学習院大学の客員教授になってから丸三年、日常的にZ世代に囲まれて過ごすようになった。講義だけではない。学生たちから「とんとん」と呼ばれ、朝から晩までLINEやSlackで数百人とつながり、若者の大学生活に溶け込む日々をおくっている。本稿では、大学講義におけるアンケート調査を中心にして「Z世代の素顔」と、彼らの先輩にあたる「Y世代との違い」について、客観的なデータも交えながら紹介していきたい。
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世代のギャップはどこから生まれるのか?
Z世代とは、今の8~23歳。映画『ソーシャルネットワーク』が封切られた2011年、iPhone片手に高校に入学した子がZ世代の最年長。若いころからソーシャルメディアで友人とつながるスマホ世代だ。
Y世代とは、今の24~39歳。「Windows95」の登場でインターネットが本格普及しはじめた1996年、ガラケーを持って高校に入学した子がY世代の一番上。ネットのない世界を想像できないケータイ世代である。
世代の価値観や行動に最も影響を与えるものはなんだろう。若者最大の関心事である「恋愛」を例にとって考えてみよう。
X世代(今の40~54歳)の恋愛には多くの障壁があった。僕が高校一年のとき、とある女子校の文化祭で、中学三年の女の子に声をかけた。なんとか電話番号を聞き出した僕は、翌日に会話のメモを握りしめて公衆ボックスから電話したが、受話器の向こうは彼女のお母さんだった。「どんな付き合いをするつもりですか」と問いただされ、悲しみに包まれながら僕は受話器をおいた。
Y世代になると、ケータイが登場して若者の悩みは解決した。気になる子にはいつでも電話できるし、なにより電話にでるのはその子だけだ。さらにショートメールが登場すると、事前に会話のメモを用意する必要もなくなった。ひと呼吸おいて、じっくり戦略を練ってからメッセージを送れる時代になったのだ。
そしてZ世代。手にはスマホが握られ、多様なメッセージが送られるようになった。スタンプ、写真、動画。自然で豊かな愛情表現ができ、愛の言葉は添え物となった。ただし、そこには恐ろしい落とし穴がある。安易に愛のメッセージを送ったりすると、すぐにイツメン(いつものメンバー)のLINEグループにスクリーンショット(スクショ)がまわり、容赦ない品評会がはじまってしまうのだ。だからなのか、出会いアプリも当たり前、そこから普通に恋愛がはじまってゆく。
世代ギャップを考える上で「経済環境」「人口動態」「教育」などの動向はとても大切だ。しかし、18ヵ月で2倍というムーアの法則で成長する「テクノロジー」は、驚くべきスピードで若者の日常生活を進化させており、他の因子と比較してもその影響力は格段に大きい。
今や「テクノロジー」こそが、若者の日常生活や人間関係に大きな影響を与え、その価値観を変化させる最大の源泉であると言えるだろう。
インターネットが生み出した、若者たちの新たな「しきたり」
2007年に「KY」という言葉が流行った。Y世代の女子高生が生み出した「空気を読めない」という意味の略語だ。山本七平著『「空気」の研究』(文藝春秋)によると、「空気の正体は、場に暗黙的に存在する、ある種の前提」であり、この流行語からは「その場にある、暗黙の前提を大切にすべき」という当時の若者の価値観が読み取れる。
過度な連帯意識が生み出す「村社会」、その基礎をなす「しきたり」は、世界でも類をみない同質国家である日本特有の文化(注1)と言える。原田曜平氏は、著書『近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と「新村社会」』(光文社)の中で、インターネットやケータイが生み出した新たな社会構造を「新村社会」という言葉で表現した。
ケータイの普及をきっかけに、携帯メールやSNSやプロフを媒介に、若者が義務性と継続性のある巨大ネットワークを構築し、その結果、若者たちがお互いの顔色をうかがい、「読空術」により協調性を保たなければいけないという、かつて日本にあった村社会のような状況が復活したのです。(中略)私は、この新しい村社会を「新村社会」と名付けました。(同書93ページより引用)
ちなみに、この本で言う「若者」とは「現在(2010年当時)の10代半ば〜20代後半」くらいまでの人たちのことを指します。(中略)この年齢からケータイを持ち始めることで、若者の人間関係は大きく変化しました。(同書25ページより引用)
原田氏の著書は今から9年前のものであり、調査した「若者」は「Y世代」とぴたり符号する。同書が掲げた「新村社会」は、当時の「Y世代の人間関係におけるしきたり」と言ってよいだろう。
Y世代のしきたり
(1)愛想笑いを絶やしてはいけない
(2)弱っている仲間を励まさなくてはいけない
(3)一体感を演出しなくてはいけない
(4)会話を途切らせてはいけない
(5)共通話題をつくりださないといけない
(6)「正しいこと」より「空気」に従わなくてはいけない
(7)コンプレックスを隠さなければいけない
(8)「だよね会話」をしなくてはいけない
(9)恋人と別れてはいけない
この「しきたり」から読み取れるのは、ケータイでつながる「新村社会」に存在する強い同調圧力だ。片時も手放せなくなったケータイが「人間関係をつなぐツール」となり、世代の価値観を形成する基盤となったと推測される。
Z世代はどんな「しきたり」を持っているのか
では、この10年ほどで、若者の「しきたり」はどう変化したのだろうか。今のZ世代は、どんな「しきたり」をもっているのだろう。
「Z世代のしきたり」を明らかにするために、学習院大学の学生を対象として、2019年5月に講義内にてアンケート調査(注2)を実施した。調査の主旨は「ソーシャルキャピタルの光と陰」をテーマにした講義において、「村社会」と「新村社会」の特性を明らかにすることである。対象は大学3、4年生で有効回答数は350件。その結果から「Z世代のしきたり」を探ってみたい。
質問項目は、2016年から2019年の講義で学生たちから回答してもらった「Z世代の新ルール」を集約したものが40問。それに前述した「Y世代のしきたり」(表現をマイルドにした)9問を加えて計49問とした。この49問のうち「人間関係」に関する質問に限定して、際立って共感者が多かった9項目をあげてみよう。なお、この記事内では、回答全体に対する「そう思う」「ややそう思う」の比率を「共感度」と呼ぶことにする。
Z世代のしきたり※人間関係に限定した上位項目(共感度80%以上)
(1)多様性には寛容であるべきだ(95%)
(2)他人から好かれ、仲間として歓迎されることは大切だ(96%)
(3)無理強いやハラスメントはしない(93%)
(4)目上に気を使う(89%)
(5)弱っている仲間がいれば励ましたい(89%)
(6)あわせるのではなく、あう人といる(88%)
(7)異性との友情はなりたつ(82%)
(8)自分の行動が他人にどう思われているか気になる(83%)
(9)知っている人にだけ、プライベートを知ってもらいたい(80%)
これら9項目は、いずれも共感度(「そう思う」「ややそう思う」の比率)が80%以上、つまり5人中4人は共感する項目であり、Z世代の若者に浸透している考え方と言えるだろう。浮かび上がってくるのは、気のあう仲間とつるむが、同時に多様性を重んじ、他人に無理強いをしない、Z世代の価値観である。
なお、回答項目に加えた「Y世代のしきたり」のうち、共感度66%以上となったのは、(5)「弱っている仲間がいれば励ましたい」だけであり、他の8項目はZ世代にとって、さほど共感性が高くないことがわかった。時代はうつりかわっているようだ。
リアルからオンラインへ Y世代とZ世代の「つながり方」の違い
当時のY世代と、今のZ世代のしきたりを比較すると、両者には明らかな価値観の変容があるようだ。特に気になるのは、ネットに対する抑圧の感じ方、多様性への寛容さなどだ。
実は、僕はこの変化を学生たちとの会話から体感していた。「LINEの既読無視、未読無視」に対して寛容な若者が、年々増えているからだ。今回の調査でも「既読・未読無視を許す文化ができつつある」と感じる若者が69%と、「既読・未読無視はよくないことだ」の41%を大きく上回る結果となった。
この変化はどこから来ているのか。つながりをもたらすテクノロジーの視点から考察してみたい。
Y世代のつながりを形成していたのは「携帯メール」だった。mixiや前略プロフなどもあったが、普及はまだ限定的だった。約10年前、若者が電話帳に登録している平均人数は114名。私見だが、X世代の感覚では、学生時代のリアルな友人数はせいぜい50人ぐらい。ケータイの登場によって、中学、高校、大学と過去の友人との断絶がなくなったことで、友人数が増加したことを示唆している。
Y世代のつながり
・いつでもつながる。リアルの友人が基本
・人つながりは、意図しないと途切れずにずっと続く
・つながりの基本は対人であり、グループ単位のつながりは弱い
一方でZ世代のつながりは「多様なSNS」からできている。メールは対人を基本とするのに対して、SNSはグループが基本で、つながりもはるかに多様だ。LINEの平均友人数は187人(2018年マイナビ調査)と、10年前よりさらに交友の輪が広がっていることがわかる。
Z世代のつながり
・いつでも誰とでもつながる。面識ない人もあり
・多様なつながりが、グループ単位で形成されている
・スクショによって、常に会話が公開される可能性がある
新村社会から抜け出したZ世代
考察をまとめてみよう。2000年代に入り、Y世代の若者はインターネットとケータイによって、リアルに接している友人たちと24時間つながるようになった。そのつながりはマンツーマンを基本としており、リアルを補完する位置づけとなった。
学校のクラス、部活やサークル、そして家族という「選択できないオンライン空間」の中でつながったために「今、自分がいるコミュニティで嫌われたくない」という感覚が強くなり、「言えない空気」が醸成された。その抑圧感が「一体感を演出しなくてはいけない」「正しいことより空気に従わなくてはいけない」といった価値観となり「新村社会」を形成していったと推測される。
2019年、Z世代のつながりは、より広く、より多様になった。多様なSNSのうえで、複数のアカウントを使いこなし、自分の多面性を受け入れてくれるコミュニティを選ぶことができる。Z世代は「選択可能なオンライン空間」の中で過ごしているのだ。そこからお互いの価値観を尊重する「言わない空気」が醸成され、「多様性には寛容であるべきだ」「無理強いやハラスメントはしない」「人にあわせるより、あう人といる」といった価値観が生まれてきたのだろう。Y世代の「新村社会」と対比させるために、多様な群れが存在するZ世代の社会を「群社会(むれしゃかい)」と名付けてみた。
もちろん、現在はY世代もSNSの多様性を享受しており、価値観が変容した人も多いはずだ。あくまで「Y世代が学生だったころの価値観」の話である。ただし「SNSで複数アカウントを使い分け」するのは、Z世代38%に対してY世代8%、「直接あったことのない人とSNSでやり取り」するのは、Z世代34%に対してY世代17%(注3)と、SNSの使い方に関して、ソーシャルネイティブなZ世代と、あとから学んだY世代とは大きなギャップがあることがわかっている。
まとめると
・Y世代は、選択できない「新村社会」の中で「言えない空気」を感じて育った世代
・Z世代は、選択できる「群社会」の中で「言わない空気」を感じて育った世代
であると推測できる。
世代論の常だが、人々の価値観は多様であり、この内容がすべての方にあてはまるわけではない。あくまで世代を塊として捉えた場合の比較であることを了承いただければ幸いである。
最後に、僕がいつも一緒に過ごしている「イノベーションチームdot」(注4)のメンバーたちが、自分たちの内面を探求して発見した「Z世代のインサイト」を紹介して記事を締めたい。
過去の私、今の私、あっちの私、こっちの私。
私にとって「居心地のいい場所」を見つけたい
「過去の私」は中学や高校の友人と、「現在の私」は大学の友人とつながっている。「あっちの私」はバイト先の仲間と、「こっちの私」は部活やサークルの仲間とつながっている。「私」はそれぞれの「群」の中で、少しずつキャラクターが異なるし、これからも人間関係は変わっていくだろう。多様なつながりの中で、いつも「居心地のいい場所」に自分をおいていたい。そんなZ世代の深層心理が表現されたものである。
Z世代は、個性や価値観、人間関係の多様性を理解し、それを当たり前に受け入れる。多様な世界の中で「自分自身の居場所」はどこかを常に探っている世代だと言えるだろう。
Z世代への質問大募集!
2019年7月9日(火)に大崎ブライトコアホールで開催する「MarkeZine Day 2019 Focus」に、本連載の著者である斉藤徹氏と、Z世代を研究しているdot代表の冨田侑希氏が登壇します。
当日は、「Z世代に聞く!デジタルネイティブ層のSNS活用とインサイト」と題し、Z世代の特徴や価値観を紹介。さらに、後半には4タイプのZ世代が登壇し、「SNSの使い分けは?」「Instagramでモノは買うの?」など、SNSマーケにまつわる質問にその場で答えます。
現在、当日Z世代に聞きたい質問を募集しています。ぜひこちらからご応募ください。
補足資料
(注1)日本の特殊性について
世界の中で同一民族の割合が全人口の95%以上を占める国家は日本、韓国、北朝鮮、アイスランド、ポルトガルなどあるが、その中でも日本は、最大の人口を持ちながら単一民族に近く(アイヌは0.018%)、言語も統一された、世界でも稀な同質な国である。
(注2)調査の概要について
調査手法 :講義受講学生に対してアンケート用紙を配布して記入してもらう
調査対象 :学習院大学講義「企業経営とソーシャルキャピタル」受講者
配布枚数445名、うち有効回答枚数350枚
調査日時 :2017年5月21日
回答者属性:大学3、4年生(年齢分布は20〜23歳)
回答項目 :2016〜19年の同講義における学生回答をもとに「Z世代のルール40問」
として集約。それに「新村社会のルール9問」を加えて合計49問とした
選択項目 :「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」
特記事項 :アンケートでは世代間の変化を見るために、回答項目に「Y世代のしきたり」
を回答項目に加えたが、語尾によるニュアンスを統一するために、意味を大切
にしながら、やわらかい表現に変更した。たとえば
(元)弱っている仲間を励まさなくてはいけない
(新)弱っている仲間がいれば励ましたい
(注3)SNSの使い方の調査
出典元は「Z世代レポート(2018年版)」(Z世代会議)
(注4)イノベーションチームdot
約3,000名に対する「Z世代レポート調査」などを通じて、日常的に「Z世代のインサイト」を研究している学生組織。2016年に創立、メンバーは160名を超え、株式会社化もしている。