「日本最古の紙幣」の実態 同朋大研究者ら、国際会議で発表へ

 17~19世紀に幕府直轄領「伊勢国山田」で流通し、「日本最古の紙幣」とされる「山田羽書(はがき)」について、11日からポーランドのワルシャワ大学で開催される国際貨幣学会議(INC)で日本の研究者が歴史と実態について発表する。

 発表するのは、同朋大仏教文化研究所員の千枝大志さん(45)=社会経済史。

 千枝さんによると、山田羽書は、幕府直轄の山田奉行所の差配で、伊勢神宮の参拝者の案内役「御師(おんし)」や伊勢商人によるグループが発行していた小額紙幣。現地の経済規模に比べて硬貨の流通量が少なかったことから生まれた信用手形システム。世界最初の銀行券はスウェーデンのストックホルム銀行が1661年に発行した信用券。山田羽書は、これに先んじる。

 千枝さんは「山田羽書は、1875(明治8)年まで、近世から近代にかけての約250年にわたって流通した。こんな地域紙幣は世界でも類例がなく、奇跡の経済システムだった」と地域経済を支えた知恵であったことを評価する。

 江戸期に各地の藩が発行した地域流通紙幣「藩札」にも詳しい千枝さんは「国内の多くの藩も経済対策で藩札を発行したが、これほど長く流通することはなかった」と指摘。山田羽書を支えていたのは、「幕府の差配、全国から参拝者が訪れる伊勢神宮の地の経済の信用、紙幣発行者同士の信頼関係。これに尽きる」と話す。

 千枝さんが発表資料として用意するのは、1729(享保14)年に地元の材木商「長田庄右衛門」が製作した「一匁(もんめ)札」の試作品と、1863(文久3)年に長田家の子孫が発行していた「弐分札」(現在の約200円)の写真。実際の現金の量とのバランスを見極める能力のある豪商が家業として羽書発行を受け継いできたことなどを解説する予定という。

 このほか、研究発表を行う3人は、高木久史大阪経済大教授(経済史、博物館学)▽櫻木晋一朝日大教授(貨幣考古学)▽古賀康士・九州産業大講師(人文社会情報学、経済史)。【尾崎稔裕】

INC(International Numismatic Congress)

 日本では「国際貨幣学会議」と表記される。貨幣の歴史、経済学や社会学、民俗学などなど幅広い研究を対象とする「貨幣学」についての情報を交換する国際組織。各国の博物館や大学関係者だけでなく古銭コレクターやオークション関係者らも加盟する。5~6年ごとに世界各地で開催される会議で、各国の研究者らによる報告会などが行われている。今回のポーランド開催は第16回大会。

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