横浜・大黒ふ頭沖に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」には、第3管区海上保安本部の巡視艇2隻が派遣され、感染者を同本部横浜海上防災基地(横浜市中区)に搬送した。横浜赤レンガ倉庫に隣接する基地周辺では、市消防局の隊員らが防護服を着て対応。待機していた救急車で市立市民病院(保土ケ谷区)に向かった。
市民病院は神奈川県で唯一の「第1種感染症指定医療機関」で、通院患者の多くが出入りする正面玄関前には報道陣も詰めかけ、午前10時半すぎから、感染者を乗せたとみられる救急車が次々と到着した。
一方、2週間程度下船できなくなったクルーズ船では、5日朝から自室を出ないよう要請があった上、持病のある人の持参薬がなくなるなど不安が広がった。
乗客によると、5日午前6時半ごろ、「日本検疫より、全てのお客様には客室で待機いただくよう指示がございました」と船内アナウンスがあった。同8時20分ごろにも、「10人の方から新型コロナウイルスの陽性反応が出た。この検疫は少なくともあと14日間は続く」と伝えられた。
妻や知人と一緒に乗船している兵庫県宝塚市の会社員、中西恒さん(67)は、約35平方メートルの部屋に妻と2人でとどまることを余儀なくされた。4日早朝に検温などの検疫を受けたが、症状はなく、作業は数分で終わった。船内でショーを鑑賞したり、食事をしたりするなどして過ごし、「新型コロナウイルスのことは話題に上がっていたが、混乱はなく、普通に過ごしている人が多かった」という。
5日朝、食事はルームサービスで提供されるとのアナウンスがあったものの、午前10時半までには提供されておらず、前日にボトルに入れていた水を飲んで空腹をしのいだ。別の部屋で過ごす中西さんの知人は高血圧の持病があるが、「薬がない」と困っているという。中西さんは「40回くらいクルーズ船に乗ったことはあるが、こんなことは初めて。10人も陽性の人がいるとは思わなかった。14日間も閉じ込められた経験はないので、どうなるのか想像できない」と不安そうに話した。
神奈川県は5日午前9時から庁内で対策会議を開いた。黒岩祐治知事は報道陣の取材に「ある程度の方々が陽性ということも想定せざるを得ない。国や医療機関などと情報を的確に共有しながら、機敏に対応していくことが必要だ」と語った。【松本惇、池田直、木下翔太郎】