国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になった。50年後の2070年には総人口が約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。
ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。
ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。
※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。
晩婚化で新築より中古に目が向く人が増える
新築住宅に関しては晩婚化が押し下げ要因になりそうである。
住宅はローンを組んで購入する人が大半だ。月々の返済額を考慮すれば若いほうがローンを組みやすい。
ところが、住宅取得年齢が晩婚化で40代半ば以降となれば、月々の返済額が大きくなるので取得する物件の価格の方を抑え込みたいという人の割合が相対的に増える。新設住宅よりもリーズナブルな中古住宅へと目が向く人が増えることとなるだろう。
実は、これまでも新築住宅の着工戸数は多少の変遷を重ねながら減少カーブを描いてきていた。30代前半の減少に晩婚化の影響が加わって、今後は新築住宅の取得者はさらに下落の道をたどることになるだろう。
野村総合研究所の推計(2022年)は、新設住宅の着工戸数は2021年度の87万戸から、2030年度は70万戸、2040年度には49万戸へと減少していくと見込んでいる。
2030年度の利用関係別の推計は、持ち家(自分が居住する目的で建築する物件)25万戸、分譲住宅(建て売りまたは分譲目的で建築する物件)17万戸、給与住宅を含む貸家(賃貸する目的で建築する物件)28万戸だ。新築といっても、自宅として建てる人は案外少ない印象である。
一方、野村総研は、中古住宅の流通量も予測しているが、2018年の16万戸から、2030年に19万戸、2040年には20万戸へとゆるやかだが増加するとの予測だ。
ただし、晩婚化で増加すると言っても「横ばい」と言っていいほどの増加率である。新築住宅の着工戸数の目減り分を補うほどの規模とはならないのは、住宅を購入し始める30代~40代の減り方が大きいためである。新築か中古かの区別とは関係なく、住宅取得の総数が全体的に減っていく。
150万戸の空き家再生
今後、新築物件を減らす要因は、既存の中古住宅市場における取引の活性化だけではない。新たな要因となりそうなのが空き家の再生である。
政府は活用を進めていく方針だ。国交省の資料によれば、簡易な手入れによって活用可能で、しかも最寄り駅から1キロメートル以内という空き家は全国に約50万戸(一戸建て約18万戸、共同住宅等が約32万戸)ある。
最寄り駅から1キロメートル以内の好立地だが腐朽破損しているものが約46万戸、耐震性不足の物件が約56万戸ある。これら約102万戸を合わせた約152万戸について、政府は改修や建て替えなどを施して「住宅」として蘇らせることを想定している。ますます新築物件の建築数を押し下げることになろう。新築需要が少なくなれば不動産の資産価値そのものが下落する可能性も出てくる。
住宅取得年齢層の縮小に加えて、「空き家」の再生が本格化してくると、新築物件を主力としてきた住宅メーカーや不動産会社は収益モデルの見直しを迫られる。中古販売をこれまで以上に強化しなくてはならなくなるだろう。
他方、中古住宅市場の活性化は、リフォームの市場規模の拡大につながる。野村総研はエアコンや家具、インテリア商品の購入費などを含めたリフォーム市場は年間7兆~8兆円台で推移すると見積もっている。
人口減少は、住宅メーカーや家具メーカー、不動産会社など「住まい」に関係する各産業の役割を大きく変えていく。
つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。