「日本株式会社」の中国投資熱冷める-政治と無縁の時代終焉

日本企業は、かつて政治とは無縁と見られていた中国ビジネスへのアプローチを放棄するようになっている。中国への最大の投資家だった時代からの大きな転換となる。

  地政学的リスクや中国の経済成長鈍化に対する懸念が強くなり、日本企業にとって中国への投資はもはや割に合わなくなっている。日本製鉄は7月、中国・宝山鋼鉄との合弁事業を解消すると発表三菱自動車は昨年、中国での生産から撤退することを決めた。自動車販売の低迷や中国での電気自動車(EV)への急速なシフトが背景にある。

  最近の調査によると、中国に進出している日本企業のほぼ半数が、今年は投資を増やさない、あるいは削減すると回答。賃金の上昇や価格下落、地政学を最大の課題として挙げた。

  「日本と中国の経済的な関わりはピークを過ぎた」と、ロンドンの国際戦略研究所(IISS)の地経学・戦略ディレクター、ロバート・ウォード氏は指摘。ハードルは米中のハイテク競争から台湾海峡の緊張の高まりまで多岐にわたり、日本企業の態度の変化において「地政学が重要な要素」となっていると語った。

  日本政府は40年余り前に低金利で何兆円もの対中開発援助を開始。それ以来の経済的結び付きにゆっくりと亀裂が入りつつある。「政冷経熱」と学者らが表現するように、難しい問題を多く抱える日中関係において商業と貿易は柱となっていた。

  しかし今回、地政学的な冷風が抑えきれないほど強まっていることが判明している。

  日本の中国向けの海外直接投資(FDI)が1-3月(第1四半期)に2016年以来の水準に落ち込んだことで、今年の新規FDIは23年に記録した数年ぶり低水準付近で停滞する見通しだ。昨年末までに対中FDIのストックを1300億ドル(約18兆5700億円)近くに積み上げてきた日本企業にとって大きな転換点となる。

Japan Inc. Not Spending Much in China

Investment slumped in the past few years, with no sign of improvement

Bloomberg - Are you a robot?

Source: Japan’s Ministry of Finance.

  かつては日中関係の緊張は投資にあまり影響を与えなかった。10-12年に領有権問題を巡る対立で中国政府がレアアースの日本向け輸出を一時的に停止した時期でさえも、日本企業は投資ストックを年平均13%増やした。

  中国は減少傾向を懸念しているようであり、日本企業の投資をさらに呼び込もうとしていると、中国政策に関わる当局者が匿名を条件に語った。

  8月に中国軍用機による日本の領空侵犯が初めて確認され、その直後に中国海軍の艦艇が日本の領海内に一時侵入するなど、政治的な背景は穏やかなものではなくなっている。

  6月には江蘇省蘇州で日本人の母親と子供がバス停で刃物を持った男に襲われ、負傷する事件が発生。中国国内の日本人社会に不安を広げ、学校の警備強化につながった。中国政府はこれを「偶発的な事件」と見られると説明している。日本大使館の報道官によると、現在も蘇州市当局に事件の詳細な情報の提供を求めているという。

  日本の製薬会社社員が昨年逮捕されたことも中国における日本人の安全に対する懸念を高めた。この男性社員は最近、スパイの罪で起訴された。

  日本企業は、より広範囲な地政学的緊張にも巻き込まれている。米国は中国による先端半導体技術へのアクセスを阻止する戦略で、日本など同盟国に歩調を合わせるよう求めている。一方、中国は日本に対し、中国企業への半導体製造装置の販売および関連サービスの提供をさらに制限すれば、厳しい経済的報復措置を講じると警告している。

  一部の日本企業は、中国をチャンスではなく脅威として捉え始めている。日本の大手商社の社長は、比亜迪(BYD)などの中国企業が急速に市場を拡大している東南アジアなどで日本企業が競争できるよう政府に支援を呼び掛けている。

  日本製鉄は中国への投資をいち早く始めた企業の一つだが、今や中国でのビジネスがUSスチール買収計画の障害となっている。米政治家らは、日鉄の中国事業を国家安全保障上の脅威の一つに挙げている

他の国・地域にシフト

  中国以外のアジアやその他地域に重点をシフトしつつある日本企業にとって、中国経済の不振が重しとなっている。中国日本商会の調査に回答した1760社のうち60%は、経済状況が昨年比で悪化していると答えた。

  日本の輸出業者にとって中国の重要性は、かつてほどではなくなっている。輸出に占める中国の割合は昨年18%未満と、15年以来の低水準となった。輸出額は米国と欧州連合(EU)向けが二桁の伸びとなったのに対し、中国向けは約7%減少。その結果、米国が4年ぶりに中国を抜いて日本にとって最大の輸出市場となった。

US Regains Position as Japan’s Largest Export Partner

Shipments to China have stagnated in past 18 months

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Source: Japan’s Ministry of Finance

  コマツは中国の景気鈍化や建設業界低迷、競争激化により、同国での販売が大幅に減少。24年3月期に中国での建設・鉱山機械の売上高は、19年のピークとの比較で57%減少したが、同じ期間に世界全体の売上高は46%近く増加した。

  日本の外務省によると、昨年時点で中国に進出している日本企業は約3万1000社と、20年との比較で約10%減少している。同じ期間に約4000社が世界の他の地域に拠点を開設した。

  日中経済協会の宮下正己北京事務所長は、日本企業が現在、赤字を食い止めるため事業の再編を行っていると指摘。投資を行う時期ではないと語った。

  青島市で最近開催された外国企業誘致を目的とした会議でも、同様に厳しいムードが漂っていた。ブルームバーグの取材に応じた日本人経営幹部6人のうち、投資拡大を計画していると答えた人は1人もおらず、今年および来年の経済について楽観的な見方はほとんど示さなかった。

Chinese Car Sales Slumping Since Peak

Sales in the first half of 2024 down 35% from 2021

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Source: China Automotive Technology And Research Center, Bloomberg

Note: Shows rolling 12-month average sales

  全ての日本企業が後ずさりしているわけではない。

  日本経済新聞によると、パナソニックホールディングス(HD)は中国で家電事業などを強化するため3年で500億円超を投じる計画。神戸製鋼所は最近、中国企業との合弁会社設立を発表した。

  しかし、こうした動きでは経済関係の修復には不十分なようだ。

  中国企業は競争力を増しており、地政学的な米中対立で日本企業は半導体や新しい技術など一部分野への対中投資を控えるようになっていると、東京大学大学院教授・地経学研究所長の鈴木一人氏は話す。

  日本企業は中国経済がすぐに回復するとは見込んでいないため、投資を増やすことは理にかなわず、地経学的な懸念や透明性の欠如といった他の要因により、以前のような大規模投資は難しくなるだろうと、鈴木氏は指摘した。

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