年ぶりの行動制限なしのGWで開放的になりすぎた人のほうが、代償として「うつ状態」になりやすいようにも思える。しかし、これに対して永野医師は次のように話す。

「『3年ぶりに、楽しむぞー!』といって外出を楽しめた人は、すぐさま精神的な不調に陥るようには思いません。むしろ、GWも働かざるを得なかった人や、行動制限にかかわらず外に出る気にならない人など『行動制限なしのGW』と関係がなかった人にメンタル不調の心配があります

◆最悪のケースに至らないためにも

 万が一、うつ状態に入ってしまったら、最悪の場合どのようなケースに至るのか。

「この時期に限らず、心の不調が原因となる場合、最も良くない結末は自殺です。心の不調があれば、本人も、周囲の人も、医療者も自殺という最悪のケースを避けることを第一に考えて対処しなければいけません」

 休みが少なくてテンションが下がるというような、誰にでも起こりうる入り口からでも、心の不調の先には死が待っているということは、どんな人にとっても重大な事実。そうならないために「兆し」に早く気が付きたい。その兆しは体のどんな変化があるのか。

まずはぐっすり眠れず朝起きたくないという睡眠の乱れや熟眠感のなさですね。食欲が出ない、動悸や頭痛がするといったことがありますが、これだけの症状だと身体的な病気ということもあります。連日気持ちの落ち込みが続いていて『何も楽しいと思えない』という心の状態にこれらの身体症状が伴っているのなら、適応障害やうつ病を発症しているのかもしれません

◆兆候が見えたら、だれに相談すべき?

落ち込む男性

 心身両面に気を配りながら過ごすことが何より重要になるわけだ。それでも、心の不調が起こってしまった時、まずは家族や友人に相談する人も多いだろう。そうした周囲への相談で済ませられる状態と、医師に相談をしたほうがいい状態はどのように見分けをつければよいのか。

睡眠の異常があって、つらい状況が2週間以上続くなら、精神科や心療内科を受診したほうが良いでしょう。睡眠の異常は放っておくと、さまざまな精神疾患に発展したり、疾患を悪化させたりする可能性がある一方、短期的にはお薬で改善できることが多い症状です」

 自身の睡眠の状態をよく気にかけておくことが、発症しない、または重症化しないポイントだと分かった。睡眠以外で「仕事のパフォーマンスが落ちて来たから、おおごとになる前に早めに受診」と考える人もいるが、病院で「病気じゃないから来なくていいよ」と言われた、というケースもあるようだが……。

 それでも永野医師は「少しでもつらい思いがあるのなら受診してほしいと思います。例に示した状態でも、うつ病などになりかけのことがあるので、医者にかかって現状について頭の整理をして必要な対応を教えてもらったり、『余計なストレスになる物の捉え方をしていないか』を話し合ったりすることで、悪化を防げるケースは十分にあると思います」と、早めの受診を勧めている。

◆ストレス解消法のおすすめは?

 心の不調が長引くと、公私ともに大きな影響が出るだろう。それを回避するため、日々心がけることを「マインド」と「行動」の両面で聞いた。

「ストレスを感じる状況でも、『何かプラスの面はないか?』と探すマインドは大事です。仕事の量が多くて負担感が強ければ、“成長できていること”に目を向けたり、楽しいと思える要素を探す。職場にいじわるな人がいるストレスがあるなら『話のネタにしよう』と笑い話にして昇華させるなど、何でも良いのでプラスなことにつなげる心がけをすると良いですね」

 もちろん、いじめやパワハラであれば心がけではなく、社内のしかるべき部署への通報や法的措置の検討なども必要になる。「行動」として、心の不調を遠ざける方法はあるのだろうか。

「行動としては、まずは十分な睡眠時間を確保し、できるだけ寝る時間と起きる時間を毎日一定にすること。運動も週に3~4日、翌日に疲れを残さない程度に楽しく体を動かす習慣が重要です

◆NG行為は諸説あるが…

友人

 また、コロナ禍でコミュニケーションの機会が減った昨今だが、永野医師は人との繋がりも重要だと話す。

気を遣い過ぎたり傷つけられたりすることなく、親密な空気を共有できる人との時間を持てると非常に良いですね。趣味でも仕事でも、自分がやりたいと思える活動をやることが心にとっては良いことですが、睡眠や運動やコミュニケーションの時間を削り過ぎないよう調整することが大切です。今より少しでもこういった行動を増やそうとすることが重要です」

 逆に、多くの人が陥りがちな、ストレス解消法におけるNG行為についても聞いた。

「NGはお酒ですね。以前は『適度な飲酒は健康に良い』と言われていましたが、最近の研究では、少量の飲酒でも体に悪影響を与えるという報告も出ています。お酒が好きな方には大変かもしれませんが、お酒抜きでも楽しく過ごすというのが理想的です。飲酒の習慣は体への悪影響もありますが、うつ病などの発症率も高め逆効果になることもあります。世の中に溢れている色々なことに目を向けて、お酒以外の趣味を見つけられるといいですね」

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 永野医師自身は、今回紹介したストレス解消法の他に「瞑想」も実践しているという。就寝前の数分間、あぐらをかいて呼吸の数を数える方法だそうだ。5連勤が続くこの期間、心の不調の足音が聞こえたら、スマホの電源をオフにして、自らと静かに向き合ってみるのもよさそうだ。

<取材・文/Mr.tsubaking 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>

【永野泰寛】
日本医師会認定産業医。医療法人社団こころみ所属。筑波大学医学部卒。亀田総合病院にて臨床研修、昭和大学精神医学講座に所属し昭和大学附属烏山病院、佐鳴湖病院、べスリクリニックに勤務。東京TMSクリニック前院長。令和4年4月より現職。医学部入学前は、東京大学大学院数理科学研究科卒後、証券会社や外資系コンサルティング会社での企業勤務経験がある

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も Twitter:@Mr_tsubaking

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