折り畳んで持ち運べたり、クルマに積み込めたりする電動バイクなどが次々に登場しています。その多くが小さなベンチャー企業や中小メーカーから誕生したものですが、既存のバイクを作ってきた大手メーカーは、この動きにどう対応するのでしょうか。
非バイクユーザーに支持される新しい「原付」
2019年2月現在、大手インターネット通販サイトにおけるバイクの商品ページでは、様々な電動バイクが売られています。とりわけ多いのが、折り畳み自転車のようなサイズの小型スクーターです。ナンバープレートを取得でき、公道を走れるものもあります。
折りたためる電動バイク「BLAZE SMART EV」。原付として公道を走行可能で、最大速度は30km/h(画像:ブレイズ)。
そのひとつ、「BLAZE SMART EV(ブレイズスマートEV)」は原付ナンバーを取得できる電動バイクでありながら、重量は約18kgで、5秒もあれば小さく折りたためるというもの。メーカーであるブレイズ(名古屋市西区)によると、2017年12月に発売して以来、現在までに約1500台を売り上げているといいます。価格は12万8000円(税抜)です。
「当社はもともとキャンピングカーのメーカーで、クルマに積めて、旅先でちょっとした足になる商品が欲しいというご要望を多くいただいたことから『BLAZE SMART EV』を開発しました。ですので、原付やバイクのユーザーに直接向けてつくったものではありません。当初、キャンピングカーショーで発表したところ、各メディアで取り上げていただきました」(ブレイズ)
足こぎペダルやチェーンを持ち、折り畳み自転車としても、電動バイクとしても走行できるというものもあります。そのひとつが、カーパーツなどを製造販売していた会社を発祥とするグラフィット(和歌山市)が製造する「glafitバイク」です。こちらも原付ナンバーを取得し、公道を走行できます。
この商品は2017年5月からクラウドファンディングサービス「makuake」で先行予約が始まり、同年7月には、当時における国内クラウドファンディング史上最高となる1億718万円以上の資金を調達したことでも話題になりました。価格は15万円(税込)で、公式サイトと全国のカー用品店「オートバックス」で販売。グラフィットによると、これまでに累計およそ3000台を売り上げているといい、やはり普段バイクや原付に乗っていない「普通免許を持っていて、原付には乗れる」という人を取り込んでいるそうです。
通勤に「電動キックスケーター」
ネット通販では電動バイクなどとともに、「電動キックスケーター」も多くの種類が販売されています。スケートボードにハンドルを付けたような乗りもので、本来は立ちながら足で地面を蹴って走らせるものですが、それに動力を搭載。この「電動キックスケーター」のなかにも、原付ナンバーを取得して公道を走行可能なものがあります。
そのひとつ、アメリカ製の「Airwheel(エアーホイール) Z5」を輸入販売するエアーホイールトーキョー(東京都葛飾区)によると、輸入した商品に、日本でウインカーやバックミラー、リアランプなどの保安部品を独自に取り付けたものとのこと。価格は15万円(税込)です。
「アメリカや中国、欧州ではそのままで公道を走れますが、日本では法規上難しく、こちらでカスタムしてひとつひとつ要件をクリアしていきました」(エアーホイールトーキョー)
公道を走行可能な電動キックスケーター「Airwheel Z5」。(画像:エアーホイール)。
公道対応の「Airwheel Z5」は2017年秋にプロトタイプを製作し、そこから改良を重ねてきたそうですが、ウェブサイトに掲載したところ、問い合わせが非常に増えたといいます。最高速度は約20km/h、1回の充電(家庭用電源で約120分)で最大17km走行と、原付に比べれば非力ではあるものの、重量は11.5kgと軽く、折り畳みも可能。「手軽さが最大の魅力です。趣味で乗られる方もいれば、通勤に使われる方もいます」とのこと。
「Airwheel」シリーズには、「glafitバイク」のように足漕ぎペダルのある折り畳み自転車のようなモデルもあれば、折り畳めないマウンテンバイクのようなモデルもあり、いずれも電動バイクとしても、電動アシスト自転車としても使用可能。原付登録して公道走行に対応するためのキットも用意しているそうです。なお、エアーホイールトーキョーによると、「どちらかというと、よりコンパクトなものが注目される傾向があります」といいます。
ヤマハが動いた!
こうした公道走行可能な新しい電動の乗りものの台頭を、既存の大手メーカーも黙って見ているわけではありません。ヤマハは2019年1月、前出のグラフィットと資本業務提携を結び、同社へ1億円を出資しました。ヤマハのモーターサイクル事業本部として、国内ベンチャー企業へ出資するのは初めてだといいます。
「いまはベンチャー企業や他業種などからモビリティ(乗りもの)分野への進出が相次ぎ、大手と垣根はなくなっています。そうした変革のなか、長年培ってきたノウハウを共有しながら協業すべく、当社からグラフィットさんにお声がけしました」(ヤマハ)
ヤマハとしては今後、既存スクーターの電動モデルを中心に展開しつつ、両社で「glafitバイク」の次期モデルを開発していくとのこと。またグラフィットは今回の資金調達によって経営基盤を強化し、株式上場を目指すとしています。
「『glafitバイク』の次期モデルも『二輪車に乗っていなかったユーザー』を取り込み、移動をラクにするためのツールとして位置づけることは変わりません」(グラフィット)
「glafitバイク」。最高速度は約30km/h(画像:グラフィット)。
原付(50cc以下)の販売台数は、2008(平成20)年に約29万6000台だったのが、2017年には約17万4000台まで落ち込んでいます。そうしたなか、既存の原付ユーザー以外から支持を得ているという小型電動バイク類に、今後さらに注目が集まるかもしれません。
なお、記事中で紹介した乗りものを公道で走らせるには、自転車として使用する場合でも、原付登録、原付運転免許、自賠責保険への加入などが必要です。