ファクトチェックすると
旧日本軍慰安婦被害者だと主張してきた李容洙(イ・ヨンス・92)さんが2月16日に記者会見を行った。慰安婦問題を国際司法裁判所に持ち込むべきだと文在寅大統領に要求し、その根拠に「日本の悪事」を並べ立てたのだが、ファクトチェックするとフェイクばかりで、「偽物慰安婦」説がくすぶり始めたのだった。
【写真】1日に何十人もの米兵と……【歴史の闇に葬られた「日本人慰安婦」たち】
李さんは会見で、「ソウル地方裁判所が1月8日、日本政府に対し原告12名に一人当たり1億ウォン(約950万円)の支払いを命ずる判決を下したが、日本は“国際法違反”だと言い放ち、判決を無視している。また、米国ハーバード大学のJ・マーク・ラムザイヤー教授を使って、嘘をついている」と言及した。
「ラムザイヤー教授」というのは、先頃、「日本軍慰安婦は公認された売春婦であり、日本に拉致されて売春を強要された『性奴隷』ではない」と主張する論文を発表した知日派を指す。
さらに李さんは、「もう方法がない。韓国政府が国際法の下で日本の罪を明らかにすべきだ」、「国際司法裁判所で公正な判断を受けて、完全に解決し、両国が親しくなれば良い」と発言。会見は1時間に亘り、李さんは自らの主張を涙ながらに訴えたのだった。
今回の会見を開催したのは、日本軍慰安婦問題ICJ回付推進委員会(推進委)という団体である。
推進委は、これまで慰安婦問題に関する運動を行ってきた「正義記憶連帯(正義連、旧:挺対協)」とは異なる。
推進委は、「賠償と教育のための慰安婦行動」(CARE)のキム・ヒョンジョン代表や延世(ヨンセ)大学法学研究員の申熙石(シン・ヒソク)博士、慰安婦歴史館を運営する「慰安婦と共にする市民の会」のソ・ヒョクス代表など、これまで李容洙さんの活動を支援してきた専門家・活動家ら、韓国内外の市民団体や国際法専門家で構成されている。
会見には、100名近い記者たちが詰めかけ、さらにフェイスブックでライブ配信も行われた。会見後、各メディアが大きく取り上げた。
<フェイスブック会見映像>
https://fb.watch/3HzkHz3b7p/
「日本は今も無法振り」のウソ
それでは、李容洙さんが呼びかけをした内容とその真偽について検証したい。
(1)日韓併合当時、朝鮮は無法地帯で、日本の巡査が長い刀を下げて歩き回り、言うことを聞かなければ刺して殴ってきた。
→日本が韓国を併合したとき、「憲兵警察」と「一般警察」を合わせた人数は、7712名で、そのうち4440名が朝鮮人だった。「憲兵警察」は2019名で、そのうち朝鮮人の憲兵補助員は1012名。すなわち半数以上が朝鮮人だった。「日本の巡査」という表現は誤解を招くものであるし、そもそも「無法地帯」などではなかった。
(2)30年間同じスローガンを叫んできたが、何も変わっていない。
→何も変わらない原因は慰安婦問題をビジネスとして展開してきた正義連と韓国政府にある。
日本は1995年にアジア平和基金を設立し、また2015年の日韓合意で謝罪と賠償を行った。特に2015年の合意では、正義連の代表だった尹美香(ユン・ミヒャン)も調整役として何度も会談に参加した。
尹美香は日本政府にカネを要求する一方、元慰安婦が日本政府から直接カネを受け取ることができないように脅迫したことが、他ならぬ李容洙さん自身が昨年行なった暴露会見で明らかになっている。
(3)米国で決議案も可決させ、サンフランシスコに碑も建てた。裁判も行った。しかし、日本は今も無法振りを見せている。
→米国で決議案を可決させた中心人物のマイク・ホンダ氏は、中国系反日団体「世界抗日戦争史実維護(保護)連合会」の全面支援を受けていたことが明らかになっている。そもそも米国の決議に日本は関与できないのが原則だ。
「謝罪を受けたい」と言うが
(4)慰安婦問題に関して韓国の裁判所で勝訴したが、日本は控訴すらせず無視している。しかも、韓国の裁判所が国際法に違反したと言い張り、ハーバード大学の教授を使って嘘をついている。
→教授は論文で「慰安婦=売春婦」だと発表した。危険の大きい戦場に向かうため、女性らは短期契約を要求し、募集業者は女性らにインセンティブを与えるなど厚遇を保証していたことが、複数の資料から裏付けられている。
また、慰安婦問題が提起されてから30年、官憲による強制連行を証明する資料はただの一つも発見されていない。
(5)私はお金をくれと言っているのではない。完全な認定と謝罪を受けたい。
→慰安婦問題が明らかになった当時の宮沢喜一政権は、元慰安婦への日本による直接の聞き取りと認定を求めたが、韓国政府が拒絶。
また、小泉純一郎元首相は元慰安婦1人1人に謝罪の手紙を書いて、アジア女性基金の償い金と一緒に渡したが、尹美香が受け取らないように説得したとされている。認定、賠償、謝罪のいずれも韓国側が拒絶したのである。
(6)韓国政府が国際法で日本の罪を明らかにしてほしい。国際司法裁判所で公正な判断を受け、完全に解決し、両国間を仇とせずに親しく過ごしたい。
→日本政府が国際司法裁判所で争うことを表明したとき、韓国政府が拒絶した。韓国政府に勝てるという確信があるなら、すでに国際司法裁判所に持ち込んでいるはずである。
(7)両国の学生のために、互いに知り合い、親しくなりながら正しい歴史の勉強をしなければならない。
→韓国は独自の解釈による歴史教育を行っている。韓国の教職員労組が反日教育を行っている現状で、正しい歴史教育を学生に受けさせることが可能かどうか、甚だ疑問である。
(8)文在寅大統領も被害者女性たちの意思を反映した解決が重要だと言った。それは、30年間ずっと叫んできた7つの要求事項(戦争犯罪の認定、真相究明、公式な謝罪、法的賠償、犯罪者処罰、歴史教科書への記録、追悼碑と資料館の建設)で、最も重要なのが、責任の認定、公式な謝罪である。
→日本政府は2015年の日韓合意に基づいて賠償金を支払ったが、文在寅大統領が合意を破棄し、また、日本政府が行なった責任の認定と公式な謝罪は、韓国政府と正義連が破棄または拒絶した。責めるべきは韓国政府と正義連である。
本当に元慰安婦なのか
これらの呼びかけ文は、李容洙さんの発言を「賠償と教育のための慰安婦行動」のキム・ヒョンジョン代表と「慰安婦と共にする市民の会」のソ・ヒョクス代表が共に書き記し、李容洙さんが再度練り直したという。
李容洙さんが元慰安婦として、30年間に起こった事実を正しく認識しているなら今回のこのような会見を開いて、世間に対して呼びかることはなかったはずだ。
会見では冒頭で、亡くなった元慰安婦に黙とうを行なった。生存していた元慰安婦のなかで、最高齢だったチョン・ボクスさんが12日に亡くなったばかりである。ご冥福をお祈り申し上げるが、これまで106歳と公表されていたチョンさんの実際の年齢は98歳だったことが死後に判明している。
当事者の年齢すら正確に把握できていない団体や韓国政府の主張を、どう信じればいいのだろうか。92歳とされている李容洙さんの年齢も正しいかどうかわからないし、本当に元慰安婦なのかという疑念はくすぶり続けている。
そもそも李さんが会見で主張した慰安婦に関する問題は、すべて韓国国内で解決させるべき事案である。
国際司法裁判所に持ち込んだとしても、韓国政府と行った国際合意を原則としてきた日本が敗訴する可能性はない。韓国の恥をさらすだけだ。
羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。
デイリー新潮取材班編集
2021年2月19日 掲載