「悪代官」のさばる中国 陳情者71%が暴行被害

 中国の民衆は相変わらず、役人からひどい扱いを受けているようだ。中国国務院(政府)直属のシンクタンク、中国社会科学院がこのほど、中央政府機関に官僚腐敗などを直訴するため全国から北京を訪れる陳情者を対象にアンケートを実施した結果、71%が「陳情後に地方当局者から暴行を受けた」と回答していたことが分かった。「拘留された」との回答も64%に上り、陳情者に対する深刻な人権侵害の実態が浮き彫りになった。調査関係者が28日までに共同通信に明らかにした。
 胡錦濤指導部は今年秋の第17回共産党大会や来年夏の北京五輪を控え「社会の安定」を重視しており、今後、腐敗対策に力を入れると同時に、陳情者への取り締まりを強化する可能性がある。
 調査に参加した研究者は「当局者の不法行為取り締まりや陳情対応能力向上が急務」とした上で、司法の独立や地方議会の直接選挙といった「政治改革」に取り組まないと「暴動など社会不安が高まる危険がある」と警告した。
 調査は、当局者に対する不正処罰規定を盛り込んだ改正「陳情条例」(2005年5月施行)の効果を調べるため、昨年12月から今年3月にかけ、中央機関の陳情受付事務所が集中する北京南部で実施。陳情に訪れた労働者、農民ら560人から回答を得た。
 71%が改正条例施行以降「地方当局者による暴行など迫害が深刻化した」と回答、44%が「迫害によって中央政府に対する信頼が低下した」とした。陳情者は官僚腐敗や農地の強制収用への反発を強めており、「地方政府の横暴」(60%)、「地裁判決への不満」(66%)などを中央政府機関に訴えたいと指摘した。
 また「問題が解決するまで陳情をやめない」との回答が85%、「汚職官僚と刺し違える」との回答が60%に上った。
 陳情者の北京訪問回数は平均14.6回で、直近の滞在期間は平均292日間。路上生活を強いられている陳情者が多く、滞在長期化により深刻な精神疾患になった陳情者もいるという。(北京 共同)

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◇直訴村 中国各地から中央政府へ陳情に訪れる人が集まる北京市南部の簡易宿舎群。北京市当局は2006年5月に近接する北京南駅の駅舎取り壊しに合わせ撤去を決定、解体作業が進んでいる。周辺に国務院(政府)や最高人民法院(最高裁)などの陳情受付事務所がある。現在は約2000~3000人が滞在。毎年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)の際は数万人が集まるが、公安当局が大規模な取り締まりを実施して多数を拘束、地方に送り返している。

■「和諧」地方浸透進まず■

 中国社会科学院のアンケート結果は、社会的弱者である陳情者の人権が地方当局によって著しく侵害されている実態を示し、胡(こ)錦濤(きんとう)指導部が掲げる「調和の取れた社会」実現という政策目標が地方官僚らに浸透していないことを見せつけた。
 腐敗対策や貧富の格差是正対策とともに胡指導部の指導力の真価が問われる事態といえ、今年秋の第17回共産党大会や来年夏の北京五輪を控え、対応が注目される。
 調査では「迫害の結果、中央政府に対する信頼が低下」(44%)、「力不足」(46%)など中央政府への批判的見解も多いことが分かった。
 こうした庶民の“指導部離れ”に対し、胡指導部も危機感を強めている。温家宝(おんかほう)首相は先の全国人民代表大会(全人代=国会)で「民衆の利益が深くかかわる問題の解決が不十分」と弱者対策が効果を上げていないことを認めた上で「社会の公平と正義」の実現に努める決意を表明した。
 しかし、共産党の一党独裁下で特権階級となった地方官僚らの横暴を抑え込むのは困難なのが実情だ。社会科学院は「法整備と司法の健全化が不可欠」と強調するが、「本格的な政治改革を行わない限り、(腐敗撲滅の)実効性は乏しい」と指摘する声も中国人研究者から上がっている。(北京 共同)

■農民工の劣悪環境改善へ■

 中国でひどい扱いを受けているのは陳情者だけではない。「農民工」(農村からの出稼ぎ労働者)も低賃金で過酷な労働を強いられている。
 時事通信によれば、北京市の五輪工程建設指揮部は28日、北京五輪施設の建設現場で働く「農民工」について、「生活改善や権利・利益の保護に一層配慮する」との方針を打ち出した。
 これ自体、農民工の権利・利益がこれまで十分に配慮されていなかったことを示すものであり、農民工が劣悪な環境に置かれていることを北京市当局が認めたものともいえる。

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