「性行為もできるすばらしい融資」 男性職員が逮捕された「ひととき融資」とは?

性的な行為を見返りに、法律で定めた上限を上回る金利で女性2人に金を貸し付けていたとして、出資法違反の容疑で大阪・千早赤阪村の30代男性職員が6月5日、警察に逮捕されました。報道によると、男性職員はネット掲示板でお金に困っている女性を見つけ、性行為を条件に、法定金利の最大7倍の金利で現金を貸し付けて利息を受け取っていたということです。

NHKによると、男性職員は「お金も返ってくるし、性的な行為もできてすばらしい融資だと思った」などと供述しているそうです。このような個人間の融資は「ひととき融資」と呼ばれ、ネット掲示板やSNSで広まっています。「ひととき有り」と書き込み、個人融資をするものです。

弁護士ドットコムにも、個人融資サイトで320万円借りたが、条件として「2年間の体の要求」があったという女性から相談が寄せられたことがありました。女性は困窮から条件を承諾してしまい、一度だけホテルに行ったそうですが、自宅も訪問されて困っているとのことでした。

このような「ひととき融資」には、どのような法的問題があるのでしょうか。髙橋裕樹弁護士に聞きました。

●肉体関係だけでなく、弱みを握って犯罪行為を強要

ーー「ひととき融資」とはどういうものなのでしょうか?

「肉体関係(性交渉)をもつことを貸し付けの条件とする『ひととき融資』と呼ばれる個人 間融資は、数年前からネット上の掲示板等に出始め、様々な問題に発展しています。テレビやインターネット等でカードローンのCMを見ない日はないのに、なぜこんな融資を受けるんだろう、と感じられる方もおられるかと思います。

しかし、十分な給料がもらえず、生活費のための借入を繰り返した結果、借入限度額いっぱいになってしまって追加の借入が出来ない方や、支払いが滞ってブラックリストに載ってしまった結果、新たなローンの審査が通らないという方が非常に多くいます。

そして、金融機関からの借入が出来ずに困っている方々の足元を見て、違法な条件での貸 し付けを行う業者(ヤミ金業者)が未だに暗躍しています。

このいわゆるヤミ金業者が融資を行う場合、法定利息を超えた高利で貸付けるのが典型ですが、これに加えて、肉体関係(性交渉)を持つこと等の違法な条件を付けてくることも多 くなっています。

肉体関係のほかにも、年金や生命保険を担保にすること、携帯電話の契約をして端末を提供すること、銀行口座を開設して提供すること、振り込め詐欺のお金の引き出し(出し子)をさせるといった、単なる債権回収ではなく、弱みを握って犯罪行為を強要するという事態も起きています」

●「ひととき融資」は貸金業法や出資法違反の可能性

ーーどういう法的な問題点があるのでしょうか?

まず、業務として融資を行う資格のない者による貸し付けであるという点です。

他人への融資を『業として』行う場合、つまり不特定多数の相手に対する貸付を反復継続して行う場合には、財務局又は都道府県への業者登録が必要です(貸金業法)。無資格で貸金業を営んだ場合は、10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金という重い刑が科されることになります。

一人だけに「ひととき融資」をしている場合は、『業として』融資を行っているとは認められない可能性がありますが、同様の手口で複数人に貸付をして、肉体関係(性交渉)を強いていたような場合は、この無資格貸金業者として処罰されます。

今回の被疑者は女性2人にお金を貸し付けていたとのことですので、『業として』行ったと直ちには断じられませんが、貸付の状況等によっては無資格貸金業者と判断される可能性もあると思います。

次に、貸付の利息が法律上許される利息の上限を超えているという点です。

貸金業者であっても、個人間であってもお金の貸付の際に利息を付す合意をする場合には、元本の金額に応じて、利息制限法によって利息の上限が決められています。

そして利息の上限を無視して貸し付けた場合は、出資法違反として、以下の刑罰が科せられることになります。

本件では出資法が制限する上限金利を超える利息での貸付を行っていたため、出資法違反での逮捕となったようです」

●避妊してもらえない、写真を撮られる…「肉体関係」持てば二次被害も

肉体関係を迫ることに問題はないのでしょうか?

「肉体関係を持つことを強要させるという性被害と、それに付随する性被害等にも問題があります。

『ひととき融資』の場合、いずれかの性犯罪に直ちに該当するわけではありません。借主女性が18歳未満でなければ青少年健全育成条例違反(淫行)にはあたりません。

また、貸主とのみの肉体関係(性交渉)であれば、『売春』すなわち不特定の相手方と対価を得て性交をしているともいい難く、売春防止法にも該当しません。さらに、貸主による脅迫がなされたと認められるような言動が裏付けられなければ強制性交等罪にもあたりませ ん。

しかし、肉体関係(性交渉)そのものの問題だけではなく、例えば、

・ホテル代まで支払わされる
・避妊具をつけることを拒否される
・性交渉時の動画や写真を撮影される
・動画や写真をネタにさらに肉体関係や金銭を要求される

といった二次的な被害も受けるケースが多いです。

これらの行為にもそれぞれ犯罪が成立する可能性はありますが、借主女性は、お金を借りているという後ろめたさ、動画などを拡散される恐怖心などから、警察などに相談できないケースも多く、被害として表に出ているのは氷山の一角ではないかと思います」  

●個人間融資に名を借りた恐喝、ヤミ金融の蟻地獄

ーー最近、こうした「ひととき融資」が広まっていますが、個人間融資で気をつける点はありますか?

「銀行やサラ金業者からお金を借りられなくなった方々は、藁にもすがる気持ちで、知り合 いやインターネットで融資をしてくれる人を探します。

まさにそのような方の立場の弱さに付け込んで、違法な貸し付けを行うのがヤミ金業者で す。しかも、一度借りてしまうと、ヤミ金業者側が利息を一方的に上げたり、因縁をつけて 借金額を膨らませるなどして、ヤミ金業者との関係を終わらせないように、搾り取り続けら れるように仕向けてきます。本当に蟻地獄です。

しかし、ヤミ金業者だけではなく、皆さんの身近にも、お金の貸付に応じる条件として様 々な違法な要求をしてくる人は多くいる可能性があります。

個人間の貸付だから利息制限法の規制がないと勘違いしている人、お金を貸し付ける代わりに無償で仕事をさせる人、そして肉体関係(性交渉)を求める人など、私が相談を受けたケースだけでも、非常に多くの個人間融資に名を借りた恐喝が行われていることが多いです。 

このように、銀行やサラ金業者からもお金が借り入れられなくなったら、身近な貸主や、ネットで貸してくれる人を探すのではなく、弁護士に相談に行ってください。仲の良かった友人であっても、お金の貸し借りをすることで人間関係が悪化してしまうケースは本当に多いです。

正規の貸金業者から借り入れができなくなった時点で、返済不能に陥っていて、破産をすべきというケースが圧倒的に多いので、借り換えを繰り返す自転車操業に陥る前に、債務整理や破産申立などをすることで、心に余裕ができますし、無用なストレスを感じる必要もありません。

貸金業者からお金が借りられなくなったら、その時点で弁護士に相談に行ってください」

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