私は東京23区のうち16区内で販売される新築マンションについて、1物件ずつ現地を 確認して「資産価値レポート」というものを発行。ネット上で販売している。そのほか、東京都下や神奈川、埼玉、千葉、茨城エリアで販売されている大規模マ ンションや、大阪市内のタワー、京都市内の新築物件も「資産価値レポート」でカバーしている。
最近の傾向は、ハッキリとした二極化である。まず、東京都心や京都の御所周辺では価格がバブル化しているにもかかわらず、それなりに売れている。ところが、郊外になると途端に売れ行きが不振となる。この違いが鮮明過ぎるのだ。
これはかなり危険な兆候だと思う。その理由は、現状のような市場価格の形成は、何かのきっかけで一気に崩落しかねないからだ。
まず、郊外の新築マンションが売れないのは、需要者である中堅所得者の購入意欲が薄いからである。2014年の4月に消費税が8%になった。その後、円安 などで物価は上昇気味。電気などの公共料金も値上がりしている。であるにもかかわらず、給与所得はほんの少ししか伸びていない。
つまり、実際の可処分所得は減っている。それでは「マンションを買おう」という気分にはなれない。だから、郊外では新築マンションが売れない。
一方、東京の都心や京都の御所周辺で値上がりした新築マンションを買っている日本人は、明らかに富裕層である。彼らは相続税対策や賃貸運用の投資目的で購入している。
さらに円安で割安感を抱いている外国人の購入も結構な割合になってきている。特に、湾岸や都心のタワーマンションは、外国人にも「分かりやすい」不動産投 資。今の東京都心のバブル的な新築マンション市場は、この日本人富裕層と外国人投資家という2大需要に支えられている。だから危険なのだ。
こういった需要は「自分で住む」という実態がない。自分で住んでいないから「いつでも売れる」状態である。誰かに賃貸していても売却は可能である。
郊外では実需の動きが鈍く、都心では投資や相続税対策での購入に支えられている新築マンション市場。つまり、どちらも「住むため」という健全なニーズは極めて弱い状態なのである。
ただでさえ、今の日本は空き家の多いことが問題になっている。地方の郊外に行くと、不動産はほとんどタダ同然の資産価値しかもたない。実際、ほぼ日本全国 で賃貸市場は冷え切っている。それは、新築と中古マンション市場がバブル化している東京都心でも同じ。恐ろしいギャップである。いつか市場によってしっか りと調整されるはずだ。
この国の住宅は、現状でも明らかに供給過剰で、マクロ的に考えれば、新築住宅を作って市場に供給する必要はない。それでも毎年80万戸ほど着工されている。近い将来、日本は世界に冠たる空き家大国になる。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。1962年、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に 20年以上携わる。不動産会社の注意情報や物件の価格評価の分析に定評がある(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収200万円か らのマイホーム戦略」(WAVE出版)など。