「恐怖の臭い」をネズミに嗅がせると、低酸素状態での生存能力が上がることを、関西医科大学の小早川高(こう)・特命准教授らの研究グループが突き止めた。
ヒトの生存率を高める治療薬としても応用できる可能性がある。英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに6日、発表した。
おいしそうな匂いを嗅いだとき食欲が刺激されるように、においは生き物の行動に影響を与える要因のひとつ。だが、どんなにおいが、どのように刺激を与え、生体に影響をもたらすかは、未解明な部分も多い。
研究グループは2015年、人工的な臭い「恐怖臭」を開発した。ハツカネズミ(マウス)に対し、ネコなどの天敵につかまったときに感じるのと同等の恐怖を与える。煎った豆のような香ばしい匂いにも似ており、嗅いだマウスは逃げたり、体をすくめたりすることがわかっている。
今回の研究では、恐怖臭を嗅がせたり、臭い成分を注射したりしたマウスを、通常なら10~15分ほどで死んでしまう低酸素状態においた。すると、全ての個体が2時間以上生存し、最も長い個体では6時間も生きていた。
長時間の生存を可能にした理由として、恐怖臭がマウスを冬眠のような状態にさせたことが考えられる。冬になるとクマなどの動物は体温を下げた状態で眠り続ける。冬眠中は、通常の活動時に比べてエネルギー消費が少ないので、必要な酸素も少量ですむ。
自然下の冬眠と同じように恐怖臭を嗅いだマウスは、次第に体温が室温近くまで低下し、眠ったような状態になった。そのため、低酸素状態でも長い時間、生存できたとみられる。