「成功報酬型」巨額手数料、電通に300億円超…入札骨抜き[五輪汚職 1強支配]

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、東京地検特捜部は18日、大会組織委員会元理事・高橋治之容疑者(78)について、受託収賄罪でみたび起訴する方針だ。巨額の公金が投じられた大会で、一連の不正はなぜ起きたのか。背景には、大手広告会社「電通」が自社の利益を優先し、スポンサー選定の権限を独占した実態が浮かぶ。

■スポンサー各社「知らなかった」

 「スポンサーは単純入札で選ぶ」「報酬手数料は3%」

 東京大会の開催決定から3か月がたった2013年12月中旬。東京都や日本オリンピック委員会(JOC)などは、都庁に集まった電通など大手広告会社4社の担当者にそう提案した。大会組織委員会から委託を受け、スポンサー募集を一手に担う「マーケティング専任代理店」選考の説明会だった。

 業種ごとに最も高い価格を入れた1社を選ぶ「単純入札」は、国際オリンピック委員会(IOC)からの提案でもあった。都側はこの方式のもと、収入目標額を1500億円以上と設定した。「入札ならば公平性や透明性を確保し、手数料を抑えて経費縮減も図れる」。ある組織委元幹部は、当時の意図をそう語った。

 関係者によると、電通は「これでは利益が見込めない」と反発した。単純入札では手数料収入が頭打ちになり、スポンサーにふさわしくない企業が選ばれる恐れもあるというのが理由だ。

 14年2月上旬の社内会議で、担当のスポーツ局は幹部らに「手数料は8%」「単純入札ではない方法で獲得する」との独自案を説明した。この案でスポンサー集めを行った場合、電通の利益は組織委案の約56億円から約131億円に、利益率も約3・5%から約8・2%に上昇するとの試算が示された。組織委に対してはスポンサー料収入の「最低保証額」を1800億円と提案することとし、幹部らから了承を得た。

◇  専任代理店を決めるコンペは2月下旬に開かれ、電通は社長の石井直ら役員総出で臨んだ。電通に次ぐ業界2位の博報堂との一騎打ちとなり、電通は独自案を示した上で、約90社にスポンサー参画の意向を調査した結果として「最大2500億円超の収入が見込める」とぶち上げた。組織委は翌月、「スポンサー確保の道筋が最も具体的」として電通を専任代理店に内定した。

 だが、内定に至るまでの個別交渉では、電通が手数料のさらなるアップを求め、組織委側に最大15%を主張する場面もあった。

 14年12月に組織委と電通が結んだ専任代理店契約は、スポンサー料の累計額に応じ、電通の手数料率が上昇する「成功報酬型」となった。読売新聞が独自に入手した契約書によると、手数料率は1800億円までで3~8%、1800億~2000億円で8%、2000億円超は12%だった。

 こうした仕組みは、組織委とスポンサー契約を結ぶ企業側に伝えられることはなかった。あるスポンサー企業の幹部は「電通の取り分は全く知らなかった。電通の意のままに手数料率がアップしていたとすれば、驚きだ」と語った。

 契約には、単純入札(手数料率3%)での選定も選択肢に残された。だが、別の組織委元幹部は取材に「入札でスポンサーを選んだ記憶はない」と証言。入札が「骨抜き」にされた結果、スポンサー料の価格交渉が可能になり、電通で専務などを務めた高橋が懇意のスポンサーを組織委や電通につなぐ「仲介ビジネス」の余地が拡大した。

 国内68社が支払ったスポンサー料は、五輪史上最高額の3761億円。だが、組織委は「民間契約」として、スポンサーの選定過程や個別のスポンサー料を公表していない。「ブラックボックス」の中で、電通が手にした手数料収入は300億~350億円に上るという。

タイトルとURLをコピーしました